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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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34 雪の降る夜になりて

 カーチャ隊長がチーターを無力化したのを確認すると私はすぐに後方で待機させていたコルベットを呼び出した。


「ゾフィーさん! コルベットに乗って補給を済ませて!」

「ありがたい。それにしてもよく私の燃料状況に気付いていたものだね?」

「……大体は想像が付きますよ。アレだけ空を飛び回っていたらね」

「ああ、そういうものかね。さすがはマーカスさんとこのコーディネイターだ」


 カモR-1の中にホワイトナイトが隠されているとは思わなかったものの、数十トンの、それも飛行に適しているわけでもない形状の機体をスラスターの推力だけで飛行させていたのだ。


 本来はカーチャ隊長の愛機であり、今はマーカスが乗るホワイトナイト・ノーブルの燃費を知る私が真っ先に懸念していたのは推進剤の消耗である。


 幸いにして私が想像していたようなチーター相手に何十分も時間を浪費させられるという羽目にはならなかったものの、それでも空中船団はすでにだいぶ北へと向かっている。


 カーチャ隊長と私たちがコルベットに着艦した後にホワイトナイトに補給を行う時間があるというのはある意味で僥倖と言えるかもしれない。


「ヨーコ! 悪いけど、ゾフィーさんのホワイトナイトにはギリギリまで補給をさせたい! その間はもしかしたらパイドパイパーで戦う事になるかもしれない」

「分かってるよ~! 私たちが生き延びる可能性を少しでも上げるためにはホワイトナイトを最大限に生かす必要があるって事くらいはにぇ~」


 地表ギリギリまで高度を落としてきたコルベットに私とカーチャ隊長が飛び乗ると早速、白騎士は格納庫に入り、待機していたアシモフ・タイプによって風除けのシャッターが閉じられる。


 私はパイドパイパーを格納庫前の甲板に立たせ、自身の機体を盾とする。

 何せこのコルベットは艦自体がほとんど装甲が無い小型の物。格納庫のシャッターが“風除け”というのは紙装甲の比喩でもなんでもなく言葉通りの機能しかないのだ。


 そしていかにホワイトナイトといえども無防備な状態では脆いという事を私は自身の担当サマからよく教え込まれている。


「お姉さん、サブマシンガンのマガジンを交換しておいたらどうだにぇ?」

「あ、お、おう、そうだな」


 圧倒的な敵の物量にそれに怯む事なく戦いを挑んでいくカーチャ隊長とカミュ。

 さらに予想外のチーターの登場とカモR-1の正体。


 緊張の連続のせいか、私は弾倉交換の事など頭の隅にも無かった。

 慌てて確認してみるとパイドパイパーのメインウェポンであるサブマシンガンの弾数は残り8発。


 本来は私のようなユーザー補助AIはその性格に基づいて技量の拙い担当プレイヤーに対して助言を行うような機能があるのだが、今回は計らずともそれを私がヨーコにされてしまった形。


 やはり緊張のせいだろうか?

 それともマーカスがいないせいだろうか?


 どんな困難であろうと何とかしてくれるんじゃないかと思えるあの素っ頓狂なオッサンが今そばにいない事がこれほどに心細いとは……。


 落ち着け。


 少なくともマーカスと離れている以上、カーチャ隊長に頼らなければならないのは間違いないハズ。

 ならばここは彼女のホワイトナイトに補給してもらうのも間違ってはいないだろう。


 私は深呼吸をして周囲を見渡す。


 甲板上で擱座したローディーの烈風はアシモフによって動けないように処置がされた後で艦から落ちないようにとワイヤーで固定されたようだ。


 再び高度を上げながる艦から見える空はもうほとんど夜といってもいいような暗さとなっていて、それが私たちがこれから行く道程を暗示しているようである。


 だが、そんな空にキラリと輝くものがあった。


「……雪か」

「はえ~……、私、初めて見たよ~!」


 空から舞い降りてくる白い小さな欠片。

 ただそれだけでヨーコがこれまで聞いた事もないような子供らしい声を上げる。


 それは自身に押し付けられ、そして受け入れざるを得なかった重圧から解放された歳相応のもので、当然ながらそれは一瞬のものだろうが、私も「守ってやらなきゃな……」とファイトを新たにさせてくれた。


 冷たい雪で胸の中が熱くなるというのもおかしな話だな、と私はクスリと笑っていた。

 雪とヨーコのおかげでいくらか私の心中も余裕が戻ってきたようだ。


 そうだ。

 マーカスが船団から離れたという事は、私たちでこの場は対処可能という事。

 ならばできる限りの事をすれば切り抜ける事はできるハズ。


「キャプテン、船団本隊の方はどうだ? 長距離ミサイルで支援はできないか?」

「長距離ミサイルならば射程内ですが、残弾が……」

「構わねぇだろ? 本隊に被害が出てから後悔するよりかはマシだ!」

「了解しました。データリンク後にミサイル攻撃を開始します。VLS周辺からは退避してください」


 元より格納庫の真ん前に陣取っている私には移動の必要は無かった。


 すぐに垂直発射管から煙が噴き出してきて大型のミサイルが連続して天へと昇っていく。


「助かったぜ! こっちもミサイルを撃ち切ってたんだ」

「おう! こっちもすぐに合流する。ゾフィーさんの機体も推進剤を補給中だ」

「カミュ! スマンが合流するまで持ちこたえてくれ!」

「オーライ! 敵も速度を上げてきてますけど、なんとかビーム砲で凌げてます。だいぶ外気温が下がってますからね、冷却効率が上がっているようです!」


 思ったとおり、船団の護衛に残してきたカミュと2隻のコルベットは武装の消費が激しいようだ。


 コルベットの単装ビーム砲は遠距離でも輸送機相手ならば十分な威力を持つのだろうが、それでもそもそも連射の効かないクールタイムの長い兵器である。


 ミサイルを撃ち切ってしまった現状、カミュはコルベットのビーム砲を突破してきた輸送機を零式のビームライフルで迎撃して何とか遅滞戦闘を行ってきたのだろう。


 いかにオンボロのコルベットとはいえ、零式のセンサー類から共有されたデータを元にすれば段違いの射撃精度となるということも大きい。


 だが、良い事ばかりというわけでもなかった。


「新手!? しかも今度は西からだと?」

「そろそろマーカスさんが指定したポイントに向かうためには西へ舵を取らねばなりませんが……」


 新たにレーダーに捕捉された敵部隊はこれまでと同じく傭兵組合のHuMo搭載型輸送機。

 だが位置が問題であった。

 “あの場所”へと向かうためには新手と正面からぶつからなければならない。


 どうしたものかと頭をフル回転させるものの、名案など出てくるハズもない。

 だが、その時、待望の良く知る声が通信から聞こえてきた。


「お待たせ! 東の敵は俺に任せて、ゾフィーさんたちは西の新手の対処に向かってくれ!」

「マーカス!!」

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