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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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26 知り合い

 それからしばらくは私とカミュ、それと3隻のコルベット艦はカーチャ隊長の攻撃を掻い潜って船団へと迫る敵を迎え撃っているだけでよかった。


 いくらオンボロ旧式のコルベット艦が低速小型といえどもカーチャ隊長のカモR-1とカミュの零式からもたらされるセンサー情報をもとに射撃を行えば艦載ビーム砲は一撃で輸送機の主翼やエンジンを撃ち抜き、ミサイルやCIWSの火線はせっかく迫ってきていた輸送機や敵HuMoを回避させることで減速させることも容易い。


 私の出番といえば最後の最後。

 陣形を広げる事でカーチャ隊長の猛攻を掻い潜り、コルベット艦や零式のビーム射撃で撃ち漏らした敵機を撃つだけでよかった。


「おい。カミュ! ペース配分間違えんなよ!? もう少しこっちに回してもいいぞ!!」

「心配すんなっての! 飛行中の艦に乗ってるせいかビームライフルの冷却は余裕がある! そっちこそ後ろに依頼人が乗ってる事を忘れんな!!」


 今も真正面から突っ込んでくる輸送機のエンジン目掛けてサブマシンガンを連射すると、砲口から放たれた火球はまるで誘導装置でもついているかのように面白いくらいにジェットエンジンの空気取り入れ口へと吸い込まれていってすぐに炎を噴き上げ始める。


 できれば空中でいくらでも動きが取れるように背部武装コンテナのパンジャンドラムを使って機体を軽くしておきたかったのだが、生憎とカミュはこちらに上手く敵機を回してくれるつもりはないらしい。


 だが、そんな余裕もすぐに無くなる。


「おい! 上! 高度を上げてる奴らがいる!!」

「チィっ! 落とせるか!?」


 私もカミュもあくまで地上という平面で戦うHuMoのパイロットであったということか、後方から高度を上げて接近してくる一段へ気付くのが遅れてしまっていた。


 すぐに3隻のコルベットのVLSがもうもうと噴煙を上げてミサイルを撃ち上げ始め、仰角を最大まであげたビーム砲もそれに続く。


 カミュの零式もビームライフルで応戦。


 すぐに輸送機たちは次々と撃ち抜かれて高度を下げていくが、1機の輸送機が対空射撃を掻い潜っていた。


 ミサイルを回避するために回避行動を取ってはいるが、高度があるために位置エネルギーを速度に変換して遮二無二こっちに突っ込んでくる。


「ミサイルを抜けられた! ビーム砲も射角外だ! 任せる!」

「おう! 1機くらい……!?」


 武装リストからパンジャンドラムを選択し、2基の円柱が高速回転しながら両脇から飛び立っていったのを確認したその直後であった。


 まるで私のコルベットにむかって特攻体当たりをしかけてくるかのような勢いで上空から突っ込んでくる輸送機の胴体上に1機のHuMoの姿を視認したのは。


「Fooooo~!!!!」


 通信機越しに聞こえてきた雄叫びはその黒いHuMoのパイロットのものであったのだろうか?


 黒といっても何かコート剤でも塗っているのかエナメルのようにツヤッツヤのボディー。

 肩には大型のガトリング砲を背負い、腰の両サイドにも小口径の機関砲。右手にもアサルトライフルを持っている。


「こ、コイツ!? 難民キャンプで……!?」


 私が驚いたのは輸送機の上にHuMoが乗っていたからでも、その機体が烈風だったからでもない。


 その塗装と武装の烈風に見覚えがあったからだ。


 輸送機の両の主翼にそれぞれパンジャンドラムが命中してボッキリと折れ、私のコルベットに直撃コースを取っていた輸送機は降下しる角度が一気に急になって地表へと真っ逆さまに落ちていく。


 だが黒い烈風はスラスターを吹かして飛んでいた。


 だが烈風のパイロットも私に1歩遅れて私と同じ類の驚愕を感じてしまったのか、こちらに銃を向けようとする手が止まってしまっていた。


 なにせ私のパンジャンドラムは特にオプション兵装は装備していないスッピン状態ではあるが、マーカスの野郎が女の子用だとかなんとか抜かして機体装甲をピンク色に塗装してくれやがったわけで、そりゃ知り合いが見れば一発で気付くだろう。


 そして同じ類の衝撃を受けていたならば、我に返るのは先に気付いていた私の方である。


 バリバリバリと装甲を穿つ音とともに黒い烈風がバランスを崩してコルベットの甲板へと落ちる。

 私の方がトリガーを引くのが早かったというわけだ。


「あ~……、コーディー? いや、ローディーだったか? 投降すれば命までは取らない。ゲームセットだ。投降しろ」


 うつ伏せの状態になった烈風へとサブマシンガンを付きつけながら私はどうしたものかと思い悩んでいた。


 格納庫から数人のアシモフたちがマグネットブーツを履いて小銃を持ち烈風へと近寄っていく。


「ん~? お姉ちゃん、知り合いさん~?」

「まっ、そういうこったな……」


 もっとも、かつて難民キャンプでの戦闘を共にはしているが、私はローディーという男と深い付き合いがあるわけではない。


 どちらかというとローディーは私の友人であるライオネスの知り合いといった方がいいかもしれない。


「それにしては遠慮無くブッ放してたにぇ~?」

「まっ、それが傭兵の掟ってヤツさ」

「た、たとえ旧知の仲でも敵に回ったのならば躊躇なく撃つ……。こ、これが戦い、これが肉食獣の掟……!」


 テキトーな嘘を付く自分に嫌悪感が沸き起こってくるが、ヨーコが納得してくれるならひとまずは置いておくとしよう。


 それよりも問題はローディーをどうするかだ。


 ライオネスはただの人工知能に過ぎない私を友達だと言ってくれたっけ?


 同じく人工知能が担当しているNPCであるローディーを私が殺してしまった場合でも彼女は私を友達だと言ってくれるのだろうか?


 いや、どのツラ下げて私はライオネスと会えばいいのだろう?


 私には時が止まってしまったかのように永い時間に感じられたが、実際はそこまでではなかったのだろう。


 通信機越しに聞こえてきた「……降伏する」という低く沈み込んだ声とともにアシモフたちが烈風に取り付いて整備用ハッチを開けてマトモに動けないよう各種コード類を外していくのを見守る。


 だがホッとしたのも束の間、一難去ってまた一難。

 新たな脅威が近づいている事をその時の私はまだ知らなかった。

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