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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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23 逆撃の準備

「繰り返す。私たちが護衛している船団は中立都市管内のあらゆる個人団体に対する害意は無いし、その能力も無い……」


 私がすべり棒を伝って艦橋下の格納庫へ降り、愛機パイドパイパーのコックピットへ飛び込むとヨーコはすでにサブシートに収まっていた。


 通信機から聞こえてくるのはカーチャ隊長が戦闘は避けられないものかとこちらの情報を繰り返し伝えているところ。


「こちらはトヨトミ圏内への離脱のみを目的としているものであり……」

「知ったことかよ! 落ちぶれたハイエナ野郎どもは叩いてリサイクル業者にスクラップを売り払ってやるに限るぜ!」


 だが、その甲斐も虚しく傭兵たちから返ってきた返答はけんもほろろ。


「何故だ!? 傭兵組合からのミッションは発令されていないハズ」

「アホか!? そいつらが再び力を蓄えて中立都市(こっち)に戻ってこないと何故、言える?」

「そういう事。死人は生きている奴に銃を向ける事はない」

「そんな仮定の危険性で君たちは今現在の自分自身を危険に晒すというのか? 君たちの言う『落ちぶれたハイエナ』に力は無くとも、ハイエナを護衛する私たちには君たちに危害を与えるだけの能力はあるのだぞ!?」

「お前らも個人傭兵(ジャッカル)なんだろッ!? ハイエナ野郎とツルみやがって!!」

「お嬢ちゃんたちが邪魔するっていうんならまとめてスクラップにしてやるだけさ!!」


 カーチャ隊長の言葉に対してあちこちから非難の声が聞こえてくる。

 もはや戦闘は避けられないだろうことだけは私にもハッキリと分かった。


 どだいジャッカルたちにハイエナを見逃せというのが無理難題なのだ。

 それが今のヨーコたちのようにマトモな自衛力を失った者たちならなおさら。

 そういう気質の者たちだから傭兵たちも肉食獣の名で通っているのだ。


 数多の悪意がヨーコたちへと向けられている。


 分かりきっていた事ではあったが、なんとなく私はジャッカルたちの言葉をヨーコには聞かせたくなくて通信を切ろうとタッチパネルへと手を伸ばす。


「いや、いいよ~。最初から分かっている事だしぃ、お姉ちゃんだってパイロットなんだから情報は知っておかなきゃ……」

「そっか……。うん、そうだよな!」


 後ろからそれを止める声は自嘲気味でありながらも先ほどのマーカスの喝が効いているのか熱のあるものであった。


「よ~し、コルベットは船団から離れたな? 船団は進路を北北東に切れ! ゆっくりでいいぞ! ゆっくりだ!」


 カーチャ隊長がジャッカルたちとやりとりを続けるオープンチャンネルではなく、船団内用の暗号通信でマーカスが船団へ方向転換を命じる。


「おいおい、オッサン。どうすんだ? 傭兵連中、聞く耳持たねぇぞ!?」

「そんなんゾフィーさんだって分かってるさ。彼女はただちょっと心理的な猶予を稼いでいるだけさ……」


 焦るカミュに対してマーカスは鷹揚に答え、その間にも船団はそれぞれもたつきながらも少しずつ指示通りに方向転換をしつつあった。


「向こうは数を頼みにして一気にこちらを殲滅しようと戦力の集結を待っているんだ。敵を眼前にして流暢にね!」

「はあ?」

「傭兵たちはゾフィーさんとの通信でこちらが戦闘を回避しようと思っているだろうさ。こっちはやる気満々だってのにね」


 マーカスはわざと護衛部隊用のチャンネルではなく、船団全体用に用意されたチャンネルで話していた。


 きっと彼は船団各機の機長たちのメンタルが恐慌状態をきたさないようにわざとこちらにも勝機があるという事を伝えているのだろう。

 それに応じているカミュがそれを理解しているのかまでは定かではないが。


「ようするにこちらが先手を取れるという事だ」

「そんなもんかぁ~?」

「俗に戦力とは兵力と火力の積算だというがね、ゾフィーさんを相手にやいのやいの言ってる今現在、彼らの火力はまるで発揮されていないわけで、ようするに着々と数は増えているが、実質的に戦力はゼロみたいなもんだろ?」


 マーカスの言はいかにも詭弁臭い。

 撃ってこないから兵力がたくさんでも火力ゼロで掛け算して今のところ敵の戦力はゼロとはならないだろう?


 それでも船団各機の機長たちはその詭弁だけを頼りに自分の精神を安定させなければならないのだ。


「で、戦闘開始となったらこっちから先制攻撃を食らわして、向こうはきっと混乱するから連携が取れなくなって、今度は火力じゃなくて兵力の方をゼロとして考えてよくなるな! おっ、また敵の戦力はゼロじゃないか!」


 何が面白いのか、マーカスは自分が言い出した冗談みたいな事で笑っていた。


「おいおい、連携が取れないから兵力がゼロってのはおかしいだろう? それならゼロじゃなくて、個々の判断になるんだから1がたくさんって事になるだろ?」

「おっ、サブちゃん、あったま良い~! でも数学的には1よりもあまりに小さい少数はゼロとして考えてよくなるんだな~! ゾフィーさんもカミュ君ももちろんパパも“1”であるつもりだからね!」


 いつの間にか、機長たちの中にも笑い声が聞こえ始めていた。


 まだレーダーの探知外にも傭兵たちを運んでくる輸送機がいるであろう事を考えれば前から後ろから言葉どおりに数えきれない敵が迫ってきているのである。


 そんな状況下にあって個々の傭兵たちを塵芥と断じるマーカスの不遜、豪気が各機長たちにも移り始めているのだ。


 まあ、正直、マーカスをはじめカーチャ隊長やカミュと比べたら塵芥の側に位置する私としては笑う事はできないのだが。


「そういうわけで攻撃開始のタイミングは俺に任せてもらって良いかい?」

「はあ? なんでオッサンが……」

「いや、ここはマーカスさんに任せるべきだ。彼の陽炎は私たちが乗る一般的なHuMoと違って高度がある状態からの降下には耐えられないだろう」


 傭兵たちとの通信の合間にこちらの会話に入ってきたカーチャ隊長の声は心なしか疲れているように聞こえた。


 まあ、レーダー画面に映る前後合わせて数十か百以上かの輸送機に乗っているであろう傭兵たちが思い思いにガヤを入れてくるのを相手してくればそうもなろう。


 そして彼女の言葉どおり、すでにレーダー画面ではだいぶ遠くになっているマーカスの大型輸送機はすでにだいぶ高度を落としているところであった。


「オッケ~! それじゃ任された!」

「あ~、サブリナさん、こっちは最初、君のコルベットのミサイルを使いたい」

「了解です。キャプテン……?」

「ゾフィーさんの乗艦のアシモフ・タイプとデータリンク開始……。」


 これで実質的にこのコルベットの指揮権もカーチャ隊長に移ったわけだ。

 まあ、そもそもが私には艦船の指揮なんてなにをすればすら分かんないんだから最初から他人に丸投げするつもりだったのだけれど。


 アシモフたちの小気味良い返答を聞いて、つい私は万事がこちらの思惑通りに運んでいるのではないかと錯覚しはじめていた。

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