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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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19 不殺

 正直な話、大砲やらミサイルやらブッ放してくる敵に対して「無力化するが命までは奪わない」というのは机上の空論のような気がしていた。


 第一、不殺を言い出したマーカスですら「だが、被害を出すくらいなら遠慮無く殺せ」と添えていたのだ。

 さすがに「遠慮なく殺せ」というのはマーカス流に私たちに「躊躇うな」と言っているのだと思うが。


 私には精々、できることなら殺すなというくらいの意味合いの言葉に思われていた不殺がカーチャ隊長にはできるのだ。


 まさに強者のみに許された選択肢。

 圧倒的な実力と、それに裏打ちされた自信。


 次々と敵HuMoの四肢を切り捨てて倒していくカーチャ隊長。


 倒れた敵機はすべてうつ伏せの状態。

 それはまるで木こりがチェーンソーで木こりが木を倒していく時に倒れていく方向を自在に決めていくのに似ている。

 だが、木こりがそれなりの時間をかけて木を切るのに対してカーチャ隊長が1機辺りの敵機にかける時間は1秒前後といったところ。


 怒涛のスラスター推力に緩急をつける事で敵弾を回避しながら一気に距離を詰めて、それから僅か1秒ほどで1機のHuMoは無力されてしまうのだ。


 さらに旋回して背面に向ける事のできるミサイルポッドがあれば蹴とばすなりして破壊。

 そして次の機体へと向かう。


 だが、そんな圧倒的な力を見せるカーチャ隊長と、彼女の操縦に応えてみせるカモR-1に対して私の横のヨーコがなんとも不思議そうな声を上げる。


「おっかしいにゃ~?」

「何がだい?」

「う~ん、あの機体、あれだけの機動力を発揮しているくらいなのだからそれなりに世代の新しい機体なんだろうけどさ~、それにしては手足の稼働部位が狭いんだよね~……」


 ちょうど天井の大型ディスプレーの中では白いドラム缶が新たな敵を切り伏せるところであった。


 なるほど。

 言われるまでは気付かなかったが、カモR-1はまるで踊るように敵に斬りかかっていくものの、それはわざと姿勢を崩して倒れるように機体を倒して低い位置から斬りかかっていくなどのカーチャ隊長の技があってのこと。


 よくよく見てみれば腕の振り自体は意外と小さなものでしかないのだ。

 大体、倒れるように姿勢を低くするというのも、下半身の稼働範囲がしっかりと取れていれば必要ない事なのではないだろうか?


「まさか着地の瞬間にバランサーかサスを痛めた……?」

「うんにゃ。それなら腕の可動範囲まで狭い理由にはならないにぇ~」


 てっきり、あの墜落とも着地とも分からないような勢いの着地でどこかイカれてしまったのかとも思ったが、確かにヨーコの言うとおりだ。

 それに着地をミスって故障したのならばHPは減少しているハズなのだが、ドラム缶のHP表示は「20,000/20,000」とフルのまま。


「い゛……!?」

「何~? どうかした~?」

「い、いや。なんでもない」


 ふと私は20,000という妙に高いHPが引っかかって彼女の機体のランクを確認してみるが、そこに表示されていたのは「-」。


 漢数字の1ではない。

 カーチャ隊長のカモR-1はランク設定が行われていない機体なのである。


 それは極めて珍しい事象であった。


 例えば今はマーカスが乗る陽炎は天才メカニックであるヨーコが改造したものであり、ゲーム中ではいわゆる「BOSS属性」付きの機体で性能が他の陽炎よりも格段に向上しているのだが、それでも普通の陽炎と同じくランクは6。


 マンガ版の主人公機であるカミュの試製零式汎用HuMoも次世代機の試作品という立ち位置のゲーム内に他の同型機が存在するかも分からないような機体でありながらもちゃんとランクが7に設定されている。


 私の知る限り機体のランク設定が行われていないような機体など1機種、いや、もっと正確に言うならば2機種しか思い当たらなかった。


「……ふぅ。敵集団、撃破完了! これよりそちらと合流する」


 そうこう考えている内にいつの間にか20機もいた敵機をカーチャ隊長は全て無力化し終えていた。


 こちらに報告を終えたカーチャ隊長は機体をロケットのように飛び立たせて彼女に与えられたコルベットへと向かう。


 あのカモR-1が私の思っているとおりの機体ならば搭載のためにコルベットに高度を落としてもらう必要もないというのも納得であった。


 結局、カーチャ隊長はカミュが船団と合流するよりも先に敵集団を撃破。

 だが、これで全てが終わったわけではないのだ。

 2日間の行程は未だ初日の前半にしか過ぎない。

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