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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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14 接敵

 大気の層を推力で無理矢理に駆けあがっていく振動が落ち着いた頃、私に与えられたコルベットは無事に水平飛行へと移行していた。


「ふぅ~……。お前らの腕を疑うわけじゃあないけど、さすがにこのポンコツで空を飛ぶのは怖いな」

「ご安心ください。ヨーコさんの指示の元、整備状態は万全です。さすがに性能の低下は否めませんが」


 なにせ設定上ではヨネシロ級コルベットはランク1HuMo「雷電」がロールアウトした頃の設計、つまりは2世紀以上も前の技術で作られた船なのだ。


 実際に私が乗るこの船がいつ作られた物なのかは分からないが、元は白かったであろう艦橋内の壁も長年の汚れが染みついて黄ばみ、壁面を伝うパイプの継ぎ目からは茶色いオイルが染み出している。


 確か、この手の船はこの惑星のテラフォーミングが終わった頃に三大勢力による戦争の余波が及んできて、宇宙から降下してきた物だという。


 そういった船の中で性能の不足により再離脱ができなかった物が戦闘による被害で放棄され、ハイエナの手に渡って修復されたものなのだ。


 つまりは元々、惑星内での運用を考慮されて設計されたものとはいえ惑星トワイライトの大気に最適化された設計ではなく、オマケにオンボロついでに修理されたもの。元のダメージがどれほどの物であったかすら定かではない。


 第一、昨日、燃料ポンプの不調があった輸送機はヨーコの指示で地下水のくみ上げ用のポンプを流用されて修理されていた。

 この船だってこれまでどのような修理を受けてきたものか分かったものではないのだ。


 そらあこんな船がガタガタと揺れまくっていたら不安にもなろう。


 だがコルベットの乗り組み員に配置されたアシモフたちには微塵も恐怖を感じていない様子。

 アシモフタイプはユーザー補助AIにもなっているのだが、一般NPC用のアシモフは感情レベルが抑えられているものなのか、それともヨーコに対する万全の信頼がそうさせるのか。


 話し相手を求めた私は通信機でマーカスを呼び出す。


「よお、そっちはどうだ?」

「おう、思ったより離陸に距離を有したがこっちも無事に上がれたよ」

「……って、お前の輸送機、主翼がたわんでないか?」

「主翼の中まで推進剤が満載なんだよ。〇ッポもビックリだね!」


 コルベットとは500t以上の重量を誇る陽炎すら積載してしまう大型輸送機はさすがに垂直離着陸とはいかずに大峡谷の中につくられた臨時の滑走路を使って離陸していた。


「……さて、各機、事前の打ち合わせ通り編隊を組め!」


 マーカスの輸送機もゆっくりとながら高度を上げて水平飛行に移るとマーカスの号令が下る。


「それじゃ、艦長(キャプテン)……」

「了解です」


 コルベットが増速して艦橋内も先ほどほどではないものの振動に包まれる。今度は手すりが無くとも立っていられる程度のものだ。


 3隻のコルベットが広く間隔の空いた嚆矢上のV字編隊を作り、コルベットが作った三角形の中に次々と輸送機やら輸送船が入っていく。

 もちろん少年パイロットたちの技量の拙さを考慮して空中衝突しないようにしっかりと間隔を取った編隊だ。


 最後に捨て駒用の輸送機とマーカスの大型輸送機が編隊の後ろについて完成。


「それでは各機、進路を北西に。高度を3000以上に上げるなよ!」


 マーカスの声と同時に艦橋内のマップを表示するディスプレーに矢印で進路が指定される。


 高度を3000m以上に上げてはいけないというのは北にある食料生産プラントのレーダーに捕捉されないため。

 高度3000m以下ならば食料プラントとの間にある山脈が上手くレーダー波から私たちの姿を隠してくれるというわけだ。


 とはいえ、これも万全の策というわけではないらしい。


 なにせ昨日まで大峡谷のアジトを隠していた迷彩効果のある天幕はすでに撤去されている。

 つまりは偵察衛星のカメラでこちらの存在はすでに知覚されていてもおかしくはないというわけだ。


 事前ブリーフィングでその事を語るマーカスの声と表情は努めて退屈そうに振る舞っているかのようであった。

 ブリーフィングに参加している少年たちや老人たちを不安がらせてはいけないという彼なりの配慮である。

 いかにも「そんな取るに足らない事」とでも言いたげなマーカスであったが、実はそこまで単純な話ではない事くらい私にだって分かっていた。


 そのマーカスが乗る輸送機ですら主翼内全てを推進剤タンクにしているような有様なのだ。

 どこに被弾してもオシャカ。


 そもそもがヨーコたち避難民が乗る輸送機やら輸送船は戦場で使うものではない。


 制空権を確保していない状況下で護衛戦闘機も無しでの強行軍。


 正規軍やゲリラ組織ならば敵の制空権下でのギリギリの任務というのもあり得るのかもしれないが、生憎と私たちは違う。


 乗せているのは子供や老人、病人ばかりの避難民でオマケにパイロットまでド素人。


 私たち護衛部隊は数こそ少ないものの、質だけならこれ以上ないほどの陣容ではあるが、そもそもHuMoとは陸戦兵器。


 敵が来たらコルベットが前に出てHuMoを発艦させて、敵を退けたらまた船に乗って船団を追いかけていく。


 考えただけで随分とメンドウな護衛方式である。


 さらに私たちの速度もまた問題だ。

 私たちの空中船団は速度をもっとも遅い船に合わせて350km程度で進んでいる。


 北方のトヨトミ領域まで直線距離で4,000km。

 まっすぐ飛んでいけば12時間ほどで到着となるがさすがにそんな事はできない。


 結局、マーカスは行程を2日に分けていた。


 ただ昨日から一晩の間にマーカスは何も策を打っていなかったわけではない。


 通信でカーチャ隊長から傭兵組合へと「こちらの目的がただトヨトミ圏内への脱出である」という事と「護衛部隊には陽炎やその他、強力な戦力が集結している」という2点を伝えてもらってあった。


 これならばカーチャ隊長とカミュの立場を悪くはしないだろうし、害意が無い事とこちらを攻撃しても得る物は少ない事、そして十分な反撃能力がある事を知らせていれば傭兵組合も積極的に討伐任務は出さないだろうという、いわば盤外戦術。


 だが、これでもまだ足りないという。


 傭兵組合が積極的に攻撃してくる事は無くとも、ヨーコたちが落ち目のハイエナである事には違いない。傭兵たちが個人的な恨みや金銭的な事から襲撃を仕掛けてくる可能性は非常に高いという。


「護衛部隊各機。再度、確認しておくぞ?」


 編隊間での速度の微調整やらの指示を出し終わったマーカスが護衛部隊専用チャンネルで話しかけてくる。


「襲撃してくる傭兵(ジャッカル)はできるだけ殺すな。だが、被害を出すくらいなら遠慮無く殺せ」

「我々としてはそちらの方がありがたいのだが、良いのか?」

「なあにゾフィーさん。我々は手を出せば手酷く被害を追う手強い連中であればいいのさ。かといって仲間の仇討ちに燃えられてもかなわん」


 周囲のアシモフたちの目を意識してかマーカスはカーチャ隊長の事を彼女が口にした偽名で呼んでいた。


 彼も伊達や酔狂で不殺を口にしたわけではない。


 このゲーム世界のNPCの性格思考はゲーム内での己の経験の左右される。

 私自身、難民キャンプでの戦闘で親友を失ったローディーという傭兵NPCが仇討ちに血気盛んになっているところを見た事があるのだ。


 できる事なら恨みを買わない事に越したことはないし、それをできるだけの技量はマーカスにもカーチャ隊長にもあるだろう。多分、カミュにも。むしろそういう技量が無いのは私くらいのもの。


「おい! さっそく来やがったぞ!!」

「なんだ? やけに早いな」


 話の途中だというのにレーダーで敵機を捕捉したカミュが話に割って入る。


 私のコルベット艦のレーダーにも敵機の反応があるが、編隊飛行を開始してからまだ1時間も経っていない。

 マーカスも怪訝な声を出すほどに襲撃が早すぎる。


「いや、これは……」

「ジャッカルじゃない!?」

「チィッ、別口のハイエナか!?」


 レーダー画面に映し出された機体群は傭兵組合所属を示す識別信号は認められない。

 その他の合法的な企業や団体の信号も無し。


 つまりは武装犯罪者集団(ハイエナ)である。


 なにも一口にハイエナと呼ばれていても彼らは別に一枚岩というわけではない。

 落ち目とあれば同じハイエナ同士でも襲撃する事だってあるだろう。


「ふむ……。となれば取る手は1つか。マーカスさん、貴方には計画の立案では頼り切りだったな。ここで私たちの能力を示しておこう。カミュ! 行けるか!?」

「任せとけっての!!」


 前方から迫ってくる敵機は9機。

 だがカーチャ隊長は当然のようにカミュだけを出させるつもりのようだ。


 そしてカミュもそのつもり。


「へへっ、オッサンよ? さっきの『できるだけ殺すな』ってのはハイエナには適用されないんだよな!?」

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