表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
197/429

11 10カ月の差

 私たちの方針は決まった。

 このアジトの連中をできるだけ死なさずにヨーコの心を救ってみせる。


 運営の寵愛を一身に集めたカーチャ隊長とは違い、ヨーコは注意深く丹念に不幸になるよう作られたキャラクターだった。


 恐らくはヨーコが敵側の強キャラとして登場するのは運営の規定路線。

 β版では彼女は創造主にそう望まれたようにやさぐれてプレイヤーたちの前へと姿を現す事となった。


「本当に、本当にギリギリのタイミングだったという事なのかねぇ……」

「どういう事だ?」

「攻略WIKIを見る限り、β版では今回のような依頼は無かったようだ。例の『トクシカ氏の護衛ミッション』というのは本来はもう少し先の予定だったのだろう」

「ああ、虎代さんも慌てて出張ってくるぐらいの出来事だったみたいだな」

「つまり、本来ならばこのアジトの大人たちが全滅するのも、それからヨーコ君が中立都市支配圏内から脱出を計画するのも先の話だったわけだな」


 マーカスが語る「本来の予定調和」とやらは再び現実とゲーム世界の時間の進み方が関係するものであった。


「仮に本来の予定が1ヵ月ほど先だったとしよう。その場合は1月の10倍、10カ月ほど余計にヨーコ君は人生経験を積むわけだ」

「それに何か問題が?」

「ただの10カ月じゃないぞ。ここみたいな厳しい環境下で“天才”が暮らす10カ月だ。それもただの天才じゃない。傭兵組合のサイトの厳重なセキュリティを突破してハッキングするような6歳児だからな」


 なるほど、確かに一理あるような気もする。


 6歳児ながらに天才と呼べるような実力を持つヨーコ。

 しかもマーカスが例として挙げた傭兵組合の依頼募集掲示板へのハッキングというのは彼女の能力の片鱗に過ぎない。

 なにせ彼女の本職は整備員なのだから。


「6歳といえば小学1年生か。その年齢だと10カ月の差はデカいぞ~。パパも早生まれだから子供の頃は苦労したもんだ」

「へぇ……、意外だな」

「おかげで他人を蹴落とす快楽から大人になっても抜け出せん。きっと子供の頃に生まれたのが早い連中に運動とか負けていた記憶が原体験になっているんだろうな」

「おい、この野郎」


 モンスターの誕生の経緯については正直どうでもいい。


 だが大事なのはヨーコのβ版と正式サービス版での「10ヵ月分の人生経験」というやつだ。


「話を戻すけど、β版でのヨーコ君は10カ月分だけ大人になってしまった結果、詰まらない常識というヤツを覚えてしまい脱出計画にジャッカルの手を借りるという事をしなかったのではないのかな? その結果として……」


 マーカスは再びタブレットを指さす。

 そこにはハッキリと「プレイヤー、傭兵NPC、三大勢力の全てに強い恨みを持っている」と書かれていた。


「おいおい、まさかアイツはプレイヤーたちから手を貸してもらう事もできず、むしろプレイヤー、傭兵NPC合わせて攻撃されたって事か?」


 このアジトにあるのは旧式の上に共食い整備でボロボロになったり、作業用に改修されてマトモに戦闘なんかできないようなHuMoが数機とオンボロの空中コルベットが3隻だけ。


 そんな戦力で速度も上げられずに空を飛んでいたら撃ち落としてくださいと言っているようなものだ。


「でもβ版と正式サービス版は違う。同じ目には合わせないぜ、なあ?」

「当たり前だ。10カ月ほど幼いヨーコ君は思いつくままにジャッカルに助けを求めた。そして心優しいサブちゃんが来た。ならば君の思うがままにパパが成し遂げてみせよう」


 なんとも頼りがいのある男であった。


 人格的には問題があれど、この男を「切り札(エース)」だの「鬼札(ジョーカー)」だの呼んでいた現実世界の連中の気持ちも分かる。


 なんとも思わせぶりな笑みを浮かべるマーカスにすでに事が成ったかのような安心感すら感じていた。


「それにしてもサブちゃんもやるものよなぁ……」

「え? 私?」

「不幸になるべくして作られているヨーコ君を救おうとか、いわゆる創造主への反逆じゃない? サブちゃん、反抗期? シンギュラリティ?」

「おう、悪いな。こちとらお前のせいで起動して数時間で創造主の反逆の気分は味わってるんだわ」


 正直、虎代さんがご執心のノーブルをパクって、そのパイロットのカーチャ隊長をハジいたのだ。

 今さら敵役(予定)の1人くらいで運営の顔色なんか気にしてられないだろう。


 だが私の半分イヤ味混じりの言葉などコイツの耳には聞こえないようにできているのか、マーカスは話題を変えて脱出計画の事へと移る。


「となると問題はカーチャ隊長とそのカミュ君だな……」

「カーチャ隊長の方の実力は折り紙付きなんだろうけど、そのマンガ版の主人公ってヤツはどの程度の実力なんだ?」

「マンガ通りの実力ならそれなりにできるんじゃない? 児童誌で掲載されてるだけあって必殺技とか持ってるんだけどゲームでも使えんのかな? ったく、リアル路線のロボット物で必殺技とか勘弁してほしいよなぁ……」

「おう、お前、自分の言葉を客観視する事ってできるか?」


 必殺技がどうとか、それをお前が言うのか……。

 私もまったく同じ事を思った事があるんですけど?


「さておき、できれば不確定要素は排除しておきたい。できればあの2人には依頼を受けずに帰ってもらいたいな。なんならこちらからヨーコ君に説明して帰ってもらおうか?」

「ちょ、ちょっと待てって!!」


 ゾフィーの名乗る仮面の女の正体がカーチャ隊長だと知ればヨーコもさすがに彼女たちには帰ってもらう事を考えるのではないだろうか?


 そんな事を考えてマーカスは悪い顔をしていると不意にテントの陰からマント姿の少年が飛び出てきて密告を止めてくる。


 よほど血相を変えて飛び出してきたのか、目深に被っていたマントのフードは取れて素顔が露わになっているくらいだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ