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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3.5章 白い連星、命の輝き
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5 謎の依頼人

 依頼人の指定するポイントへと移動を開始した私たちであったが、ホバートレーラーを運転する仮面の女にも零式とかいう謎のHuMoを駆るマント姿にも別段おかしな点は無い。


 先頭を走るマーカスの陽炎に、その後方左翼を私のパイドパイパー、右翼がマント姿の零式というフォーメーションはマーカスの提案そのものであったし、3機のHuMoが作る三角形の中心近くを走るトレーラーから先頭のマーカスへ速度を落としてもらうよう要望があったのもトレーラーが出せる速度を考えれば当然、速度の微調整のやりとりは平穏そのものであった。


 私たちの中でもっとも高ランクなのは陽炎の格納スペースに隠してある1機を除けばランク7の零式であるが、レーダー性能がもっとも優秀であるのは大型機故に設置スペースに余裕があり、また設置位置の高い陽炎という事もあってか私たちはマーカス機からもたらされる情報をベースに各機が取得した情報で補完しあうという形を取っていたが、そのやりとりも自然でおかしな点はまるで見られない。


「あ~、トレーラー、聞こえるか?」


 陣形がまとまってすぐ、マーカスからトレーラーと零式へ小隊編成の要請が送られ、ほぼ間を置かずに了承されると早速マーカスから小隊用チャンネルで通信が送られる。


「聞こえているぞ、感度は良好!」

「感度はこちらも良好、で、だ。そのトレーラーには機銃とかは無いのかい?」

「いや、格納式ターレットがあるが?」

「ああ、それなら今の内に展開しておいてくれるかい?」


 マーカスの要望に仮面の女が操縦するトレーラーの天井部分から対人対物用の機銃と小型対HuMoミサイルが取り付けられた旋回銃搭が現れる。


 仮面の女からその意図が問われたのはその後の事。

 その辺りから私はなんとなく彼女の人の好さを感じてしまう。

 実はあの2人組、奇抜な風体とは裏腹に良い奴らだったりするのだろうか?


「展開終了、でもどうしてだ? レーダーや各種センサーには敵機の兆候は見られないようだが?」

「いや、なあに。これからわけの分からん依頼人に会うんだから用心するに越した事はないだろう」

「ああ、依頼人の目の前で機銃を出したら機嫌を損ねるかもしれないって事か」

「そういうことだ。向こうが依頼文に『超高難易度ミッション』だなんてタグを付けてきたんだ。武装を出して警戒しながら来ても文句は無いだろうさ」


 もちろん依頼人が敵であると決まったわけではなく、これはあくまで可能性の1つとしてマーカスが警戒しているだけの話である。


 傭兵ならば依頼人が実は敵だっただなんて報酬が手に入らないだけではなく、その場を上手く切り抜けても機体の修理費や弾薬やら推進剤やらの補充で赤字になるだけである。

 そんなわけでマーカスの警戒は傭兵としては本来ならばもっとも考えたくない事のハズ。


 なのに仮面の女はマーカスの警戒を考えすぎと笑う事も無く、むしろ感心しているくらいであった。


「なるほどな。個人傭兵(ジャッカル)の知恵というヤツか……」

「まっ、30kmなんてすぐに辿り着けるのだろうし、結果は今に分かるさ」






 やがて私たちの目の前に現れた左右の切り立った深い崖が作り出す曲がりくねった回廊のようであった。


 太古の時代、今はトワイライトと呼ばれる惑星が地球化(テラ・フォーミング)以前にも液体の水があった事を示す痕跡である大峡谷はまさに自然が作り出す圧巻の光景。


 これが現実の地球ならばきっと風光明媚な観光スポットとして知られているのだろうが、長い戦乱の続くこの惑星ではいかに三大勢力から距離を置く中立都市の管轄地域とはいえ人の姿は無い。


 いや、無いハズであった。


「生命反応を感知、これは人だな……。零式(タイプ・ゼロ)、後方警戒を頼みたいが良いか?」

「オッケー! 任しとけ!!」

「よし、ならばサブちゃんは前へ!」


 センサーに感があった直後にマーカスの指示が飛び、それからすぐに陽炎のカメラが捉えた画像が拡大処理されたものが送られてくる。


「これは……、子供……?」


 私は陽炎との合流のためにパイドパイパーの速度を上げながら画像を開く。


 そこに映し出されていたのは岩陰から頭と手にしたライフルだけを出した子供たちの姿であった。


 数人の子供たちはいずれも薄汚れた服装に土埃で汚れた顔をして、HuMo相手に意味も無いというのに強張った顔をして陽炎にライフルを向けている。


 さらに続いて送られてきた熱感知(サーモグラフィー)カメラの映像によると岩で作られた回廊の曲がった先にはHuMoが隠れているようだが、機体が発する熱によってこちらにはバレバレ、きっと向こうのパイロットはドの付く素人なのだろう。


「あ、あ~……、私たちは敵じゃないじょ! 私が依頼人にょ!」


 私たちが陣形を変えたのを見てか、それとも既に臨戦態勢に入っている陽炎を警戒してか、向こうから通信が入ってくる。


「ふむ、君が『せかいいちいいおんな!』かい?」

「そうだじょ! コイツらにも今、銃を降ろさせるから!」


 幼い舌足らずの声の持ち主は依頼人を名乗り、それからすぐに大きな岩に半身を隠していた子供たちは銃を降ろして岩陰から出てくる。


 さらに曲がり角の先にいたHuMoも持っていたライフルの砲口を天に向けた状態で出てきて、こちらに向けて両腕を上げた。


「君たちのHuMoは1機だけかい? 他は敵という事で撃破して構わないのかい?」

「あ~!! 分かった、分かったにょ!! 頼むから手荒な真似は止めてほしいにょ!!」


 マーカスの言葉に切り立った崖の上から2機のHuMoが現れて被っていた迷彩シートを外していく。


 先に姿を現していた1機は胸部の装甲とコックピットハッチを展開して内部にいたパイロットが姿を現すと、そこにいたのは幼児と呼ぶべきか児童と呼ぶべきか分からないような小さな子供であった。


 そこまでやらせてやっとマーカスも警戒を解いて陽炎の4本の腕に握らせていたライフルを天に向けた。

 私も相棒に倣って銃を天に向けるとやっと子供たちの緊張もわずかながらに解れたようである。


 それにしても子供たちのHuMoの姿は異様であった。


 崖上の2機の雷電は片腕がクレーンに換装されていて、整備がし易いようにか各所の装甲は取っ払われている。

 子供たちのリーダー格と思わしきコックピットハッチを開け放って姿を現した子の機体は両の腕こそあるものの、やはり装甲はいたる所が剝ぎ取られていて股関節を守る腰部アーマーの代わりに太い鎖をジャラジャラと垂らしているほどであった。


「……共食い整備でもしたのかな? いや、それにしてはパーツをもらって整備された機体が出てこないのはおかしいな」

「これは……、驚いたなぁ……」


 私たちの前に姿を現したのは子供たちだけ、HuMoも整備不良と思わしき物のみとはあまりにも不自然である。


 中立都市にも路上生活をするストリートチルドレンはいる。彼らは彼らで中立都市で日銭を稼いで暮らしているのだが、逆に彼らは中立都市という大都市に住んでいるからこそ口に糊して生きていられるのだ。


 こんな周囲に何もないような場所でどうやって子供たちだけでいられるのだろうか?


 これにはさすがにマーカスも子供たちの正体が分からないようであったが、その答えは意外にもすぐ後ろまで来ていたトレーラーの仮面の女からもたらされた。


「ここは武装犯罪者集団(ハイエナ)のアジトか……」

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