43 1対4
尾根に身を隠して機関銃持ちから射線を切った私はそのまま移動を開始。
向かうは先ほど3機の敵機が私からの射線を切るために飛び込んでいった低地だ。
すでにそこで待ち構えていた味方機との戦闘は始まっており、小隊メンバー各機のHPを表示するバーは幾度となく減少している。
現在、向こうでは敵味方合わせて3対3の状況。
敵も味方も装甲が当てにできないのは一緒だが、HP量に開きがある時点で私たちの方が不利であるのは間違いない。
そして誰かが撃破されてしまった時点で「数の上では互角」という状態は一気にひっくり返ってそれだけ私たちが負けに近づいていくのだ。
できれば誰も撃破されていない状態で、少なくとも誰か1機の損失の時点で私が合流できればまだ勝ちの目はある。
もちろんスラスターを全開にして移動していれば大地に積もる雪を高く舞い上げて、当然、それを敵の機関銃持ちにも悟られるだろうが、私と機関銃持ちでは私の方が戦闘が行われている低地に近い。
しかも向こうは重量の嵩む武装を持っているために速度が上がらないだろうし、敵のニムロッドU2と私のニムロッド・カスタムⅢではこちらの方が機動性は上。
先に辿り着けるのは私のハズ。
だが私のディスプレー越しの眼前は猛烈な吹雪で覆い尽くされ、それが私たちの行く末を暗示しているかのようで私は焦れていた。
私は機体を駆けさせ続けながらもハードポイントからナイフを取って捨てる。
ライフルの弾倉も交換してまだ弾の残っている半端の弾倉も捨て、未使用の弾倉一つも投棄。
そうやって少しでも機体を軽くして速度を上げようとするものの、私がまだ戦場に辿り着く前についにその時が来る。
「わ、悪いッ!? 機体が……ッ!!」
クリスさんからの最後の通信には切羽詰まった声に混じって何らかの破裂音やら爆発音、そしてけたたましい警報が入り混じっていた。
そしてカリーニンのHPがゼロになる。
《小隊メンバーが撃破されました》
私がたどり着くまではもう少しかかるのに2対3の状況になってしまった。
そこからは味方機のHPの減少は一気に加速。
クリスさんはヒロミチさんが言うように確かに元一流ゲーマーと言われるだけの片鱗は見せてくれている。だが、このゲームの経験だけでいうならこの場でもっとも薄いのだ。
その辺をカバーするために彼女は装甲に優れるカリーニンに乗っているのだが、大口径長砲身のバトルライフル相手にはカリーニンの装甲も頼りにはならない。
そうなってしまえば、かえってカリーニンの短所はクリスさんの才能を潰す枷となってしまうのだ。
頼りにならない装甲はその質量のみが存在する結果となり、いかに優れたゲーマーであろうと小回りの利かない機体では回避行動も限界がある。
そこを敵に突かれたというわけだ。
そして……。
「す、スマン! 弾受けしてもらったっていうのに! うぁッ!?」
「ヒロミチさん!?」
引き攣ったような声のヒロミチさんの声に続いて私の視線の先の空が赤く染まる。
夕刻というよりは夜の入り口と言った方が近いような暗くなった空は烈風の最後を映し出すキャンバスとなっていた。
《小隊メンバーが撃破されました》
スラスターを幾つも増設したヒロミチさんの烈風はさぞ盛大に爆発したのだろうと赤くなった空を見ながら私は限界まで踏み込んだフットペダルをさらに押し込む。
「サンタモニカさん! 状況は!?」
「まだ弾は十分にありますわ!!」
ヒロミチさんの最期の言葉を思い出すに中山さんの機体はフルヘルスの状態であったが故に戦闘開始直後は敵の注目を集めて攻撃を受ける役割をしていたのだろう。
トヨトミ系の中でも特に小型の紫電系の機体は特にHP量が少ない。だがそれでも味方チームの中でもっともHPを持っていたのは彼女なのだ。
結果、彼女の機体に残されたHPは990。
平均単発火力1,250の84mmバトルライフルを装備するニムロッドU2型3機を相手にあまりに心元無い数字である。
それでも状況を問う私の言葉に中山さんはまだ闘志満々。
吹雪が吹き荒ぶコックピットの外よりも寒い状況だというのに頼もしい限り。
私も10秒もしない内に彼女と合流する事ができるだろう。
「サンタモニカさんッ!!」
《小隊メンバーが撃破されました》
私の目に飛び込んできたのはニムロッドU2型の肩口に特製ブレードを叩きつけた紫電改の姿だった。
対する敵機はライフルの先端に取り付けた銃剣を紫電改の胸部へと突き立て、しかも、もう1機のニムロッドU2が同じく銃剣を紫電改の脇腹へと突き立てている。
そして残る1機の敵機が背後から回り込みながら紫電改の背部バックパックへと今まさに銃剣を突き立てるところであったのだ。
「……ふふふ、随分とエモいじゃない? 後でリプレイからスクショ撮ってスマホの待ち受けにでもしようかしらね? その前にッ!!!!」
中山さんの機体の胸部に突き立てられた銃剣は深く突き刺さり、コックピットまで達しているだろうと思った瞬間、私の中の熱は周囲の雪も全て溶かしてしまいそうなくらいに燃え盛っていった。
私はライフルも拳銃もCIWSの機関砲も、私が持つ全ての射撃兵装を撃ちまくりながら敵へと突っ込んでいく。




