33 失策の代償
勝利!!
勝利報酬 600,000(プレミアムアカウント割増済み)
修理・補給 8,000
合計 592,000
バトルアリーナ勝利数 1
初戦を勝利で飾り、輸送機に運ばれてチームガレージに戻ってきた私たち。
報酬画面を確認してみると、今回のイベントは連戦が想定されている事もあってか一戦ごとの勝利報酬は難易度☆☆のミッション程度に抑えられているようだ。
ガレージに戻された小隊各機へ整備員や車両群、整備用ロボットなどが餌に群がる蟻のように取り付いていくのを見ながら私たちはブリーフィングルームへと戻る。
「お疲れ様でした」
「おめでとうございます!」
「やったじゃん!」
事務所内に待機していたアシモフやジーナちゃん、トミー君が口々に勝利を収めて戻ってきた私たちに労いの言葉をかけ、ウチのマモルくんも「良かったですね」と声をかけてくれた。
どうやらチームガレージで待機していたAIたちもブリーフィングルームの壁掛けテレビで私たちの戦闘の様子を見ていたようだ。
もっともマモル君はいつものようにタブレット端末を持っている事から察するにどうせマンガでも読んでいたのだろうが。
「ありがとう、みんな」
「さて、機体の整備完了まで10分。少し反省会をしようか?」
ロボットや兄妹は戦勝ムードに沸いているが実の所、まだただ一勝しただけ。
一応は祝いの言葉に感謝の意を伝えるが、私としてはマモル君のようにあっさりとしたものである。
そして、それはヒロミチさんも同じであった。
「ん~? そんな反省会というほどのミスがあったか?」
自身の補助AIが引きこもり気質という事もあり労いの言葉をかけられる事も少ないためか、お祝いムードに水を差されたクリスさんはあからさまに唇を尖らせてみせるが、ヒロミチさんは微笑みながら言葉を続け、それに中山さんも続く。
「ハハ、いや、俺たちはそんなミスはしてないと思うんだけどね。 もっともダメージを食らったクリスだって、装甲防御に長けたカリーニンが弾受けしたと思えば十分に許容範囲さ」
「ええ。『他山の石』という言葉もありますわ」
「というと……?」
ヒロミチさんと中山さんが言っているのは私たちのチームではなく、今回の対戦相手のことだという。
「気付いていたかい? 実は今回の対戦相手は俺たちのチームと良く似た構成のチーム編成だっていう事に……」
「高機動タイプが1機に、汎用タイプが2機、そして毛色は異なりますが支援機が1機」
「ああ、そういう事ね」
確かに私のニムロッドがバトルライフルでの狙撃を主体とした中距離援護役を担っていたのと、敵チームのマートレット・メデックが回復役を担っているのを大雑把に「支援機」とまとめてしまえばよく似た構成だったと言えるだろう。
「まず論外なのは、そもそも4対4の短期決戦型の戦闘に回復役はいらないんだけど……」
私が以前にやっていたVRのファンタジーRPG物では3、4人のパーティーでも回復役は必須となっていたし、私自身もソロヒーラーだったのだが。この辺は各ゲームタイトルごとに異なるという事だろう。
大体、先の戦闘では回復役のハズのマートレット・メデックも一緒になって攻めてきて回復の暇も与えられずに撃破されていた。
これが例えば12対12とか、あるいはもっと大所帯の戦闘で前線を張る味方が損傷を負ったら後退して他の味方を交代し、後方でHPや機体機能の損傷を回復できるのだとするならば意味があるのだろう。
「魔法の詠唱1つでHPを回復できるファンタジーや、注射打ったりスプレー吹いて回復できるFPSとかならともかく、このゲームの場合は回復には少し時間がかかっちゃうからなぁ……。それよりなら火力の水増し要員がいた方が敵を素早く殲滅できて結果的に味方の損耗も少なくなるってこったな」
ヒロミチさんが続けて教えてくれた話では、このゲームの回復では例えばマートレット・メデックがそうであったように背中に背負ったコンテナから修理用ロボットを展開して損傷を負った機体に取り付かせる事で応急修理を行うためにどうしても時間がかかってしまうのだとか。
「……で、だ。今回の敵の構成と動きから想像するに、敵チームの基本戦術はモスキートがちょっかいかけてそちらに注意を集めさせて側面から他のメンバーが攻撃してアドバンテージを取るって事なんだろうけどさ……」
実際、私たちが最初に発見したのはモスキートが巻き上げる土煙であった。
そう思えばわざわざ自身の所在を敵に教えるかのような行動も一応は理があったという事か。
だが、その結果は……。
「いやあ、でも、モスキートじゃ脆すぎません?」
「だよなぁ。あっという間に撃破できたし、あの機動力じゃ逃げる事もできねぇだろ?」
「うん。それに攻撃力も弱すぎてそもそも敵の注意が引けるものか。知ってるかい? モスキートの機関砲って上級砲弾を使って接射で全弾撃ち切っても正面ならカリーニンのHPを削り切れないんだよな」
「ええ……? それじゃいくらでも後回しで良くないですか?」
モスキートの打たれ弱さは蚊というよりも、触れただけで脚がもげるガガンボを思わせるほど。
その結果として味方が側面攻撃を開始する前にモスキートは撃破され、しかも私たちはその後に弾倉交換をして敵を待ち構える事すらできていたのだ。
「モスキートは本来、もっと慎重な運用が求められる機種なんだよね。それが勢いよく飛び出してきて後退もできなくなって、結果、彼らの連携は崩れた」
連携の失敗。
それがヒロミチさんが言いたい事であったようだ。
アシモフから受け取ったタブレットで彼はリプレイを再生しながら敵チームの失敗の解説を始める。
「ここ。ここでモスキートは丘を越えて飛び出してきたわけだけど、俺なら丘から頭だけを出すぐらいのとこでターンして敵がいないか確認してみるね」
リプレイ画面の中では丘から飛び出してきたモスキートはすでに私のニムロッドを視認できていたであろう事は間違いなく、そのまま進んできたために私たちの集中攻撃を受ける羽目になっていた。
丘を越えて進んでいたためにモスキートの推力では上り坂を登るのに速度を落とさざるを得なくなったがために引く事はできず、丘を越える前に頭だけを出すような位置でターンしていたとても本来の目的である「私たちの注意を引く事」はある程度はできていたハズ。
これがヒロミチさんの烈風ならばその機動力で丘を越えてきた後の後退も容易であっただろうし、そのガンポッドの火力は捨て置けないものとしてこちらの注意を釘付けにできたであろうから意味はあったのだろうが。
「通信障害があったことは敵チームだって分かっていたハズなんだけど、それでも完全に遮断されていたわけじゃない。モスキートが速度を落としていて、こっちのチームとモスキートが交戦中に側面攻撃を仕掛けていたらどうだっただろうね? もっとマメに連携を取る努力を怠った事が彼らの一番の敗因だよ」
そう聞くと機体のランク差以前の問題であったように思える。
モスキートと交戦中のタイミングでの側面攻撃が行われていたらどうであったか。
こちらのライフルの弾倉交換が必要となってミサイル装備のニムロッドを撃破するのが遅くなってさらなる痛撃を受けていたであろう事は間違いない。
つまり彼らは機体のランク格差があろうとも、もっと善戦ができたハズだったのだ。
「つまり俺たちのチームと良く似た構成のチームでも連携の失敗1つでこうも崩れてしまうって事を覚えておいて欲しかったんだ。あとはまあ、接近してからミサイルの連射って戦術も悪くはないけど、ちょっと物足りないな……」
「ああ、そうだな……」
私としては敵チームのニムロッドとオデッサが繰り出したミサイルの猛攻は良く考えたものだというか、正直、肝を冷やしたレベルなのだけど、ヒロミチさんとクリスさんは自嘲気味に鼻で笑ってみせる。
「あれ? ヒロミチさんはともかく、クリスさんはどこかでもっと凄いのを見たんですか? あ、別のゲームで?」
「ははは……」
昨日の戦闘がクリスさんの初戦だと思っていたのだけど、彼女は私の問いを曖昧にするかのように力無く笑って誤魔化すばかりであった。
さらにヒロミチさんも早口になって話題をすり替えていく。
「お、そう言えばクリス。お前、オデッサを撃破した後、敵の残骸を盾にするような真似をしてたけど、このゲームだと機体が爆発するかもしれないんだから止めとけ!」
「ハハ! わりぃ、わりぃ、歩兵とかゾンビと同じ扱いじゃマズかったよな!」




