31 第1戦目
危険を告げる回転警告灯が回りサイレンが響き渡る中、私たちはそれぞれ自分の機体に乗り込んでチームガレージ前に待機している大型輸送機へと乗り込んでいく。
バトルアリーナへの参加申請を行ってから10分以内に全機が輸送機に乗り込まなければ不戦敗となってしまう。
ルールブック上では両チームが不戦敗となれば引き分けという扱いになってしまうらしいが、そもそもイベントランキングは「戦闘数」と「勝利数」のみが集計され、勝率の計算もそれで計算されるらしいので引き分けは負けと同じだ。
「よ~し、急げよ~! クリス~、何かあったらすぐに言えよ~」
「おう、起動シークエンスにちょっと慣れてないだけでもう大丈夫だ」
「さ、ライオネスさん、私たちも……」
「うん!」
さすがにβ版時代からの経験もあってか動き出しがもっとも早いのはヒロミチさんだ。
彼の烈風はすでに重い機体重量を引きずって、解放されたガレージのドアの前に駐機している輸送機のカーゴベイの脇で私たちの乗り込んでいくのを待っている。
クリスさんのカリーニン、中山さんの紫電改、そして私のニムロッドが乗り込んだのを確認してヒロミチさんも機体を輸送機の腹の中へと入れるとゆっくりと上下二分割式のドアが閉まり、貨物室壁面の固定具に機体が固定されるのを待って輸送機は一気が加速して飛び立つ。
フライトはすぐに終わり、暗い貨物室の中のいたる所に緑色のランプが灯ると固定具からの解放権限が各パイロットに委譲されると同時に再びカーゴドアが開いていった。
「降下、降下だ! 1分後に火器のロックが解除される。それまでに地上に降下しないと敵に狙い撃ちにされるぞ!!」
私のコックピットのサブディスプレーにも「0:57」と火器ロックのカウントダウンが始まっていた。
私は輸送機の固定具を解除してデータリンクシステムが僚機と接続されているのを確認してから低空を飛行中の輸送機から機体を飛び出させる。
最悪、敵の火器ロックが外れた段階でまだ輸送機に味方が残っていたら輸送機ごと撃墜されてしまうのだ。
高度1,200メートルという高さは地表が猛スピードで動いているようにも見えるくらいで冷や汗ものだが、ここで躊躇っているわけにはいかない。
「ライオネス、いっきま~す!」
私は空中で機体の四肢をいっぱいに開かせて大の字のようになって空気抵抗を受けつつスラスターで減速、頭部を旋回させながら周囲の状況をスキャンして続く僚機へと情報を送る。
私の降下順が先頭なのはもっとも強力なニムロッド・カスタムのセンサーで得た情報を味方に送るため。
続いて降下するカリーニンに紫電改、そして最後は烈風。
これは最後に降下するヒロミチさんが私のニムロッドから得られた情報で何か良い作戦が思い付くかもしれないという配慮である。
「風が強くて土煙が凄いな……。ここの土壌は金属成分が多くて土煙が待っているとレーダーを頼りにしていいものか分からんね」
「天然のチャフってことかい?」
「そういうこった」
サブディスプレーのマップ画面には5km×5kmの正方形が表示されている。
私たちが降下したのは正方形の南東側の頂点近く。
対戦相手のチームが乗っていたであろう輸送機の飛行経路を考えるに、向こうさんはこちらの対角線上、北西側の頂点近くに降下した事が予想されていた。
今回のステージは荒野という事もあってか、周囲は草もまばらな大半は赤茶けた硬い大地が剥き出しの状態。
未整地の大地はかつての地殻変動の影響かHuMoがすっぽりと姿を隠す事ができるような高低差が幾つもあって敵の射線を切る事もできそうだ。
それよりもヒロミチさんの話では問題はあちこちで舞う土煙の方であるらしい。
レーダーが使い物にならないかもしれない。という事はだ……。
「無線通信も駄目になるって事なのかしら?」
「分からないけど、そうなると思っていた方がいいのかもしれないね」
「レーザー通信もかい?」
「どの道、こんな凸凹した地形じゃ直進しかしないレーザーなんてすぐに使えなくなるさ」
なるほど砂漠やら雪原やら足場の悪いマップ以外にもこういうギミックのあるステージがあるということか。
改めて見てみると、この周辺の大地は見慣れた赤茶けた大地よりもいくらか色が濃いようにも思える。
「北方向、不自然な土煙でごぜぇますわ!」
「よし! こちらも移動を開始するぞ、クリス!」
「了解! お嬢ちゃん、付いてきな!」
「それじゃ私は別方向から……」
中山さんが指さした方向にあったのは明らかに風によって巻き上げられたものとは高さの異なる土煙。
北西に降下した敵チームはまっすぐにこちらに向かってこないで、一度、東に向かってから南下を始めたという事だろうか?
3手に分かれて移動を開始した私たち。
クリスさんと中山さんは土煙が向かってくる予想地点の西へ、私は東の高台へと。
「土煙の大きさからして敵はまとまって動いていないのかもしれない。俺はここで待機してすぐに飛び出せるようにしておく」
確かにまっすぐこちらに向かわず、東進してから南下してくるというのはなんらかの意図を感じて当然と言えるだろう。
敵がチームを分けて東に向かってから南下してくるグループと、それに対応してこちらがリアクションを取ってからその弱点を突こうとするグループに分けてきているなら、こちらも別口の敵に対応できるように機動力に優れたヒロミチさんの烈風を隠しておくというのが安パイなのかもしれない。
「こっちもスラスターを使って土煙を上げるから、ライオネスはひっそりと行け!」
「オッケー!!」
幸い、私が目指している高台はすぐそこ。
おあつらえ向きに西側からの射線を切れるような遮蔽物もある。
カリーニンと紫電改がスラスターを使い始めて土煙が巻き上げられるも、脚力だけで駆けるニムロッドは大して痕跡を出さずに移動する事ができていた。
「さあてと……」
お目当ての高台へと近づいた私は機体を屈ませてから狙撃スポットへと移動して機体を膝立ちの状態でバトルライフルを構えさせた。
「敵は高機動タイプが1機……? アレは……」
射撃ポジに辿り着いてすぐ。
ニムロッドのメインカメラに丘陵を越えて姿を現した敵機が捉えられた。
どこかで見た事あるような白と黒のツートーンの塗装の細身の機体。
一般的なHuMoの人のものを模したそれとは違い、両の腕部自体が機関砲となっている特徴的なシルエット。
そしてニムロッドの壁面メインディスプレーに表示されたその機種名は……。
「モスキート・カスタム? 改修キット適用済みって事は難民キャンプの大型ミッション参加者!?」
敵も私を視認したのか照準を絞らせないよう左右に機体を振りながらこちらへとまっすぐに接近してくる。
モスキートはランク2の機体ながらその細身の機体も相まってサムソン系ながらトヨトミ系の機体を思わせる機敏な機動力を見せる。
「なんだ? 知り合いかい?」
「いや~……、そういうわけじゃないんスけど……」
「うん?」
「あの人、私とサンタモニカさんと同じくトクシカさんの護衛ミッションを受けてたと思うんですけど……」
私はつい先日の記憶を手繰って思い出そうとするが、そもそもあのモスキートのパイロットとは面識が無いのを思い出していた。
「あの人、第一ウェーブで撃破されてガレージバックしちゃったんでどんな人かは……」
「まあ、ランク2のモスキートじゃ陽炎や月光の相手は難しいだろうな」
「いや、陽炎とか月光が出てくる前にやられてましたよ? ていうか、もう戦闘開始早々にやられてたような……」
確か、あのモスキートがやられたのは私が待機中だった私がニムロッドに乗り込む前だったハズだ。
「なんだ、じゃあ雑魚か。とっととやっちまおう。クリス、前へ!」
「了解!」
「クリスさん一人でごぜぇますか?」
「うん。モスキートの豆鉄砲じゃカリーニンの正面装甲は抜けないよ。それよりもとっとと撃破して4対3の状況にしちまおう!」
小さな丘からアサルトカービンを乱射しながら飛び出していくクリスさんのカリーニン。
モスキートは右腕の機関砲をクリス機に向けるものの、ヒロミチさんの言うように小口径機関砲弾はカリーニンの装甲に弾かれて砕けた砲弾の破片はカリーニンの周囲の大地を穿って土を巻き上げていた。
「サンタモニカさん、私たちも……」
「了解でごぜぇますわ!!」
さらに私と中山さんの機体も射撃を開始。
確かマモル君の話だと、モスキートの機動力はほどほどのスラスター性能と軽量な機体構造からくるものだったハズ。
大推力のスラスターを装備しているわけではないので私たち3機の集中攻撃に緊急回避で逃れる事もできず、そして1発の被弾でバランスを崩し速度を落としてしまえば立て直しも難しい。
≪モスキート・カスタムⅠ:雑種犬を撃破しました。TecPt:3を取得、SkillPt:1を取得≫




