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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3章 騎士王討伐に備えよ!
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30 バトルアリーナ開幕

 時刻は11時49分。


 昨日の内に週末に出された学校の課題は終えているし、今朝も7時には起きて朝食後にはトレーニング。

 シャワーを浴びた後に早めの昼食を摂って私は自室に戻ってきていた。


 VRヘッドギアを被ってからベッドへと横になりゲーム機の電源を入れると私は夢の世界へと誘われるように仮想現実の世界へと旅立っていく。


「おっはよ~~~!! マモル君、とりまメシに行こう!」

「ええ? イベント開始まで1時間しかないですよ!? 僕は適当にインスタントで済ましますから……」

「いいから、いいから!」


 妙にハイテンションになっている私にたじろいでいるマモル君の手を引いて私は傭兵団地の中にある牛丼屋へと飛び込む。


 時間がもったいないとばかりに並盛の牛丼と牛皿を2人分ずつ注文すると、美味しさや安価さと同じくらいに提供が早い事をウリにしているだけあってすぐに私たちの前へと丼と平皿に盛られた料理が差し出される。


「ほれほれ、こうやって牛丼の上に牛皿をドバ~っと」

「うわっ、凄い贅沢ッ!」


 マモル君の分の料理をそうしたように自分の分も同じようにして肉マシマシ仕様にした丼をかきこみはじめるとマモル君もおずおずしたようにスプーンを使ってマシマシ牛丼を食べ始めていた。


 親子丼とかならいざ知らず、牛丼は具の形状の都合上スプーンでは食べづらいのではないかと思うのだけど、まあマモル君はトワイライト人らしいので箸は使い慣れていないのだろう。


 私は自分の分をとっとと食べ終えてからマモル君が食べるのを待つ間にタブレットを借りて公式サイトのイベントページを見ていた。


「特に新情報は……、お、イベント用ステージの画像がアップされているわね……」


 今回のイベントで使用されるのは「闘技場」「荒野」「雪原」「湿地帯」「砂漠」「廃都市」の計6ステージ。


 各ステージは「闘技場」と「廃都市」が3km四方、その他のステージが5km四方。

 3kmとか5kmとかなら砲戦機が装備している大口径長身砲ならば端から端まで届くような距離だが、それぞれのステージには遮蔽物や高低差があって長距離砲戦機が一方的に有利になるようにはなっていないようだ。


 逆に長距離砲戦機や中距離支援機が不利にならないように各ステージには狙撃や観測に使えそうなポイントもしっかりと用意されている。


「とはいえ、今回は相手もプレイヤーなのだから向こうもそれは織り込み済みか……」


 私がパッと見で分かるような狙撃ポジくらい誰だって見りゃ分かるだろう。

 上手く隙を突けるような立ち回りができればいいのだけど……。


 私は肉マシマシ牛丼を食べ終えて満足気な顔をする少年を連れてエアタクシーへと乗り込んだ。






 私たちが向かったのはイベント専用チームガレージ。

 すでに牛丼屋に向かう前に整備業者に頼んでニムロッド・カスタムは先にこちらへと送ってもらっていた。


「お~、こう並ぶと壮観なもんねぇ……」


 私のニムロッドの他、すでにチームガレージには烈風、カリーニン、紫電改と双月カスタム、雷電重装型が運び込まれていた。


「お待ちしておりました。ライオネス様ですね?」

「はい」

「皆様、すでに到着されております。ブリーフィングルームへ向かわれますか?」

「案内をお願いするわ」

「かしこまりました」


 私たちの元に現れたのは人間大のロボットであった。

 ヒロミチさんとこのアシモフのデザインを簡略化したようなそのロボットは外見どおりに通り一辺倒な応対をして私をガレージ隅に用意されたプレハブへと案内してくれる。


 冗談を言ったり愛嬌のある表情を見せるアシモフとは違い、このロボットはイベント用のアシスタントとして用意された存在のためなのか自我が希薄なようで自己紹介すらない。


「おっ、来たかい?」

「お待たせしました」

「おはようございます」

「よっ!」


 アシスタント・ロボットは「ブリーフィングルーム」だなんて言っていたが、ブレハブの中はただの狭い事務所のような所であった。


 蛍光色のLEDライトにホワイトボード、長机とパイプ椅子と壁掛けテレビ。

 それら全てが飾り気の無い機能性本位の物ばかり。

 一応、長机の上には個包装されたおしぼりこそあるものの、飲み物なんかはプレハブの外の自販機で買ってこいというくらいの徹底ぶり。


 私がそのブリーフィングルームと銘打たれた事務所へと入るとすでに他のメンバーは集合済み。


 ヒロミチさんだけが立ってホワイトボードに何かを書き込んでいたようだが、他のメンバーはみな椅子に座っていた。

 アシモフが立ち上がって私とマモル君にペットボトル入りのお茶を差し出してくるのをお礼を言いながら受け取って、空いている椅子へと座る。


「今はマップ情報が更新されてたからミサイル主体の雷電重装型は使うことがなさそうだってのを説明していたとこだ」

「双月はどうなのかしら?」

「それもなぁ……。折角、持ってきてもらってなんだけど、チームの構成を考えると紫電改を使ってもらった方が無難だと思うんだが……」


 ヒロミチさんはわざわざ3機種を持ち込んできた中山さんに配慮してチラリと目線をやるが、彼女も異論はないようでしっかりと頷いてみせる。


 中山さんだって今回のイベントを目標に紫電改を乗りこなせるように一人でミッションをこなしてきたわけだから異論があるわけもない。


 そして私が到着した事でヒロミチさんはホワイトボードに1つの表を書き始める。


 あらかじめデータを用意していたようでタブレットを見ながら書き込む表の縦の項には「烈風」「ニムロッド」「カリーニン」「紫電改」の機種名が、横の項にはそれぞれ「重量」「接地面積」「接地面積当たりの重量」の3項目。


 接地面積というのは、ようするに足裏の面積という事なのだろう。


「この表の重量は俺たちのチームメンバーのそれぞれの装備を加味したものだ。見てもらえば分かると思うが、接地面積当たりの重量がもっとも軽いのがサンタモニカさんの紫電改……」


 トヨトミ系の機体は三勢力の中でも小型軽量の機体となっているのだが、特に中山さんの紫電改は輪をかけて小型で軽量となっている。

 逆にヒロミチさんの烈風はトヨトミ系の機体としては標準的なサイズなのだが、ゴテゴテとスラスターやら推進剤タンクやらを増設しているために重量が嵩んでしまっている。

 結果として彼の烈風は接地面積は小さいのに重量は重いという事で「接地面積当たりの重量」は4機の中でもっとも大きい値となっていた。


 もっとも小さい値は中山さんの紫電改。

 紫電改と烈風の間にニムロッドとカリーニンという形である。


 ニムロッドとカリーニンではカリーニンの方が重量は重いのだが、その分、足裏のサイズが大きいために結果的に重量が分散されるという事なのか、接地面積あたりで考えればさほど変わらない数字であった。


「で、何が言いたいかというと、今回のイベントに用意されているステージの『雪原』『砂漠』、後は『湿地帯』もそうなのかな? 足場が悪いステージが用意されてるわけなんだけど、紫電改以外の機体は脚部を使った移動に制限がかかると思った方が良いと思うんだ。ま、俺の烈風はスラスター使った高機動でなんとかするけど……」


 そこまで言われてやっとヒロミチさんが何を言わんとしているか理解する事ができた。


 もちろん今までそうしていたようにニムロッドだってスラスターを使用したホバー走行はできる。

 だが、脚部で大地を蹴って加速する事や方向転換する事ができなければ機動力が半減するも同じではないだろうか?


「責任重大でごぜぇますわね……」

「もちろん足場の悪さからくる制限は敵も同じだけどさ!」

「ライオネスもしっかり援護射撃を頑張れよ!」

「もちろん!」


 幸いにも私は敵とバチバチに撃ち合う前衛ではなく、中距離からの援護射撃が担当である。


 足場の悪さの影響が最小限で済む中山さんと同じく、私がいかに敵を抑え込むかが勝敗の鍵になるような気がして密かに気を引き締めた。


 それよりもクリスさんだ。

 ヒロミチさんの烈風はスラスターの大推力で、中山さんの紫電改はその機体特性で、私のニムロッドは中距離支援という役柄でそれぞれ足場の悪さをどうこうしようとしているのだが、彼女のカリーニンだけはその影響をモロに受けてしまう。


 砂漠を埋め尽くす砂、雪原を覆い尽くす雪、どこまで沈み込んでしまうか分からない湿地帯の泥濘。


 どうやって彼女は戦おうというのだろうか?


 そして、ついにその時がやってくる。


 突如として事務所の壁掛けテレビの電源がオンになって、「バトルアリーナ参加しますか?」という文字と「参加申請」というボタンが表示される。


「それじゃ行こうか?」


 もちろん異議があるわけもないし、ヒロミチさんだってそれは分かっている。

 そのまま彼はタッチパネル式のテレビを触ると「戦闘開始まで 4:59」というカウントダウンが始まり、その背景が荒野のものへと変わる。


「とりあえず初戦は『荒野』ってことね」

「まっ、最初は小手調べってことで気軽に行こうよ」

「砂漠やらなんやらは次回に持ち越しってことだな!」

「それじゃ輸送機に行きましょうか?」


 とりあえずはホッとした私たちは担当AIたちの声援を背に機体へと乗り込んでいく。







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