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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第3章 騎士王討伐に備えよ!
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7 人機一体

私の鋼の拳が叩きつけられてパチモンが後退すると漏れ出した機械油がその白い装甲を汚した。


後退しながらもマサムネさんの雷電はライフルを(ニムロッド)に向けてトリガーを引き絞る。


だが私の左右で大きさの違うツイン・カメラアイは焦点を外す事はなかったし、額のレーダーセンサーもマサムネさんの機体を克明に捉え続けていた。


つまり私は自身に向けられようとするライフルの銃口の向きすら機敏に知る事ができたのだ。


当然、そのような状態の射撃では当たるわけがない。


私は小刻みにスラスターを吹かしながらステップを踏んで射撃を躱しながら距離を詰めていく。


流石に高い能力を持たされているマサムネさんの事であるから、すぐにライフル射撃が無意味である事を悟ると腰のホルスターから折り畳みナイフを抜き取って接近戦に備える。


バタフライ・ナイフを抜いたパチモン・ノーブルを見て、私は微塵も動かす事の出来ない顔でありながらも笑っていた。


なんと健気な男であろうか。


私と戦いたいがために色々と無茶をやり、私を本気にさせるためについにはマモル君に銃を向けるなどという真似をしてくれたマサムネさんであったが、それも小学生の男の子が好きな男の子の気を引くために他愛のない悪戯をするような事のように思えてくる。


私がライフルを捨てて、ビームソードではなくナイフを抜いたのは彼の健気さに報いるためであった。






「一体、どうなっているっていうんです!?」


全高16メートルほどの巨人同士の接触がもたらした衝撃に耐えながらマサムネは叫ぶ。


「落ち着くっス! すべてこちらの予想の範疇の事っス!」

「どこが!?」


マサムネの機体のナイフはスカイグレーのニムロッドのナイフで止められ、ならば至近距離からのライフルで再び距離を取って仕切り直しと思えばすでに彼の機体のライフルはニムロッドの掌で脇に押しやられていたのだ。


いや、距離を取ろうとしたとてニムロッドと一体化したライオネスがそれを許してくれたかは分からない。


軽い機体重量のために出足の加速に優れているハズのトヨトミ系の機体を上回る瞬発力をニムロッドは見せていたのだ。


「けるさん、『CODE:BOM-BA-YE』を発動しても機体スペック自体に変化があるわけじゃないんですよね!? それじゃあ、なんだっていうんです、このニムロッドの加速は!? とてもランク4.5の機体には思えませんよ!?」


ニムロッドの右手にはナイフが握られ鍔迫り合いの状態、左手は雷電IWNのライフルに添えられている。

つまりパイロットの両手は塞がっているハズだというのにニムロッドの胸の装甲が展開してCIWSが飛び出してきて25mm機関砲の連射を浴びせてくる。


まるで自分自身が絶え間ない砲火にさらされているかのような錯覚にマサムネは冷や汗をかきながらも、なんとか機体の腰を捻らせてライフルを自由にした。


「それも予想通りっスよ! 機種ごとに定められた動きしかできないハズのHuMoが人間の感覚で自在に動けるんス。つまり可動域の制限こそあれど、今のライオネスちゃんは全身の力をスラスターに乗せる事ができるっス!」


自身の担当から返ってきた答えも予想どおり、マサムネも事前に聞いていたとおりだ。

だが言うは易し、実際に目の当たりにしてみるとこれほどのものとは。

想定を大きく超えるニムロッドの動きにマサムネは歯噛みする。


腰を回して自由にしたライフルを使おうと機体を下がらせるも、ダンスのように一瞬で合わせられて再び距離を詰められる。


そしてニムロッドが右脚で繰り出したローキックが雷電IWNの左足に直撃。


「そんなものが効くか!?」

「あっ! 駄目っス、マサムネ君!!」


ローキックを繰り出す際に生じた僅かな隙を狙ってナイフを装甲と装甲の継ぎ目に突き立ててやろうとマサムネがフットペダルを踏み込むと、マサムネの体は左に大きく沈み込んでいた。


「今のはただのローキックではなくカーフキックっス! 身体の小さなレオナちゃんが体の大きな相手と戦うためにネットで散々に叩かれても使い続けてきた十八番(オハコ)っス!」


マサムネには知る由もなかったが、ニムロッドが放った蹴りは雷電IWNの厚い装甲やメインフレームではなく、その後ろにある人体でいえばふくらはぎの部分を狙ったものであった。


故に装甲の薄い部分の内部にあったピストン管やモーターは破壊されマサムネの機体の左足は大きくその機能を減じる事となっていたのだ。


ふくらはぎの筋肉の破壊を目的としたこのキックを「カーフキック」という。


元々は総合格闘技の世界で使われ始め、プロレスにも輸入される形で使われ始めた技であるカーフキックを敬遠して使わない選手も多い。多彩な蹴り技を得意とする選手ですらそうだ。


見た目が地味である。

なにしろローキックの打点をズラしてふくらはぎを狙う技であるからそこはどうしようもない。


客を沸かしてなんぼのプロレスラーがそんな技で勝利をもぎとっても、その試合には勝てても後には続かないのだ。


だが一部のレスラーにはその“しょっぱい”技がキャラ立てに役立つという者もいるのだ。

たとえば総合上がりのガチファイトがウリの選手などがその好例であろう。


そしてJKプロレスラーとしてのライオネス獅子吼もそうであった。


そもそも観客の投票による判定に勝敗を任せるつもりがない。

よって、いくらカーフキックで相手を弱らせから大技に持ち込んで客に反感を持たれても関係がないのだ。


逆に小兵レスラーであるライオネス獅子吼の蹴り1発で大柄の相手選手がマットに倒れ込む姿は否応なしに客を沸かせてしまう。

それが対戦相手を焦られるのだ。


「逆に脛の硬い所を蹴りに合わせて向こうの足の甲を潰してやるっス!」

「そんな機能、HuMoに無いでしょうよ!! それより次が来ますよ!!」


担当の言葉にマサムネは舌打ちする。

けるべろすの言うようにこの蹴りを潰す技法があるという事は当然、ライオネスだって知っているだろう。

それはカーフキックに対する事だけではない。


仮にけるべろすが言う「疑似BOM-BAーYE」とやらが実装されたとて、すでに格闘技経験者であるライオネスは優位を保ったままでいられるという事になるのだ。


複数のプレイヤーであたるべき力量を持たされているハズの自分がこうも遅れを取り、それが未来でもそうである事が決められているようでマサムネは忸怩たる思いを抱いていた。


さりとて今は戦闘中。


左足を潰された事でバランスを崩したマサムネの機体は逆に敵に大きな隙を晒す事となっていた。


ニムロッドがナイフを握った腕を大きく振りかぶる。


(逆に、逆に“プロレスラーである事”が貴女の弱点だ。そんな弓を引くかのような大振り、本当に必要なんですか? すんでで躱して反撃を)


だがマサムネはプロレスラーというものを本当に理解はしていなかった。

プロレスラーが凶器を持つ手を振りかぶったら、本当に注意すべきは凶器ではないのだ。


機体の可動域いっぱいを使って振りかぶられたナックルアローが雷電IWNの顔面に突き刺さる。


「こ、拳っ!?」


プロレスラーはたとえナイフを持とうとサーベルを持とうと、それが致命的な武器であればあるほど、それを敵に振うという事はない。

むしろ気をつけるべきは凶器を握る手である。


プロレスラーが本当に相手に使うのは栓抜きやパイプ椅子、ギリギリで有刺鉄線バットといった相手に致命傷を与えないものばかり。

故に全力でおもいきりやれるのだ。


頭部を潰され、今度は下から突き上げられるような両脚を揃えたスラスター付きのドロップキックを叩き込まれるとマサムネの機体は吹き飛ばされて赤茶けた大地に倒れる。


地面を幾度かバウンドしたのか、それとも対Gシートが殺しきれなかった衝撃が幾度かの渡って襲ってきたのか分からなかったが本当に地面をバウンドしたのではないかと思わせるほどの気迫のこもった蹴りであった。


マサムネがわけもわからないままに無我夢中で機体を起こしたのは自身に刷り込まれた本能にも似た情報によるもの。


なんとか機体を立ち上がらせたマサムネが見たのはナイフを持ったまま腕組みしたニムロッドの姿。


「ぷふっ! 可愛いっスよね! レオナちゃんの腕組みの位置がやたら高いのは胸が小さいのを隠すためなんスけど、それをかたくなに認めないんスよね!」


8kmも離れた所から担当がなんとか愉快そうに笑うが、腕組みするニムロッドと相対するマサムネにはとてもそうとは思えなかった。


機体フレームの限界ギリギリまで使って高い位置で腕を組むその姿は彼には圧倒的な強者がその力を自覚したが故の自尊心の塊のようにしか思えなかったのだ。

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