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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第2.5章 サンクチュアリの子供たち
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35 空中戦

 大型ビームソードという兵装はライオネスのニムロッドも装備していた。


 だがライオネスの機体が装備していたランク3のビームソードは低ランクの物ゆえにビームを技術的な観点からビームを収束しきれておらず、結果的に馬上槍(ランス)のような刃となっているのだ。


 対してホワイトナイト・ノーブルの固定装備である大型ビームソードはゲーム内最高クラスの製造技術を持った収束技術を通した上で大剣(バスターソード)のような巨大な剣身を形成できるほどの超高出力のものである。


 故にノーブルの大型ビームソードに耐えられる装甲などゲーム内には存在しないのだ。


 触れれば溶断される。

 踏み込めば踏み込むだけ深く敵を切り裂く事ができる。

 まさに必殺の兵装。


 別にファンタジー物のゲームであるような「即死属性」とか「耐性無視」とか、そのような能力が付加されているわけではない。


 ただただ高出力で高威力の兵装というだけだ。

 故に対処法などは存在しない。


 スラスターを吹かしながら小さく跳びはねながら突っ込んで赤い剣身を振り下ろせば敵は両断され。

 姿勢を低く敵中を駆け抜けて横薙ぎに振えば、両脚を失った機体たちが次々と大地に倒れていく。


 無人の葦原を背の高い葦を狩りながら駆け抜けていくが如く。

 新体操の選手が曲にのって得意の演目を披露するが如く。


 白騎士たちの王は敵中へと飛び込んでただ剣を振るい続けた。

 付き従う白騎士たちただの1騎もおらずとも王の威厳は絶対的なものであるかのように振舞い、その威厳を傷つける者はいない。


 ノーブルの機体性能のみがそれを成し遂げているわけではないのは誰が見ても一目瞭然。


 一体、あの機体の中にいるパイロットにはどれほどの負荷がかかっているというのだろうか?


 飛ばして、旋回させ、跳ねさせて、姿勢を落として、急制動をかける。

 その行動の1つ1つが常人を気絶せしめるに足るであろう事は間違いないが、それを繰り返し続けるというのは狂気の沙汰でしかない。


 敵集団の誰しもが例えカーチャ隊長のキャラソンが無かったとして、あの白い機体を駆っているのは間違いなくカーチャ隊長であろうと思ったであろう。


「まっ、こんなモンかな……」


 ホワイトナイト・ノーブルを駆るマーカスが撃破した、あるいは無力化した敵機はすでに百機を超えている。

 熟練のバーテンダーが振るシェイカーの中に放り込まれたとてこれほどの負荷はかからなかったであろうという状態を経てなおマーカスの声はのんびりとしたものであった。


「んじゃ、連隊各機、地上の敵は後は任せたわ……」

「は? お前は?」

「決まってんだろ。調子こいてくれやがった野郎どもにお灸を据えてやろうとね!」

「あ、おい! 待て、馬鹿!?」


 まだ敵は100機近くは残っている。

 だがマーカスはただ闇雲にノーブルを駆けさせたわけではない。

 ノーブルが駆け抜けていった所にまだ戦える敵機は1機たりとも残ってはおらず、残った敵機は分断され連携が取り難いだろう。

 というかマーカスの口調からは「雑魚の相手は飽きた」と言わんばかりに辟易した様子が滲み出ていた。


 そこまでは良い。

 しかしマーカスはノーブルのスラスターを全力で吹かして機体を大空へと飛ばしたのには納得がいかなかった。


「飛燕はもうマトモな対地攻撃なんかできねぇんだから放っとけよ!? お前だって分かってんだろ!?」

「蝿が無害だと分かっていても不快なものは不快だろう?」


 4機の飛燕隊は陽炎に超音速の対艦ミサイル攻撃を仕掛けてから戦場の上空を編隊を組んだまま旋回し続けているのだ。

 無理もない。

 対HuMo用の物ならばいざ知らず、対艦用のミサイルなどそう大量に搭載できるものではないのだ。


 各機4発ずつの対艦ミサイルを撃った後に飛燕に残っている武装はせいぜい自衛用の短距離空対空ミサイルが数発と機体下面のガンポッドに機体上面のCIWS程度だろう。

 ガンポッドを使って対地攻撃を仕掛ける事もやれない事はないのだろうが、現状でそれをしてこないのには理由がある。


 飛燕の弱点、それはランク6としては低すぎる装甲に耐久力。

 装甲値に至ってはランク1の機体と同等程度のもので被弾=貫通弾と思っていい。

 つまりは対地攻撃を仕掛ける事はこちらの対空砲火の射程圏に入る事を意味し、あっという間に撃墜されてしまうというわけだ。


 だがそれもマーカスが空へと上がってしまえば話が別である。


 脚部を折りたたんだフライトモードの飛燕は制空戦闘機そのものといっていいような機体外観となる。

 スラスターの推力だけではなく、翼を用いた航空力学にのっとった機動が取れるのだ。


 反面、ノーブルは金属とセラミックとカーボンの巨人を無理矢理に各所のスラスター推力で飛ばしているだけ。


 どう考えても空を飛んでいる状態での機動力には向こうに分があると言わざるとえない。

 どだいノーブルの飛行能力は中立都市内で起きた事件現場に早急に到着するためのものに過ぎないのだ。


 空を飛ぶ事ができてもホワイトナイトは陸戦兵器である。ノーブルとてそれは同様。


 主力戦車(MBT)が空を飛んで制空戦闘機に勝てるか?

 ジェットパックを背負えば歩兵も空を飛べるだろうが、それで戦闘ヘリと戦おうと考える奴がいるか?

 勝てない。勝てるわけがない。そんな事を考える者すらいないだろう。


 しかも、だ。

 こちらが地上にいるならばロクな攻撃手段のない飛燕隊も、ノーブルが空へと上がってしまえば話が別である。


 向こうはノーブルのHPを削りきる必要は無いし、装甲を貫いてコックピットブロックを破壊するなんて考えなくともよいのだ。


 ただ飛燕はノーブルのスラスターの幾つかを使用不能にすればいい。

 背部にあるもっとも推力の大きい物ならばそれだけでもいいだろう。


 それだけでノーブルは大空に留まる事ができずに地上へと下りてこなければならないだろうし、最悪、バランスを崩して墜落という事になればそれでマーカスは機体とともにガレージバック。


 ノーブルの性能を考えればHPは残るのかもしれないが、中に乗っているパイロットはそうはいかない。高度数千メートルからの墜落となればいかにマーカスといえども死亡判定は免れ得ないだろう。


 そうなってしまえばノーブルを倒した事で敵は勢い付き、逆にこちらは精神的な支柱を失って一気に押し込まれてしまう可能性すらあるのだ。


≪飛燕:ノイマンを撃破しました。TecPt:15を取得、SkillPt:1を取得≫


 ……うん。

 なんか馬鹿らしくなってきたな。


 流星が天へと舞い戻っていくが如くに一直線に上空へと駆け上がっていったノーブルは空中で腕や脚を振って慣性を作って機体を振り回して空中を泳ぐように跳ね回ってミサイルやら砲火を躱し、反対に右前腕部のビームガンを使って敵編隊の右翼機をあっという間に撃墜していた。

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