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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第2.5章 サンクチュアリの子供たち
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25 対プレイヤー戦

『なんで陽炎が……?』

『しかもアレ、BOSS仕様の奴じゃね~か!?』

『いやいやトクシカの護衛ミッションで出てくるBOSS属性付きの奴だってHPは40,000だったハズだ。アイツのHPは42,000もあるぞ!?』

『散開……、散開しろッ! 固まってると狙われるぞ!? ……ごふ』


≪タイフーン:イサクを撃破しました。TecPt:14を取得、SkillPt:1を取得≫


 大きく腕を振って味方機に散開を指示していたタイフーンは敵側の小隊長機か何かであったのだろうか?

 固まったままであればこちらの連射火器の餌食になるのはまさにそのとおり、だがそんないかにも指揮官機でございという目立つ行動は自身が狙い撃ちされる結果となっていた。


『アレはセンチュリオン!? いや、だいぶ姿が違うな?』

『カスタム機、……違うな。運営チームの専用機じゃないか?』

『いずれにしても棒立ちで戦おうってか!?』

『野郎、舐めやがって!!』

『また1機やられたぞッ!! いや、もっとだ。何機やられた!?』


 そして敵は陽炎にだけ注意していればいいというわけでもないのだ。


 建造物の上に乗って大型ガトリング砲の三脚を展開して固定砲台と化した山下のセンチュリオン・ハーゲンの猛連射が敵に撃ち込まれ始めると次々と敵前衛に穴が空いていく。


 敵もただ撃たれているだけではなく反撃を試みるが、ガトリング砲を両手で構えた状態では戦国時代の日本の甲冑に見られるよう大袖のような肩アーマーが上手く増加装甲の役割を果たしてマトモなダメージを与えられないでいる。

 むしろ撃たれながらもガトリング砲の連射を止めないセンチュリオンは敵にプレッシャーを与えているようである。


「あのハゲ、マトモにHuMoの操縦ができねぇからって棒立ちでもそれなりに戦える機体を用意してもらったようだな」

「おいおい、そう言ってやるなよ? それなりったって結構な戦果をあげてるじゃないか?」

「だな! むしろあの専用機を敵に誇示するのにはむしろ棒立ちなのが良いのかもな!」


 そして私たちの部隊は陽炎、パイドパイパー、センチュリオン・ハーゲンの3機だけではないのだ。


 100機近いマートレットⅡ、キロbis、雷電改のランク2部隊もそれぞれ交互に前進と足を止めての支援射撃を繰り返して徐々に前進して滑走路や運動場に迫り出した装甲壁に入り込んで迎撃の布陣を作り出していく。


 マーカスが命じた「交互躍進」とは歩兵戦や戦車戦などで使われる基本戦術ではあるが、HuMoも高度なセンサーとFCSを有しているとはいえ、当然ながら移動しながらでは射撃の精度は落ち、また遮蔽物に身を隠しながらならば被弾のリスクを避けられるためにHuMo戦においても有効な戦術となっていた。


 だがこれまで、β版を含めても大隊規模でこれほどに見事な交互躍進を指揮したプレイヤーがいただろうか?


第一中隊(アルファー1)速度を上げろ! まだ第2中隊(アルファー2)第3中隊(アルファー3)は追い付いていないが、どの道まだ敵に側面を突かれる局面ではない。滑走路最北端の確保を急げ!」

「アルファー1了解!」

「HQゼロ、アルファー1の支援を頼めるか?」

「了解、任せてくださいな!」


 マーカスの声は早口でありながらも聞き取りやすく、むしろ耳に心地良いと思えるほどだ。


 マサムネに第一中隊の支援を頼むとマップ画面に超小型機を示す光点が2つ現れて滑走路北側へと向かっていき、それを追うかのようにHQゼロを示す光点が一直線に加速を始める。


 HQとは即ち司令部を示す略語であり、連隊指令直轄部隊のゼロ番、つまりは員数外(好きにやってろ!)とされたマサムネは徐々に丘を下りてトイ・ボックスへと近づいてくる敵正面の真ん前を横断するような真似をしながらサブマシンガンを連射しながらヘイトを稼ぎ、そして敵の前進速度を低下させていた。


「サブちゃん、右に進路を取れ、敵の注意をこちらに向けるんだ!」

「了解ッ! その前に、っと!」


 私は進路を変える前に再び胸部大型ビーム砲を発射。


≪烈風:ホリを撃破しました。TecPt:12を取得、SkillPt:1を取得≫

≪オライオン:バリスタを撃破しました。TecPt:12を取得、SkillPt:1を取得≫

≪マートレット・キャノン:にゃんにゃんを撃破しました。TecPt:11を取得、SkillPt:1を取得≫


 ビーム砲の第二射で撃破できたのは3機、他に1機が行動不能に陥ったようだ。


 命令を実行に移すのが1テンポ遅れる事になるが、命令の趣旨が移動を急ぐ第1中隊から敵の注意を逸らすためのものであるならむしろビーム砲を撃ってからの方が良いだろう。


 だが上手くやれてる私に冷や水を浴びせるように小さな振動がコックピット内を襲い視界の左側で爆炎が生じる。


「大丈夫、装甲で阻んでいる。気にするな!」

「りょ、了解!」


 進路を東に変えて敵正面に側面を見せた形となっていたために被弾したのは巨大な肩アーマー部、3発の被弾に対して減少したHPは119と軽微なものである。


 とりあえずは左第1椀を操作して攻撃を加えてきた雷電陸戦型へ走りながら連射を浴びせて牽制。


 さすがにランク6のライフルにランク7の砲弾ではあっという間にランク2の雷電陸戦型は撃破できた。

 だが撃破ログがでない……?


「あっ! 誰だ、サブちゃんの獲物を横取りしやがった奴は!?」

「別に良いだろ!? むしろ味方が上手く支援できてる証拠じゃないか!?」

「良かないわい! サブちゃんのスキルポイント横取りしやがって、大型ビーム砲用意、ハイエナ野郎にブチ込んでやれ!」

「ざんね~ん! チャージ中で~す……」


 圧倒的多数の敵機を相手にしながら軽口を叩く余裕があるというのはむしろ褒めるべきなのだろうか?


「お前、もしかして私を陽炎に乗せたのって、私の育成用ポイント貯めるためか?」

「言わなかったっけ? 大人というのは1つの事に幾つもの意味を持たせるものさ!」


 軽口を叩き合う私たちの元にゾフィーから通信が入ってくる。


「各大隊、配置についた! “飽和攻撃”用意!」

「了解。手筈どおり指示はこちらから!」


 一瞬にして真剣な声になったマーカスはタイミングを見計らう。

 後ろにいるマーカスの視線が睨みつけているであろうモニターを貫通して私の背中に突き刺さりそうなほどの緊迫感を感じて私も操縦桿を握る手を強く握りなおす。


新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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