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ジャッカルの黄昏~VRMMOロボゲーはじめました!~  作者: 雑種犬
第2.5章 サンクチュアリの子供たち
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8 喫茶室にて

 格納庫から見えていた窓のあった部屋は簡易的なカフェのようなスペースであった。


 マーカスによると現実世界にある大型自動車用品店にある休憩所なんかもこんな感じの雰囲気らしい。

 マーカスは夏場は自動車のオイル交換は自分でやるらしいが、さすがに冬場は寒いのでカー用品店に任せるそうだ。


 そりゃ確かに自分の愛車を眺めながらコーヒーを楽しむというのは趣きがありそうな話ではあるが、だがしかし、兵器の整備を見ながらコーヒーなんか飲んでもリラックスできるのだろうか?


 今も窓の外を陽炎に搭載するのであろうミサイルのコンテナを牽引するタグカーが通り過ぎていったばかり。

 他にも格納庫に立ち並ぶ数多の人型機動兵器の傍らにはそれぞれ大砲といってもいいようなHuMo用ライフルやらがパレットの上に置かれていて剣呑な雰囲気。


 幸い、円形のテーブルを囲む私たち5人の席からすると、私の席からは後ろを振り返らないと格納庫は見えないわけで、代わりに私の正面側の窓からは運動場でフットサルをする少年たちの姿が見えていた。


 どちらかというとそちらを見ているほうが気が安らぐのだが、ボールを追い回す少年たちもここの入居者たちだと思えば物悲しさが胸の中に湧き上がってくるわけで努めて無心で熱いカフェオレを啜る事にする。


「なるほどねぇ……。こりゃあ確かに不思議だなぁ」


 全員が注文した飲み物が揃った所でキャタピラーはタブレット端末をマーカスに手渡してこないだからこの施設周辺に現れ始めたという不審者とやらの画像を見せる。


 マーカスはタブレットを斜めにして私からでも見やすいようにしてくれると、そこに映し出されていたのは1機のHuMo。


「雷電強行偵察型か……」

「どんな機体だい?」

「まあ、頭部のアイカメラが大型の単眼式になった、見てのとおりの偵察機だよ。後は直線的な加速力とかは優れてるけど逃走用の足だね」


 雷電強行偵察型は雷電シリーズながらランク3の機体である。

 ベース機がランク1、陸戦型や重装型などの改良型がランク2であるのに対してランク3に配されているだけあってその偵察能力は高いものがある。


 反面、基本的な機体構造自体はランク1の物に小改良を加えた程度のものでしかないので打たれ弱いのは変わらないが、直線方向への加速のために集中配置されたスラスターは同格の高機動機と同等の速力を発揮して鈍足な機体ならば簡単に振り切る事ができるだろう。


 しかし、画像の雷電強行偵察型はマーカスが言うように確かに不思議なものではあった。


 まずド定番の手持ち式複合センサーポッドこそ持ってはいるものの、同じく攻略WIKIなんかではマストの装備とされている爆薬で投棄可能なタイプの増加装甲は取り付けられていない。


 一応、腰の後ろにはサブマシンガンを用意してはいるようだが、雷電シリーズの耐久力の無さを考えればマトモに戦えないどころか、初撃で脚部を損傷してしまえば逃げる事もできないだろう。


「……なるほど、それだったら余計にだな」


 私が思った事を伝えると、マーカスはうんうんと何度か頷いた後でタブレットをスワイプさせて引きの画像にする。


「うん? ああ、そんな防御力が無いような機体で稜線を越えてきているのがおかしいってことか」

「そう、そう!」


 引きの画像にする事で背景が露わになっていた。

 撮影地点がこのVR療養所からだとすると、不審機は私たちも越えて来た稜線を越え、機体全体を撮影者に対して晒している事になる。


「それでいてこちらからの通信には何も応じず、私たちがHuMoで向かっていってもとっととトンヅラというわけなのよ」


 パオングが自分のタブレットを使って見せたのは緑と黄の草原の中を撮影者に背を向けて一目散に駆けていく雷電強行偵察型の姿であった。


『ちょっと~!! 話だけでもさせてくれないかしら~!!』


 動画には不審機に対して呼びかけるパオングの声も記録されていたが相手から返答は無い。


 パオングのオライオン・キャノンはランク4の機体とはいえ砲戦仕様の鈍足機である。

 動画は小刻みに揺れてパオングも機体を全速で駆けさせているのは分かるが、雷電強行偵察型はみるみる内に距離を離していく。


「となると俺たちみたいに探検に来たってわけでもなく、なにか明確な目的のために偵察に来たってみるのが順当なとこだろうけど、それにしては無防備に姿を晒すのは……。攻撃されないと分かってる? いや、それを確認するためか? いずれにしても“ここ”がどういう場所か分かっているという事か……?」


 そのままパオングの動画は不審機に振り切られた所で終わり、マーカスは手渡されていたタブレットに目を戻してブツブツと呟きだしていた。


 彼の言う事はもっともらしいが、かといってそれから結論が出るという事はなく、思考の連鎖が止まったところでブラックのコーヒーが淹れられたカップに手を伸ばす。


「おや!? このコーヒー美味しいぞ!!」


 不意に大きな声を上げたマーカスに一同の視線が集まった。


「そうかしら?」

「はえ~、いつもジュースかコーラしか飲まないから知らなかったさ~! 今度試してみよ!」

「馬鹿! ミルクと砂糖をドバドバ入れるんなら何飲んでも変わんないよ!」


 キャタピラーとパス太はメロンソーダを、私はホットのカフェオレを頼んでおり、マーカスの他に唯一コーヒーを飲んでいたパオングもミルクと砂糖を入れていたためにマーカスの驚きに対してピンと来ていない様子。


 私も試しにカフェオレを良く味わおうとしてみるものの、たっぷりのミルクと合わせるために濃いめに入れてあるのだろうなとは思うがよく分からないというのが正直なとこだ。


「……豆が違うのかな?」

「いや、違うな。豆はちょっと良いヤツってくらいで特に驚くほどでもない」


 適当に相槌を打つために行った私の言葉は即座に否定される。


 仮想現実の世界なら現実では希少で高価な素材でもいくらでも使えるのだからと思ったのだが、どうやら話はそう単純な話ではなさそうだ。


「じゃあ、淹れ方?」

「いや、このくらいの腕前ならその辺の喫茶店にごろごろいるんじゃないかな? 違うのは道具だな……。パパは昔、『月刊ファイター・ウイング』でコーヒー関係のコラムの連載もってたくらいには詳しいんだよ!」


 なんで「ファイター・ウイング」なんて名前の雑誌でコーヒーのコラムなんてやってんだよ……。

 ミリタリー係の航空機の雑誌だろ? タイトルからして。


 コイツ、現実世界でも無茶苦茶してんのか?


 私の中で声にならないツッコミがいくつも湧いて出てくるが、意気揚々と語り出したマーカスは止まらない。


「これはドリップに使っているのが違うんだな、うんうん。普通は(ペーパー)とか(ネル)とか使うんだが、ここのコーヒーは目の細かいメッシュを使っているんだ」

「そ、そうか……」


 素晴らしいコーヒーとの出会いに舞い上がったマーカスは私たちの視線が自分ではなく、その後ろへと向けられているのにまだ気付いていない様子。


「紙や布なら吸われてしまうコーヒーの油やら旨味やらがメッシュなら落ちていくんだな! その分、雑味とかも出てくるんだが、そのあたりも含めてパパの好みだな~!」

「へ、へぇ~……」


 マーカスの後ろ、調理スペースのカウンターの向こうでは気障なイケメンといってもいいような青年がマーカスの語りに合わせてドリップ用の三角形のメッシュ生地をヒラヒラとこちらに見せつけていた。


 注文や配膳の時には中年女性のウェイトレスが行っていたために気付かなかったのだが、ここのカフェの調理はマーカスの若い頃をモデルにしたというAI「マサムネ」が担当しているようだ。


 そりゃマーカス好みのコーヒーだろうよ!

 なにせ本人は雑誌で連載してたくらいだから嗜好はだだ漏れ。


 それにしても後ろからニセモノ登場とはテレビのモノマネ番組とは逆パターンかよ。

ちなみにこのカフェのマサムネは「コード・ボンバイェ」を発現させたプレイヤーとの戦闘経験がもっとも豊富という設定。


というのもβ版の元防衛大臣の担当AIが記憶引き継ぎでカフェやってるって設定。

設定だから後で使うかは知らん!

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