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【4巻発売記念SS】弱気MAXな妹が辣腕少年と婚約してしまった(前)

ピアの兄、ラルフ視点です。

ラルフ13歳、ピア8歳、サラ15歳スタートです。

 夕食後、職人街からもらってきた廃材で工作をしていると、激しいノックの音がした。驚いて時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうという時間だ。


 早足でドアを開けると、私より少し年上の、サラが立っていた。


「サラ、夜更けにうるさいよ?」

「最初は優しく叩いておりましたっ! 全然ラルフ様が気が付いてくれないからっ!」

 サラはそう言いながら、軽く私を睨む。


「え、そうだった? ごめん。それで何の用?」


「おおかた、工作に夢中になっていたんでしょう? 旦那様と奥様が居間でお呼びです」


「こんな遅くに?」

「旦那様が帰られたのが、つい先程なんです」

「なんだろう? わかった。すぐ行くよ」


 私は油のついた手を洗って、体のほこりを払い、居間に向かった。




 ◇◇◇




 居間に入ると、父は目を閉じて腕を組み、母は頭を抱えていた。


「お呼びですか?」

「呼んだ呼んだ。ラルフ、座ってくれ」


 父に促され、両親の正面のソファーに腰を下ろした。


「いかがしました?」

「ピアに縁談だ」

「……へーえ」


 自室ですやすやと眠っているだろう妹のピアは8歳、一応貴族の端くれの我が家、縁談が来ても年頃的にはおかしくない。

 ただ……我が家と縁を結んでも、相手に旨味など全くないのだが。だから私の婚約者も決まっていないし見通しもたっていない。

 そして両親の表情を見るに、どうやらめんどくさい相手のようだ。


「まさか借金まみれという噂の、マントル伯爵家や、バロー子爵家だったり?」


「借金などあるわけない! それよりはうんとましだ! きっとマシなはず? いやマシなのか?」

「どっちですか?」

「うーん、わからん」


 私は諦めて母を見ると、母が父を肘で突いた。父は大きくため息をつき、


「スタン侯爵家のご子息なんだ。ルーファス様とおっしゃる」


「……はあああ?」


 スタン侯爵家を国民で知らぬものはいない。国の北部に広大な領地を持ち、そこを堅実に運営しつつ、中央で宰相として力をふるうスタン侯爵。四侯爵家筆頭。貴族社会の頂点に君臨する家だ。

 そして噂では、子どもは嫡男一人……。


「……えーっと、親戚筋の三男坊とか?」

「いや、直系で、次期侯爵100%だよ」


「ええええ……」


 思わず口が開きっぱなしになる。


「ああ……なんでうちのピアが侯爵家の婚約者に選ばれちゃうわけ? そりゃ、ピアはかわいいわ。ちょっとピントがずれてる時があるけれど真面目だし、優しいし、お手伝いを一生懸命してくれるし、あなたとラルフの話を理解しようと頑張るくらい、知識欲があるからきっとどこに行ってもお役に立てる。顔立ちが地味なのは親が地味なんだからしょうがないでしょ? でも、どう考えても荷が重すぎるわ……」


 母が右手で額を押さえながら、悩ましげにぼやく。


「なるほど……おそらく益もなく害もないから選ばれた、と」


「……まあ、先の戦中の我々ロックウェルの取り扱いのことなど少しは関わりあるかもしれないが、結局それが一番だろう。侯爵家を今のところ煩わせない家、ということだ」


「正直なところ、断れる相手ではないでしょう?」


 父が水差しから水をコップに注ぎ、グイッと飲み干す。


「……ふぅ、一度顔合わせをして、問題なければ……整うだろう。そして、ピアが嫁いだスタン侯爵家と、一番長く付き合うことになるのは、私でなくラルフだ」


「はい」

 私は口元を引き締める。


「私たちはどうしたって先に死ぬ。そのあとピアを支え、間違いをおこせば諭し、もし、悲しい目にあった時には……受け入れて面倒を見るのはラルフ、お前になる」


「それは、ピアがどこに嫁ごうと生じる問題でしょう。まあ確かに、相手が大きすぎて、細心の注意を払うことにはなりますが……はあ」


「ラルフ、あなたの婚約者も決まっていないのに、ごめんね」

 母が眉根を寄せて、私を見つめた。


「いえお母様、こうなっては、決まっていなかったことは良かったと。ピアが婚約すれば、我々はスタン派に加わります。ロックウェルの次期伯爵夫人には、スタン侯爵家に敵対せず、疑念も抱かせないような相手を選ばなければ」


「そんな女性……どうしよう、私にはわからんぞ。勢力図など最低限しか頭に入ってない……」

 父が両手で頭を抱えた。


「お父様、当面は私の縁談のことは忘れてください。ピアの婚約が無事整うまでは、家族一丸となって、そちらに注力しましょう」


 三人で力なく頷いた。


「とりあえず、いつ侯爵家の使者が来てもいいように、門でも新しくしておこうか?」

「あなた、先週領地のお義母様から整地費用の相談を受けたばかりです。余裕はどこにもないわ」


 私は思わず肩をすくめる。

「今更見栄を張る必要はないですよ。ぜーんぶとっくに調べ上げられてますって」

「……そうね」


 いつもの元気が消えた母の肩を、父が優しく引き寄せる。


「ラルフの言うように下手な小細工せず、ありのままのロックウェルとピアを、受け入れてもらうしかないな」

「まあでも、ピアはおっとりしているようで、きちんと物事を理解しているから、侯爵家の邪魔になるような真似はしないでしょう」

「しかし常識は持っているとして……ロックウェルであるピアを、受け入れてくれるかが……悩ましい」


 父の口ぶりに、おやっと思い、首を傾げる。


「お父様、ピアはやはり? 既に()()を見出しているのですか?」


「まず間違いないだろう。先日、私の農業試験場に連れていったら、土や石を何やらじっくり観察していた」


 人形遊びに夢中になりそうな年頃なのに、土に興味……間違いなく、母よりもロックウェルの血が勝ったようだ。


「まあ、じゃあピアも農業系に夢中になるのかしら? 侯爵夫人として、どうなの?」


 三人黙り込んだ。


「考えても仕方ありません。なるようにしかならない。もしピアが、婚約後に侯爵家にふさわしくないとみなされたときには、私が一生面倒をみます」


 五つも年の離れたピアは、ちょっとからかえばすぐ頰を膨らませて怒り、褒めれば顔を真っ赤にしてモジモジと照れる……結局のところかわいい妹なのだ。


「ラルフ、ありがとう」

「ラルフ、優しい子ね。とりあえずピアに早速ドレスを作らないと……紺なら間違いないとして……ところでサラ?」


「はい」


 サラは入口近くにずっと控えていた。

「サラもピアを妹のように可愛がってくれているのはわかってるわ。でも、これからは気を抜かぬよう厳しく指導してちょうだい。侯爵家で苦労しないように」


「ピア様に、厳しく……ですか? そんな……できるかしら……」


 サラは心に傷を負ってロックウェルにやってきた。そんなサラの過去など知らず、ただただサラを姉のように慕うピアの前でだけ、サラはリラックスできる。ゆえにサラはピアを特別に可愛がっている。


「うん。それと、サラもアカデミーを卒業後の進路をしっかり考えておくように。ピアはこうして道が決まってしまったからね」


「わ、私は……はい。真剣に考えます」


 いつまでも、現状が続くわけではないことを突きつけられたサラは、顔色を無くした。

 心配いらないのに。私だってサラのことは、もはや家族と思っている。私はサラに明るく告げた。


「サラ、ピアとサラが出戻っても、二人くらい面倒を見る甲斐性くらいあるって! 任せて」

「サラ、おかしな心配しないの! あなたが変な言い方するからっ!」

「サラ! 私はサラに好きなことをしてほしいだけだぞ!? サラは娘だ。あいつの代わりに……サラが幸せになるのを見届けたいだけなんだ」


 私たちの勢いに、サラはポカンとしたあと、目を潤ませて頭を下げた。

「……ありがとうございます、ラルフ様、奥様、旦那様」




 ◇◇◇




 やがてピアとスタン侯爵令息……ルーファス様の婚約が正式に整った。


 初めてこのロックウェル邸に彼が訪れたとき、挨拶を受けたのだが、それはそれは完璧な過不足のない……9歳らしさなど微塵もないもので……

 このお子さん、絶対大人だろう? と思った。


 婚約者たちは当たりさわりのないお茶会を月一回ほど続け、両親は胸を撫で下ろし、私はまあ、この関係を維持するつもりならばこんなもんだろう、と思っていた。


 そんな既定路線を歩んでいた一年後、国中にたちの悪い風邪が流行った。そして我が家では一番小さなピアが罹患し、高熱がしばらく続き、家中が塞ぎ込んだ。


 一命を取り留め、症状が落ち着くと、ピアは死をかいくぐったせいか少し雰囲気が変わり、何かに怯えるようになった。そしてすっかり弱気になり、ルーファス様との婚約を解消したいと両親に願った。

 確かに最近、頻繁に発熱する。サラによると睡眠中もうなされているらしい。高位貴族は心身共に健康でなければ務まらない。納得できることだった。


「体調の問題ならば、当然侯爵家に頭を下げるが……、それを理由にすれば、ピアはもう結婚はできないかもしれないよ? 長い人生、どうやって生きていく?」


「その時は、お父様、私、化石で食べていこうと思ってます」

「「「……かせき?」」」


 ピアのロックウェルの血がとうとう明確な形となって現れた。

 その未知なる「化石」について、私と父で聞き取ると、案外出来上がった理論で、ピアが既に熱意と確固たる意志を持っていることがわかった。実地の研究が全く足りてないけれど。


「ふむ、ピアがそう断言するのなら……きちんと実証してみなさい。応援するし手を貸すよ。でもお金はあまり出せん。ピア、ごめんな」


 父は愛おしそうにピアの頭を撫でた。私が音の研究で生きていきたいと告げたときもそうだった。


「はあ……ピアもやっぱり研究の道に行くのねえ」

 母は潔く、ピアの侯爵夫人への道を諦めた。


 まあ、問題ない。元の地味なロックウェルの生活に戻るだけだ。



 

本日、弱気MAX令嬢なのに、辣腕婚約者様の賭けに乗ってしまった④ 発売しました!!

祭りです。わっしょい٩( 'ω' )و

今日明日2日間、ラルフあにきのぼやきにお付き合いください。

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[良い点] SS更新、ありがとうごじゃります<(_ _)> 小田様に必要な「即買い」はちょっとできないんですが、必ず購入しますので~ [気になる点] >>>ちょっとからかえばすぐ【口を膨らませて】怒り…
[良い点] ロックウェル家の日常が好きです 読み足りないです 好き過ぎて、もっと読みたくなる、、、 [一言] 4巻買いました!! 本が手元に届くまでまてなくて、電子書籍版も買いました とてもよかったで…
[良い点] いい人しかいない…兄がめんどくさがりかと思ったらしっかりと妹のこととか考えてて素敵だと思いました! [一言] 4巻発売おめでとうございます! 予約していたのですぐ読めて楽しい毎日です! い…
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