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【2巻発売記念SS②】ロックウェル博士のありふれた一日(前)

書籍に合わせてピアとルーファス、結婚前の我慢の婚約者時代設定です。


「はあ……」


 ここはアカデミーの図書室。目的の本がなくてつい溜め息をつくと、本棚の陰から声がかかった。

「どうした?ピアちゃん」


 聞き慣れた声なので慌てずにそちらに振り向くと、相変わらずの黒ローブに白いヒゲのラグナ学長だった。

「学長先生こんにちは。ええと、カンジュ山噴火について書かれている本がないかと探してます。学術的なものでなくても、伝記のようなものでもいいんですが。火山灰がどのくらい降り積もった〜とか、降灰範囲とか書いてあると嬉しいんですけどね……」


「カンジュ山の噴火……およそ500年前じゃな。まだ庶民は字を習得してない頃じゃから、残っているとすれば、貴族の日記か役人の記録……当然原本はなかろうし、写し……公文書ならば……ふむ、王宮に行ってみるか?」


「え? そんな……あの、秘密書類なら知るのは怖いんですが。っていうか、500年前はアージュベールではなくて二つ前のグルマーダー王朝ですよね?現王宮に残っているものでしょうか?」

「500年も前の記録など、もう秘密でもなんでもない。まあ、前王朝のものを憎しみを持ってどこまで破棄しているかは……開けてみんとわからんな。ものは試しで申請してみるか?」


「じゃあ、お願いします。無理なら無理で問題ありませんので」




 ◇◇◇




 週末、あっさり申請の許可が降りてしまった。

「え? 今日の午後?」


 学長先生のお手紙によると、今日の午後ならば公文書室の文官の方がお手隙らしい。まあ、私の予定は全部後ろにずらせるから、いいとして……


「……サラ、今日もお仕事らしいから全くスケジュールに関係ないと思うんだけど、黙って行かないほうがいいかな?」

「当たり前です」

「じゃあ、マイクに話通しておいて。サラ、お昼過ぎに出かけるよ」

「お嬢様、あの、馬車は今日は旦那様が使っておられます……が……」

「もちろん知ってるし。乗合馬車で行きましょう」

 父は今日も仕事なのだ。


 サラは少し困った顔をした。

「……マイクの返事が来てから動いたほうが、いいんじゃないかなーと」

「それでは約束の時間に間に合わないよ。相手のある話よ。せっかく時間を作ってくださっているのに」

「そうですね……はあ……大丈夫かしら……」




 乗合馬車に貴族の格好で乗るわけにもいかない。私もサラも町民風のワンピースだ。

 やってきた馬車に手を振って止めて乗り込むと、お昼過ぎという半端な時間のせいか空いていて、サラとゆっくり隣あって座れた。


「ラッキーだったね!」

「ええ、ほんとに。もし隣に男性が座ったら、気の毒なことになるところでした。その男性が」

「何それ?」


 市場の前で降りて、しばらく真っ直ぐ歩くと王宮に着いた。一般公開されている庭園を抜けて、入り口の守衛に、学長にいただいた許可証を見せる。


「こんにちは。よろしくお願いします」

「……公文書室?」

 じろじろと全身を眺められて、居心地が悪い。でも目を逸らすと負けな気がして我慢する!


「公文書室に、あなたのような方が用事があるとは思えないが?」


 うわー、まさかシルエットモブキャラが強すぎて、許可証があっても入れていただけないとか?

「あの、公文書室の担当の方に聞いていただけませんか? 間違いなく私の訪問を聞いているはずなのです」

「公文書室はここから遠い。そんな手間はかけられない」


 サラと顔を見合わせて、まいったな〜と思っていると、

「ピア様っ!」

 マイクが走ってやってきた。私の前にさっと出て、守衛と顔を突き合わせる。


「こちらはロックウェル伯爵令嬢だ。速やかに通されたし」

 マイクが何か、黒い通行証のようなものを見せる。


「っ!……ど、どうぞお通りください」

 守衛はさっと通路の両脇によけた。私は軽く頭を下げて中に入った。


 廊下を進み、私たち以外の人影がなくなると、

「全く、不躾にもほどがあります! アカデミー学長が手に入れた許可証があるというのに!」

「まあさ、あちらもお仕事だもの。私の持って生まれた華のなさも問題なのよ」

 ぷんぷんしているサラの肩を、ぽんぽんと叩く。


「はあ。そのお姿でしたら、守衛をせめられません。公文書がなんたるかもしれない子どもに見えます。しかし、乗合馬車でしたらその格好は正解です。はあ……」

 マイクのため息が多い。休日に働かされているからに違いない。


「マイク、突然呼び出してごめんね。お休みの週末なのに。でもカッコよかったよ! 救世主だった。ねえサラ?」

「そうですね。ありがとうございます」

「まあ、今回は突然でしたからね。さあ参りましょう。こちらです」



 公文書室のおじいさん担当者は学長からしっかり説明を受けていて、丁寧な応対をしてくれた。

「一応、関係すると思われるものを集めておきました」

「わっ! 五冊もあるんですか? よく保存されていましたね」

「政治と関係のないものは、よく言えば歴史として尊重され、悪く言えば、まあほったらかされてますね。今回せっかく日の目を見ましたので、痛んでいるところを補修予定です」


 閲覧用のテーブルに並ぶ古めかしい書物、私は早速椅子に腰掛けて手袋をして慎重に一枚ずつページをめくる。

「嘘でしょ……達筆すぎて読めない……」

「どちらかな?」


 担当者の力を借りながら、私は必要な情報を自分のノートにメモ書きした。そのあいだ、サラとマイクはドア近くの椅子に座り、何か話し込んでいた。

 たまにチラリとそちらを見上げると、あのサラが、言い負かされているのかタジタジの様子。マイクやるわね。


 時間を忘れて作業に没頭していると、テーブルにランプがコトンと置かれた。

「あれ?」

「ピア様、まだ続けられますか?」

 外は日が傾き出していた。


「ご、ごめんなさい! 私のせいで残業になったのでは?」

「いえいえ、この日の目の当たらない公文書室に、可愛いお客様がいらして、よい気分転換になりました」


 おじいさん担当者は目尻を下げて微笑んでくれた。

「ピア様、私が彼に事情を話しておきました。これからは予約すればいつでもここに来ることが出来ます。本日は帰りましょう」


 そう言って、できる護衛マイクも微笑んだ。もちろん、ここにあるものは持ち帰ることなどできない。いや、チキンの私には、こんな貴重な書物をあの雑多なロックウェル空間に持ち込むつもりはさらさらなかったよ?


 私たちは丁寧にお辞儀して退室した。


「マイク、ルーファス様も今頃この王宮のどこかでお仕事しているの?」

「はい。今日は内勤だと聞いています……訪ねてみますか?」

「いやいやいやいや、お邪魔しちゃ悪いわ」

「はあ、ピアお嬢様をお邪魔に思うわけがありませんよ」

「サラ、仕事中なんだよ? 国の! 超大事! 私の研究と重みが違うから!」

「お嬢様の研究だって、ちゃんと社会のために役に立っているじゃないですか」


「ではこっそり、お邪魔にならないように様子を見る、というのはどうですか?」

 マイクが足を止めて提案した。


「そんなことできるの?」

「大丈夫ですよ」

「お嬢様、正直におっしゃってください。ルーファス様の仕事姿、見てみたいでしょう?」

「そりゃあ……見てみたい……かも……」


 実は、年度末の繁忙期ということで、ルーファス様にここしばらくお会いしていない。こっそり覗くだけならば……邪魔にならない?


「ではマイク、案内してください!」

 私の表情を読み取るのに長けたサラが、ニッコリ笑って決定した。




本日、弱気MAX2巻、発売しました!!読者の皆様ありがとう(๑>◡<๑)

わっしょい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 2巻 先程購入したところです。読むのが楽しみです。
[良い点] ピアちゃんまじ可愛い! コミックだとまだ幼いけどね! [一言] 全然関係ないですが、文庫本になる前までルーファスはメガネかけてると思い込んでました。宰相令息=メガネみたいな。
2021/03/15 17:33 退会済み
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