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クリスマス⑤


 リビングにミニスカサンタ天使が降臨なさった。


 サンタ衣装らしく、スタンダードな赤と白の配色。赤い布地に、胸元やスカートの端に白いファーが盛られている。スカート部分はタイトな作りであり、長さは三分の一だけ太ももを包み隠すくらい。上半身はオフショルダーで、紐により服を吊る形で支えている。肩から鎖骨にかけてしっかりと露出している。胸元はファーによってきちんと覆われていたものの、全体的に露出が多い。足回りは厚めのタイツに包まれている。目算で六十デニール。肌色をほのかに主張しながらも、保温の役割を最大限に出すため最適な厚みである。太ももからふくらはぎにかけてのラインも、引き締めすぎず、やわらかそうな見た目を残しており、匠の仕事がうかがえた。ところでサンタ服の生地そのものは、残念ながら少し光沢が出すぎているために安っぽさがある。この日のためだけに着る衣装だし必然的に値が張りやすい以上学生にはこのあたりが限界。その安値大量生産ゆえにサイズもあまりバリエーションがないとなれば、守山さんの体には少しフィットしない。サイズが大きいか小さいか、選ぶ必要がある。そこで選択されたのは少し小さめの服で、際どいスカートという福音をもたらしたハレルヤ。脳に永久保存の焼付けをするため見つめる俺に対し守山さんはスカートを下に引っ張ろうとする。しかしそれはとんだ愚策である。服の伸縮率は有限であり、伸ばそうが体積は同じ。生地も薄ければ体積も小さい。引っ張ったところで、今度は逆に肩紐が少し伸びるし、胸元の露出が増える。谷間の生じる地点が露出するのを俺の高性能スケベ発見カメラは光速で検出。視線の移動ですぐ守山さんも手でそこを隠すが健康な男子高校生のスケベに関する感覚の鋭さと記憶力の高さを舐めてはいけない。多幸感に包まれ、知らず、俺は手を合わせて正座していた。


「とても素敵なクリスマスで、プレゼントでした……」


 平伏する。






 ――完。








「まだ終わってないってば!」


 いやもう十分満足してしまった。何だクリスマスであまり盛り上がれないとか思ってた俺は。もうすっかり盛り上がって、燃え尽きた感がある。


「それは、半分プレゼントみたいなところはあったけど、ちゃんとプレゼントは用意してて、ほら!」


 頭上に何か差し出される気配があって、俺は顔を上げる。

 そこには下着まで見えてしまいそうな守山さんの神聖な脚があったのはもちろんなのだが、ラッピングされた直方体型の物体があった。


 つまりはプレゼント、ということだと思う。大きさは、手のひらくらい。


「へへえ、ありがとうごぜえます……」


 土下座しているためか江戸時代の農民的言動になる。


 プレゼントを押しいただいた。


「どういたしまして。というより立って、座ろうね?」


「下からの眺めもいいもんでして……」


 主に迫力とか凄みが増す。

 まるで下から覗きにいったかのようだ。いや実際事実はそうなのである。


 守山さんもしゃがみこむことで同じ目線になろうとするが、どうも脇が甘い。タイトなスカートの裾がずり上がってしまう。三分の一太ももが覆われていたのが、四分の一か、ともすると五分の一だ。ぴっちりと太ももは閉じられ、裾と太ももで作られる三角ゾーンはガード済み、とはいえ、もはや手ブラと同じ論理でいやらしくなる。隠されている面積が同じであれ、どういう形で隠されているかによっていやらしさは増してしまうのである!!!


「そういう……うん確かにそういう目論見はあったけれど。私もまんざらではないけれど。……なんでこうも恥ずかしいんだろうね。というかもっと徹くんも恥ずかしがってよ」


「恥ずかしいのは守山さんであって俺じゃないわけで」


「やめてちょっと傷つく」


 額に手をやってうつむく守山さん。


「とにかく立ってくれる? そうしないと私も立てないし」


 半分だけ、守山さんの言うとおりにした。中腰になって立つ。


「ん? あ、え、いや……す、座ろっか!」


 察してもらえてありがたい。触れてもらわなくてなおありがたい。


 俺が先に座ると、茶色の物体を持ってきた守山さんが俺の正面に立つ。『それ』は俺の頭に押し付けられ、被らされる。


 視界がちょっと狭まった。

 プレゼントの包装にある輝く黄金のリボンに自分の顔を移して、何が被らされたのかを確かめる。

 すると、トナカイの被り物だ、ということがわかった。


「こうしたほうが、楽しいかなって」


「なるほど」


 確かに、思わずにやけてしまう。浮かれたかっこうだ。形から入って心に至る。それっぽい被り物をするだけで、心はついてきた。ツリーを飾った時もそういう気持ちはあったが、何分、あまりいい思い出のないツリーだ。


 ああ、そうだ。

 倉庫に仕舞いこまれていたツリーは、俺の一人の象徴なのだった。


 このまま浸っているとどうにかなりそうだったので、別のものに意識を向ける。ちょうどよく、手の中には守山さんからのプレゼントがある。


「このプレゼント、開けても?」


「どうぞどうぞ」


 快諾をもらい、俺はセロテープに爪をかける。不器用な俺でもきれいにはがれるタイプのようで、すんなり包装を剥いていける。

 出てきたのは、白い箱。

 それを開ければ、中には時計が入っていた。デジタル時計のようだが、


「ただのデジタル時計じゃ、ない……!」


「なんで気合入れて言ったの。ただの、ではないかもだけど」


 CMで見たことのあるやつだ。

 スマートウォッチの一機種で、多機能すぎてよく覚えてない。スマホと連動させるタイプでもあったはず。


 シンプルなデザインながら、それゆえにシックで普段使いもしやすい。


「でも、お高いんでしょう……?」


「ボケないで、素直に喜んでくれてもいいと思うんだけどなあ。……いえいえ、そんなことはありませんことよ? っていうのも、ちょっと変かな?」


 なんだかんだ付き合ってくれる守山さんは優しかった。

 セクハラというか迷惑防止条例違反をしでかしたやつへの対応ではない。


「ちゃんと四桁以内のもので選んだから。安心して」


「そっか……うん、ありがとう。ただ、ひとつだけ」


「まさか同じもの、持ってる?」


 守山さんは口の端をひくつかせるけれど、そうではない。


「俺に使いこなせるかなこれ……ただの時計みたく使いそうな」


「それなら私が使い方教えてあげるから。初期設定とかならしてあげられるし、大丈夫でしょ?」


「何か何まで、かたじけない……」


「今日は江戸時代がブームなの?」


 最初に土下座かましたのが尾を引いている。


「スマートウォッチに共通する機能は全部ついてるはず。時計はもちろんとして、GPS、脈拍、ライフバロメーター、カレンダー、メッセージ機能、スマホへのデータ共有とか、録音とかも」


「へえ。いろいろできるんだなあ」


 使いこなせるかは別にしてこういうメカはうきうきする。特撮やスパイのアイテムみたいで。守山さんもそのクチなのか、俺以上にうきうきして、身を乗り出して説明してくれる。いいにおいするし近い。


「スマホを近くに持ってれば、通話したりもね。まだ正確さに欠けるけど道案内とかも。私が覚えてるのはざっとこのくらい。もう少しあったはず」


「いや、十分だよ。ありがとう、守山さん。ぜひ神棚に捧げさせてもらうよ」


「使って! できれば毎日!」


 壊すの怖いし……傷つけるだけで一週間へこみそう。


「大事にしてもらえるのはうれしいけど、使ってもらってこそだから。持ち歩いてもらわないと意味ないでしょう? 言い忘れたけど、防水とか耐ショックとか、けっこうなものだから。お風呂までもオッケー」


「そいつはすごいなあ。はめたままうっかり風呂入るなんてことあっても……守山さん息荒くないかやっぱ風邪じゃあ」


「ううん、大丈夫。そうだ、恥ずかしさがぶり返しただけだから」


「それならいいんだけど」


 いいのか?


 心の中でそっと何かがささやくが、いいのだ。恥ずかしがる女子はかわいい、守山さんならなおかわいい。


「そうだ、俺からも、プレゼントがあるんだ。取ってくる」


 自分の部屋に仕舞いこんだそれを取りに行くため、少し席を外す。ものの二、三分のことだ。


 戻ってくると、守山さんは三十センチほど横に移動して座っていた。具体的には俺の座っていた位置。


「何か、移動してない? 守山さん」


「ん? ん? いやほら、ちょっと冷えて」


 暖房を効かせて、二十四度に設定してある。

 それでも、守山さんのかっこうでは、ちょっと寒いのかもしれない。


「えへへ、徹くんの温もり……なんて」


 俺が座っていたところは、俺の体温が伝わっている。


「……殿との!」


 守山さんの尊さのあまり、俺は膝をついて拳を床に突き立てる。気分は忠臣である。


「いやいや、おかしいよ? ご隠居様ドラマを夜通し見たの?」


「拙者の尻でソファを温めておきました……!」


「つまり座ってただけだね?」


 某サルと呼ばれた天下人も真似事もうまくいかない。どちらかというと今は赤鼻のトナカイだ、被り物的に。

 守山さんが笑ってくれているので、それでいいのだと思う。


「ふざけてないで、ほら、こっち座って、お話しよ?」


 ぽんぽん、と守山さんが隣を叩く。

 そこは……そこは……!

 守山さんが座っていたところじゃないか!


「早く。ほら」


 そうこうしている間にも、熱力学第二法則によって守山さんの体温が失われていく悲劇はいまも進行している。世界から宝が失われようとしている。しかし、それを俺が享受していいのか。しかし享受したい。


 その葛藤は、空気イスという手段によって解消されたかに思えた。


「いやそれじゃ座ったとは言えないから」


 俺の空気イスでは、筋力が足りず、脚がぷるぷる震えていた。守山さんによって肩を上から押されれば、あっさりと陥落し、尻と太ももを、守山さんの体温が残る部分に着地させてしまう。


 ほんのり暖かい……。


「どうして仏のポーズしてるのかわからないんだけれど」


 左右の手ともに親指と人差し指で輪を作り、左手は天に向かい、右手は大地をすくう。悟りの境地、というやつか。


「えい」


 生肩。

 守山さんの生肩が、俺のカーディガンとティーシャツ越しに伝わってくる。やわかい、そして暖かい。やわらかたたかい!(?)


 悟りの境地は彼方へ。そしてようこそ欲望の園。


「プレゼント。くれるんでしょう?」


「いくらでも何でもどうぞ」


「いやいやいや、その膝の上のがプレゼントなんでしょう? どうしたの?」


 もうね、いっぱいっぱいです。涙が出そう。

 だって男の子だもの……! リメイクドラマでやってた!


「お返しになるかわからないけど、どうぞお納めください……」


 頭を下げつつ、俺は守山さんにプレゼントを捧げる。


「わー……ありがとう。開けてもいい、かな? 家帰ってからのがいい?」


「ん、ん、んーと」


 そこまでは考えてなかった。

 チキンな俺の選択は、


「家に、帰ってからで。本当は玉手箱みたいに渡すつもりあったんだけど、プレゼントもらえることとか考えてなくて」


「らしいといえばらしいね。それと玉手箱ってどういう?」


「帰り際に渡すって意味で」


「今日は時代がかった喋り方しないといけない日なんだね?」


 いや大事な人と過ごす日です。あと経済とベッドが回る(?)日。


 とりあえずベッドは回転しないが普段使わない頭が回ったせいで、腹がぐぎゅるぉぉおおお――――ん、と鳴った。


「少し早いけど、ご飯にする? と言って、準備もあるよね。手伝うよ」


「あー、実は出来合いのものっていうか、肉球亭のクリスマスディナーってやつを」


 何かと世話になっている肉球亭。学校から近く、それでいて学校の生徒は近寄らない奥まったところにあるカフェレストラン。

 クリスマスどうしたらいいかと聞いた時、熱く薦められた。

 人の多いレストランというのは避けたかったし、持ち帰りも可ということで、テイクアウトとさせてもらった。


「あそこのおいしいよね。じゃあ、温めればいい感じかな?」


「そう。オーブンと、火さえ使えばよくて、メモ通りにすればできるはずだ」


「じゃあ任せて。そのくらいはさせてほしいから。だめ?」


 こてん、と俺の方の上に守山さんの頭が預けられる。


「何でも言うこと聞きましゅぅ……」


 ときめきマックスハート状態となった。自分でもよくわからないがそういうことだ。


 ところが、守山さんの声のトーンが一気に落ちる。


「それはだめ」


「え?」


 顔を覆ってまな板の鯉と成り果てていた俺は、守山さんのほうを見る。

 すると、まったくの真顔に彼女はなっていた。


「それはだめ。いい? 何でも言うこと聞くとかだめだから。私も徹くんをがっかりさせたくない。でも心っていうのは時として思い通りにならないものだから。だから誘うような言動は控えてください。いい?」


「あっはい」


 うなずくしかない。

 ところで俺のほうは守山さんに散々誘いをかけられていた気がするんだけどそれはいいんだろうか。


「よろしい。じゃ、温めてくるからちょっと待ってて。あと、そのメモはどこに?」


「冷蔵庫の扉に貼り付けてあって……シチューは鍋、それ以外は冷蔵庫に入れてる。肉球マークの袋に入ってるやつがそう」


「えーっと……」


 キッチンで、守山さんがメモを読み、料理をひとつひとつ確かめていく。


「うんわかった。ちょっと時間かかりそうだから、徹くんはテレビでもゲームでも暇つぶししてて」


 そう言って守山さんはエプロンを身につけ、ディナーの準備に取りかかる。

 俺が立ち上がって何か手伝おうとすると、視線ひとつで止められた。


 エプロンミニスカサンタという新たな概念を得た自分の彼女の後姿を、十五分は鑑賞した俺は、大人しくテレビをつけて待つことにした。


 テレビでは、クリスマスの悲しい思い出、というテーマでトークが繰り広げられている。





も、もうちょっと続きます・・・(二度目)

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