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第47話 ヒミツの関係


 デートの前に、話がある。

 なので一旦落ち着くため、守山さんには家に上がってもらったわけなのだが。


 守山さんにリビングで待ってもらいつつ、自分は部屋で出かける準備をする、俺としてはそんなつもりだった。


 だがその間にちょっとだけひと悶着が発生する。


 それは、俺が階段に足をかけた時、守山さんがぴったり後ろにくっついてきていたことに起因する。


「守山さん」


「なあに?」


「リビングはこっちじゃないよ」


「知ってるけど?」


「トイレは廊下の奥だよ」


「はい、知ってます」


「……喉がかわいたならすぐ飲み物持ってくるけど」


「ありがとう、けど大丈夫だよ」


 えーと。


 なんで後ろついてくるの?


 こっちには俺の部屋と物置部屋しかないよ?


「守山さん」


「はい」


「リビングで、待っててください」


「え?」


「え?」


「や、なんでもない。わかりました。リビングで待ってるね」


 もしかしてナチュラルに俺の部屋までついてこようとしたんだろうか。


 今日の守山さんはちょっとうっかりしているなあ。


 ははははは。


「はは……」


 うっかりですよね。


 待ってもらうと言っても、ものの五分とかからない。

 実は家に上がってもらったのには、別の理由がある。

 デートの前にゆっくり話しておきたいことができていたためだ。


「守山さん、お待たせしました」


「ううん? 気にしないで」


 リビングのソファに座る守山さんは、クッションを抱きしめていた。


 めぐむのお気に入りのクッションなのだが、守山さんならあいつも気にしないはずだ。俺が触れたりかいだりしようものなら足でシメられるが。うちの母は構わないらしい、というか俺だけはダメらしい。納得はしている。


「で、デートの前に、ちょっと話ときたいことがあるんだ。いいかな?」


「いいけど、なあに?」


 小首を傾げる守山さんに、俺はすぐには言い出せなかった。

 わかりきっていることではあるものの、俺が守山さんと付き合うことは月とすっぽんが交際するようなものである。つまりナンセンス。

 その不釣合いは一旦置――置く、置こう、置きます、はい置いた。置いたから。置いた? 置いた置いたオーケー、オールグリーン。


 こうしてためらうのは、俺自身のスペックの低さが理由だ。

 守山さんに対し、不快なこと失礼なことを言ったりしたりしないか? これから話そうとすることはとてもデリカシーなことだ。デリカシー? 何か違う気もするけどニュアンスは合ってる。

 それに、これから話そうとすることをはっきり俺がわかっていない、ということもある。



 一昨日の別れ際の守山さんの言動に感じたのだ。


 何となく、守山さんが危ない。


 危ないというか、危うい。

 愛が重くて、危うさを感じる。


 はっきりしているのは、それだけだ。


 うじうじしていても仕方ない。守山さんだって俺の最低ぶりはわかってるはずだ。多少のことなら目こぼししてもらえるはず。それ以外は下僕として奉仕の方向で。


「守山さん、言いにくいんだけど」


 顔を上げた時、守山さんは自分の両耳を手でふさいでいた。


 なんでさ。


「守山さん?」


「聞こえません」


「いや、そりゃ両耳ふさいでればほとんど聞こえないだろうけど」


「聞こえないので、何を言ってもムダです」


「話があるんだ」


「きーこーえーまーせーん」


「ほんとに聞こえてない?」


 うーむ。これではきちんと話すことができない。


「……守山さん、好きだよ」


「私も好き!」


 じっと守山さんのことを見つめるが、守山さんは無表情になっている。


「聞こえてるじゃん」


「なあに? もう一回好きだって言ってくれるのかな」


「聞こえてるじゃん!」


 観念したのか、守山さんは耳をふさぐのをやめてくれた。


「守山さん、なんでいきなり耳をふさいだんだ?」


「だって、深刻そうな顔で、『言いづらいんだけど』なんて怖くなって。別れ話かと思って」


「そんなわけないだろ」


 守山さんが何言ってるのか一瞬わからなかった。

 俺が、守山さんに別れ話をする? 逆のことはあってもその通りのことは天地がひっくり返り地獄の釜のフタが開いて死者が蘇ってもありえない。


「私のこと好きなら、別れ話はないなって。けど、まだちょっと怖い、です」


「それは、ごめん。けど、別に悪い話じゃない、はず」


「……結婚? 子どもの話?」


「いやその話じゃない。だいぶ早い、かなり早い」


「だよね。私もちょっと、半分ふざけちゃった」


 半分。


 ここは流しておくことにしよう。川のせせらぎのごとく流そう。


「わかった。はい、ちゃんと聞くから、どうぞ」


「ありがとう、守山さん」


 うなずき、俺は守山さんの対面のソファに座りかける。

 けれど、守山さんが自分の隣をぽんぽんと叩くので、そちらに座った。


「話、ってのはさ。まあ、なんていうか、不安になったんだ」


「どうして?」


「うまく言えない。話したいのは、この先。うまく言えないかもだけど」


 メモをそっとうかがう。

 『守山さん 関係 秘密にしたい 大事にしたいから』


「守山さんとの関係は秘密にしたいと思ってる」


「ど、どういうこと……?」


 守山さんから袖の部分をつかまれる。怖いのだろう、胸を見ていて顔を見なくてもわかる。


「守山さんのことは、大事にしたいんだ」


「ふ、二股?」


「あれえ!?」


 これで大丈夫じゃなかったのかめぐむ。

 絶対大丈夫ではないとも言ってたけど。


 いや、俺の話し方がまずかったんだろう。よくあることだ。


「とりあえず、二股ではないです。なぜそのような結論になったのかお聞かせ願えますか守山殿」


「二股と不躾ながら疑問させていただいたのは、徹殿が私との関係を秘密にしておきたいとの要望を出され、それというのも本命の彼女に私とのことは秘密にしておき、本命の彼女に浮気が露見しないようにするためだと愚考した次第です」


 守山さんの言ったことを噛み砕くのに、数十秒かかった。


 つまり、俺が守山さんとは別の本命彼女に浮気を隠そうとしているのではないか、と守山さんは疑った。


「ないです。もう一回言う。ないです」


「わからないでしょ!?」


「わかるよ!?」


 彼女どころか寿命=彼女いない歴になるのが運命だったはずの俺ですよ。


 二股なんてどの世界線にもありえない。


「と、徹くんは、かっこいいから」


「世界中でそう言ってくれるの守山さんだけだ」


 うちの母親でもそんなこと言わない。もともとそんなこと言ってくれない人ではあるけど。


「みんな、徹くんのことわかってないだけだし。わかったら、ちゃんと、かっこいいって」


「いやー、どうだろう」


 むしろよくわかられることでかっこ悪いことがさらにバレるのでは。

 めぐむがいい例だ。


「それに、徹くん、最近一年生に告白されてたでしょ?」


「待ってくれ、記憶にない。さすがにそんなことあったら覚えてる」


「美化委員の仕事をふたりでしてる時、一年生ふたりが来たでしょ?」


「ん? あー、あれ。いやでも」


 結局、はっきり好きだと言われたわけではない。

 人伝い、アンジュ伝いに、しもっちゃんが俺のことを好きだと聞いた。

 それだけだったはずだ。


「だとしても、告白されたのと同じ。でしょ?」


「そう、なのか?」


 まあ守山さんがそう言うならきっとそうなのだ。


「……あの一年生は俺の財産が目当てだったという可能性は」


「ない。絶対に、ない」


「うす」


 真剣な顔で否定されて、俺は深く同意する。


「二股、って発想になったのは、なんとなくわかった。けどそんなことしてない、ありえない、ってのもわかってほしい」


「うん、大丈夫。二番目でもいいって、前に覚悟してたから」


「それ何も大丈夫じゃないやつ」


 守山さんの両肩に手を置いて、俺は説得にかかった。


「守山さんが彼女って時に、二番目なんて、そんなやついない。いても俺は絶対にそいつを許さない。できることはしょぼいかもしれないけど、全身全霊、俺のすべてをかけて、そいつに罰を与えてやる」


「あ、ありがとう」


「だから、二番目を覚悟するだなんて、そんな悲しいこと、しないでくれ。守山さんみたいな人がそうなるのは、俺はたまらなく嫌だ」


「ごめんね、ありがとう」


「いや、いいんだ」


 説得が受け入れられて、本当によかった。

 俺が守山さんにできることはたかが知れていても、この説得は守山さんにプラスになったと信じている。そう思うと、誇らしい気分になることができた。


「けどね、徹くん」


「何だ、何でも言ってくれ」


「こんなときくらい、胸じゃなく目を見て話してほしいかな」




 まことにもうしわけない。




次回更新予定は5月8日です

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