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第46話 教えてめぐえもん


「守山さんの愛がちょっと重い件について」


『ノロケか。あと小指を角にぶつけてしまえ』


 土曜日の朝、自分の部屋から友人であるめぐむに電話をかけた。

 目的はめぐむに告げた通り、守山さんのことで相談をするためだ。

 朝五時からかけていたところ、ようやく繋がったというわけである。


「いや、そういうんじゃなく。昨日初めて気づいたんだけどさ」


『もっと早くに気づいときなさいよ』


「守山さんが優しい、ってのも、優しすぎるのもわかってたんだけどさ」


『ねえ、あたしこれから大会なんだけど。弓道っていう心おだやーかに取り組む競技に臨まなきゃなんだけど』


「俺だってこれから守山さんとデートなんだよ!」


『うっさい、ノロけたいならそう言いなさいよ着信拒否にするから』


「大会と俺、どっちが大事なんだお前。俺だよな、友だちだもんな」


『大会』


「しどい(ひどい)!」


『何? 守山さんの愛が重くて困る? 知るか、あっそう、お幸せに。どれがいい?』


「俺だってうれしいしノロケかって気持ちはある。けど、ひっかかるんだ」


『だーかーら』


 少し移動したらしく、電話から聞こえる環境音が静かなものになる。


『あたしにはノロケにしか聞こえないわけで。どうぞ勝手に、なんだけど』


「えっと、ちょっと待ってくれ。説明するから」


『あと四十秒ね』


「四十分くれないか?」


『三十秒』


「増えるどころか減った!」


 マジで三十秒で切られる、その予感があった。


「付き合うことになったこととかは、昨日話しただろ?」


『二十秒』


「そんときお前泣いたじゃん」


『何発殴れば人って記憶なくすのかしら』


「俺なら三歩歩いただけで忘れることもできるぞ」


『こっの鳥頭……手短にね。マジに集中したいから。冗談じゃないから』


「――前フリか?」


『十、九、八』


「わあ待て待て!」


『七、ろーく』


 カウントダウンは止まらない。

 けれど何て伝えれば短い時間で伝えることができるのか。

 早口で垂れ流していく方法が、一番わかりやすかった。


「付き合うことになって、守山さんはすごいいろんなことをしたがったんだ」


『ごー、よーん、さーん』


「俺はそれをちょっと重いって思っちゃったし、あと何だ?」


『にー、いーち』


「あぶ、ない?」


『ゼロ』


 めぐむのくれた時間は尽きた。

 電話が切られる、と思っていたが、いつまでも不通音はしなかった。


『ふーん、なるほどね』


 どうやらめぐむのテストには適ったらしい。

 宣言した時間よりも、長く割いてくれるようだ。


『あんたの言いたいことは辛うじてわかったわ』


「わかってくれたか!」


『辛うじて、ね。て言っても私も時間ないしなあ』


 そこをなんとか、と言おうとした時。

 玄関のチャイムが鳴った。


「こっちも、時間ないみたいだ。守山さんが来たっぽい」


『つまり守山さんが歯止めきかないのが問題ってことよね』


 電話の向こうでも、めぐむを呼ぶ声がした。

 すぐにめぐむは、今行く、と返事をして、


『なら、歯止めをかければいいってわけ。簡単よ、今ならまだ間に合うでしょーし』


「今なら?」


 時間制限付の方法ってわけか。


『あんまりいい方法とも、思わないけど』


「前に言ったろ。お前のおかげはあっても、お前のせいなんてことはない。俺のおかげがなくて、俺のせいってのが百パーだとしても」


『あんたそういうとこをもっと守山さんに発揮しろって』


「いつもと変わらんつもりなんだけどなあ」


 何なら守山さんに対する思いやりはめぐむの百倍ある。

 掘り下げたいところだが、めぐむにも俺にもほとんど時間がない。


「その方法ってのを早く」


『あー、そうね。こう言えばいい、と思う。守山さんとの関係は、周りに秘密にしておきたいんだって』


「それで、守山さんの危うさは消せるのか?」


『たぶんね。ダメ押しに、守山さんのことを大事にしたい、とでも言っておけば?』


「よくわからんけど、わかった。ちょっと待ってくれ、メモるから」


『こんくらいのこと覚えなさいよ……』


 ノートの切れ端を破って、メモを残しておく。


「これで、大丈夫なんだな?」


『いや知らないけど』


「えー……」


『絶対大丈夫なんて言うのは、詐欺師か魔法少女くらいよ。何かあったらフォローはする。じゃーね。今日はもうかけてこないでよ』


 今度こそ電話が切られた。


 再び、ゆっくりと玄関のチャイムが鳴る。



* * *



「おはよう、守山さん」


「おはよう、徹くん」


 肌寒い、から本格的に寒くなりだした今日この頃。


 我が家の玄関先には、やはりというべきか、女神がいた。


 亜麻色のコートに白のセーター、灰色のハイウェストスカート、そして八十デニールのタイツという出で立ちの女神だった。

 つまり守山さんなわけだが。


「今日は、よろしくね」


「かわいい」


 いかん漏れでた。


「え、えっと、ありがとう」


 体の前で指をからませる守山さんは、まるで胸をアピールするみたいだった。

 われながら最悪の解釈だと思うけど、思想の自由ってあるし。

 思ってるだけなら無罪なのだ。


「あの、あんまりじっと見られると、さすがに照れます」


 はにかみながら言う守山さんは、そっと胸元で手を交差させる。


 ガン見はギルティでした。


「ごめんちょっと五時間ほど反省してくる」


 家の中に戻りかける俺を、守山さんが慌てたような声で止める。


「待ってなんでそうなるの!?」


「守山さんを不快にさせたら反省文百枚では……?」


「どこの世界のルール? じゃなくて、これから、デートでしょ? それなのにこれから反省文五時間って、どうなのかなって」


「つまり二倍追加だな、わかった」


 任せてくれと、サムズアップして応えた。


「何もわかってないよねそれ」


 理解力が足りなくてまことにもうしわけない。


「ちょっと守山さんが何を言ってるかわからないんだけど」


「私も遠野くんの言ってることが時々わからないからお互い様だね」


 短く息をつき、守山さんは唇を一旦引き結び、


「わかった。いくらでも見ていいから、デートに行こ?」


「……何の話?」


 何をいくらでも見てもいいというのか。


「だ、だから」


 視線をそらし、もじもじして、守山さんは小声で話す。


「む、胸をね、じっと見てても、いいですよって」


「そんな失礼なことできるわけないだろ!」


「と言いつつしっかり視線が固定されてるわけを聞いてもいい?」


 男のサガというやつかな。

 白い縦セーターを着てくる守山さんが悪い。


 圧倒的かつ絶対的に悪いのは俺のほうなんだけども。


「その、見られてもいいけど、ずっと見るってのはできるだけやめてね?」


「がんばる」


「うん、説得力感じられないけど大丈夫、大丈夫だよ」


 宇宙で起きることは電磁気力と引力でほぼすべてが説明できるという。


 しかし、視線を胸に吸い寄せる力もまた存在するらしい。


 そう、その名は、万乳引力。


「バカなこと考えてる?」


「たぶん四六時中」


 むしろバカなことを考えていないことができる時間のほうが少ない。


「まあ立ち話も何だし、中へ上がって待っててくれるか?」


「そうだね、ありがとう。私もなんだか疲れちゃったし」


 一旦、守山さんを招き入れることに成功する。


 めぐむとの話を忘れてしまう前に、守山さんに話しておかなければならない。


 それには、今すぐ家で落ち着いて話すのがいい。


 守山さんに感じた、危うさを解消するためにも。




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