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清楚ビッチな守山さんと陰キャな遠野くん【本編完結済み】  作者: しじみ
後日談 あるいは並行世界、あるいはボーナストラック
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後日談 チョコレートケーキ



 俺と守山さんが付き合えたのは、めぐむのおかげによるところが大きい。


 そうでなくても、めぐむには散々世話になってきたのだ。


「話があるんだ」


 今回だけは、俺がめぐむを家に呼んだ。


 守山さんと並んで立って、ソファに座るめぐむに向かって報告する。


「俺たち」


「私たち」


「付き合うことになりました」


 声をそろえて締めた報告に対し、めぐむの返事は、


「あっそう」


「軽い!」


「まあ、いい加減、というか、そろそろ、というか、ね。よかったんじゃない? あんたが守山さんと付き合えるなんて、ありえないくらいの幸運があってさ」


 ツッコミを入れる俺に対し、めぐむは首筋をかくだけだった。

 ただ、めぐむの言うことには、なるほどうなずけるものがある。


「実際俺もちょっといま半信半疑なところがある」


「さすがに私も怒るからね?」


 守山さんに抱きしめられた腕が、関節部分で軋まされる。


 痛いのか気持ちいいのか、それが問題だ。


「けどあんたが受け入れてるってことは、いいんだよね。私がかけちゃった呪いは解けた、ってことで、いいんだよね?」


「ああ。俺はもう、苦しみも痛みも、当たり前だとは思わない。同時に、守山さんと付き合うような幸福があってもいいかもしれない人間くらいには、変われた……と思う、たぶん、おそらくきっと」


「徹くん、そこしっかり言い切ろ」


「そっか、よかった。って、あれ、あれ……?」


 声もなく、めぐむは涙を流していた。

 拭っても拭っても、涙は流れ続ける。


「ずっと、悪いとは思ってたのよ? ただ、何も、動けなかった。はは、やっと、楽になれた、かな」


 もはやめぐむは涙をぬぐわず、涙に濡れる瞳で、俺のことを見る。


「ほんとごめんね、徹。私がかけた呪いだったけど、私には、解けなかった。守山さんに、助けてもらえて、ほんとよかった」


「別に呪いなんかじゃないだろ。そんなもんじゃ、ない。めぐむには心の底から感謝してる」


 呪いではなく、鎧だったんだと思う。

 ただ鎧を着ていては、安らぎを得ることが難しかったというだけ。

 鎧を着ていることで、様々なものから自分を守れたし、生きてこれた。

 守山さんと、付き合うところまでやってこれた。


「いやほんと、よかった。ありがとう、守山さん」


「こちらこそ。いままでありがとう、めぐむさん。そしてどうか、これからもよろしくね」


「気持ちだけはうれしいけど、もう私、お役御免じゃない? あとはふたりでお幸せに、っていうかさ」


「バカじゃないのかめぐむ」


「それはあんまりだよ徹くん!」


「徹にバカ呼ばわりされる日が来たかぁ」


 めぐむの涙がぴたりと止まるほどだった。


 そこまでか、そこまでなのか。


「くっそ何も言い返せない……」


 しかし俺がバカだというのも動かしがたい事実だったのである。


「待ってろよ、三十年後くらいには言い返してやるから」


「さすがに忘れてるわ」


「安心しろ、俺もきっと忘れてる」


 意味ないじゃん、というめぐむの呟きは無視した。


「めぐむ。お前は俺の友だち――でいいんだよな」


「そこは言い切ろうよ徹くん。それに、私の友だちでもあるよね?」


「そう、俺たちの友だちだ。さびしいこと言うなよ」


「は、ほんともう、やめてよ」


 立ち上がっためぐむは、「顔洗ってくる」とリビングから出て行った。


「泣かせる気は、なかったんだけど」


「大丈夫だと思うよ。悪いことじゃあ、ないと思うから」


 ほら、と守山さんが俺の手を引いて、台所へ誘う。


「準備してたもの、今のうちに出しておこう?」


「ああ、なるほど、今なら」


 このときのために、冷蔵庫の中身は整理しておいたのだ。



* * *



「お待たせ。で、何してんの?」


 洗面所から戻ってきためぐむは、目がちょっと腫れていた。


 そのことにちくりと胸が痛んだけれど、気にしていられない。


 俺の背後では、守山さんが白い布を掲げてあるものをめぐむの目から隠している。


 リビングのテーブルの上に載せた、『それ』を、派手にお披露目するために。


「見て驚け、これまでのお礼と、あと何だっけ守山さん!」


「これからもよろしくという気持ちをこめて、だよ徹くん」


「つまりそういうことだ!」


「別に長いセリフじゃないんだからちゃんと覚えとこうよ」


「めぐむが泣いたのに驚いてぶっ飛びました以後気をつけます」


「泣いたことに触れんな」


 めぐむの手により閃光のごとき速さで、ソファのクッションが俺の顔面に飛んできた。


 閃光のクッション、と技名をつけることにしよう。


 顔面でクッションを受け止めてみせた俺は、サプライズを再開する。


「要はプレゼント、だ。守山さん、幕を」


「はいはい」


 守山さんの手が離れれば、白い布は落ち、テーブルの上にあるものがめぐむの視界にも入る。


 三段重ねのチョコレートケーキ。


 森の動物たちチョコを添えて、だ。


「これ、何?」


「いや、ケーキ、チョコレートケーキ、だけども」


「こんなでかいケーキ、バカじゃないの?」


 反応が思っていたのと違う。


「徹くん、全然めぐむさんの反応が違うけども」


 守山さんから冷静な指摘が入り、俺も首を傾げた。


「おっかしいなあ。これでめぐむはむせび泣いてこれからも俺の友だちでいてくれるはずなんだけど」


「後半はともかく前半はどうなのよ」


「友だちでいてくれるんだな!?」


「都合のいいとこだけを……ていうか、あんたのが嫌がったんでしょうが、そもそもは」


「……記憶にない」


「まあ、あたしが悪いんだけどさ。あたしが直接的に優しくでもしようもんなら、下僕になろうとするか逃げるか、だったじゃん」


「そういう、ことも、あったような」


「あったっての! ったく、もう、ていうかなんでケーキ? 別にクレープでもプリンでも、ってかそっちのがよかったわ、こんなでかいのより」


「んー、だってなあ」


 めぐむへ精一杯お礼をしようと思ったとき、思いついたのがこれだった。


 なぜこれにしたか、は過去のある記憶で説明できる。


「お前、テレビ見ながら、こんなケーキ食べたい、って言ったことあっただろ」


「は?」


「んで俺に作れ、って言ってきて。めんどくさいしムリ、っ俺はそのとき答えたんだけど。そうだな、なんか、ずっと、引っかかってて。ムリでも、作ってやればよかったかなあって、なんとなくだけど」


 細かいところは覚えていない。

 思い出や記憶なんてそんなものだ。

 けれど小さなトゲが刺さったような、引っかかりや痛みの感覚だけは、いつまでも俺の頭にであっても残されていたのだ。


 だから、バカみたいでも、バカでかいチョコレートケーキにした。


「そんな昔の、小さなことを? だから、もう、あんたは……」


 泣きながら、笑いながら、めぐむは言うのだった。


「ほんとバカ」



* * *


 そして。


 ケーキは三人でおいしくいただいた。


 来年のクリスマスまでケーキはいいやってなった。まる。





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