第34話 守山さんとゲームセンター 後編
本日2話目更新です
守山さんにプリクラを一緒に撮ろうと誘われた。
やっぱ無理。
「さすがにそこにいられたら撮れないよ?」
プリクラコーナーの入り口で、立ち尽くす俺。
いや、なんか、雰囲気がもうきつい。
入り口の看板には、こう書いてあることだし。
「男性のみの立ち入りはご遠慮下さい、って」
「私と一緒なら大丈夫でしょ? それとも私が男に見える?」
ほっそりした肩、豊かな胸、くびれからの腰のライン。
男に見えるなら今すぐ眼科に直行したほうがいい。
「ちょっとだけ、一回撮るだけだから」
守山さんに手首をつかまれ、禁断の地へ引き入れられる。
周囲の視線に気づきたくなくて、顔をうつむけることだけはしておいた。
「ほら、ここ」
あっという間だったような、すごく長かったような道のりだった。
ゲーセン内なので、二十メートルも歩いてないはずなんだけどなあ。
だが本当の地獄は、プリクラの中に入ってからだった。
守山さんに腕を組まれたあたりから覚えてない。
プリクラを撮り終えた後、
「徹くん、もう一回、別の台でやらない?」
「勘弁してください」
「うーん、まあいっか。うん、満足満足」
心なし、守山さんの顔の血色がよくなっていた。
艶々している、と言ってもいい。
* * *
外はすっかり陽が落ちていて、ゲーセンの中との落差で真っ暗だった。
そろそろお開きということで、俺と守山さんは自転車を取りに行き、敷地の出入り口でお別れ、ということになる。
なんだかんだ守山さんは楽しんだようだし、俺も楽しかった。
実力テストに向けた気晴らしのつもりでゲーセンには来た。
そこで守山さんと一緒になり、ゲーセンで一緒に遊んだわけだけど。
けれどそもそも、実力テストをがんばろうとしていたのは、守山さんふさわしい人間になるためで、それというのも、守山さんと普通に、友だちとして接したいためで。
目的と手段がごちゃごちゃというか、手段が完了する前に、目的が果たされかかっている。
わけがわからない。
こんなことではだめだ、という予感がした。
予感、そう、予感だ。
いいことが続けば、必ず悪いことが起こる。
マーシーだかマーティーだかの法則に言うように。
「ごめん、徹くん」
「何が?」
「振り回しすぎて、疲れさせちゃったかなって。遠い目をしてるし」
「ああ、いや、なんでもない。明日は交通事故に気をつけないと、と」
「……誰かの恨みでも買った?」
暗殺に最も向いている手段は交通事故なんだぜと、ある先輩に聞いたことがある。
「今日はありがとね、楽しかった」
「いやこちらこそ。守山さんに不快な思いさせてないといいけど」
「またそーいう……」
すねたような顔も守山さんはいいなあ、と思うのもほんの少しの間だ。
ふと店舗のガラスに映る自分を見て、自覚しなおす。
「守山さん、俺、テストがんばるから」
「そのための今日の気晴らしだもんね」
「いや、今日は調子に乗ったけどさ、調子に乗らないでも、普通に守山さんと遊べるようになりたいと、改めて思って」
「調子に乗ってた?」
「超乗ってた」
いくら学校から遠いゲーセンとはいえ、面池くんだって見かけた。
守山さんと俺が遊んでいたなんて知られたら、守山さんの評判が悪くなる。
まだまだ俺は守山さんと比べてゴミクズ以下なのに、こうしてミジンコレベルになったみたいに、楽しみを先取りしてしまった。
このしっぺ返しは、そう遠くないときに来る。
「はじめは守山さんとゲーセンで会ってうわやべえ死にたいって思ってたんだけど」
「そんなに嫌だった!?」
「逆、というか。守山さんと遊べるとかうれしすぎて、申し訳なくて」
「徹くんは本当に変わってるね」
「頭が変だってよく言われてたよ」
「違うよ、そういうことが言いたいんじゃなくて!」
「大丈夫、守山さんはそんなこと言わないって知ってる」
「私、なんか、よくわからないな、徹くんのこと……」
「むしろ言ってほしい」
「徹くんのことがよくわかりません」
同じことを言っているのに、なんだかニュアンスがまったく違っていた。
日本語って奥深い。
「だめだな、なんか、つい守山さんと長話して」
「私は大歓迎だよ、楽しいし」
「守山さんが生まれてきてくれて本当によかった」
「微妙にスケールがおっきい」
そのくらい俺にとって守山さんは尊かった。
「そんな守山さんに報いるために、がんばるよ。今日は、ちょっと勉強サボったけど」
「気晴らしは必要だって。けど、うん、がんばって」
その言葉で、実力テストまでの十日間を全力でがんばれそうだった。
いや、がんばるのだ。
他の何よりも優先して、必死に、やり遂げてみせると誓った。
実力テストで、約三百人中、総合二百位以内に、俺はなる。
他人様から見たらひっくい目標かもしれないけど、なってみせる。
そう、誓ったのだ、確かに。




