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第29話 守山さんとバスタオル



 俺の家で、守山さんがシャワーを浴びている。


 こうして耳を澄ませば、守山さんが浴びているシャワーの音が聞こえてくるような……。


 あ、違うこれ普通に外の雨音だ。


 俺のほうはすでに体を拭いて着替え終わっている。

 リビングのソファで待っているわけなのだが。


 まだ、守山さんはシャワーを浴びている最中だ。


 緊張のあまり、貧乏ゆすりが止まらない。


 守山さんのお母さんが迎えに来るのは明日の朝。

 俺の母さんも、今日は飲み会で帰ってくるのは明日の早朝だ。


 ここは覚悟を決めるときなのか。

 とても守山さんの攻勢に耐え切れる気がしない。


「遠野くん」


 壁に隠れるように、守山さんが廊下に立っていた。


 顔と、手の先から肩までしか見えていない。

 しかし上気した肌と、ほのかに赤く染まった頬、まだ乾ききっていない髪だけで、十分であるといえた。

 さすが守山さん、開幕から凄まじい攻撃だ。


「守山さんは俺を殺す気なの?」


 萌え殺される。


「なんでそうなるの! っていうか、その」


 シャワー前後で、守山さんの目にすっかり生気が戻っていた。

 あれだけ妖艶だった雰囲気が、すっかり抜け落ちてしまっている。


 シャワー前が魔性なら、シャワー後は完全に健全なエロスだった。


「ご、ごめんね、本当に、その、ごめん。シャワー浴びてて、私暴走しちゃって何してんだろう、って思えてきたり、実際にすることを想像して、怖く、なっちゃったというのか」


 ますます壁に隠れて、守山さんはほとんど顔の半分しか見えなくなる。


「今日、親帰ってこないんだけど」


「あっ……」


 守山さんの姿は完全に隠れてしまった。


「その、遠野くんは、シたい、のかな……」


 ぜひシたい。

 とでも言えたら、どうなってただろう。

 守山さんに冷静になられれば、俺だって冷静にもなる。

 付き合ってもないのにシちゃうとか何それ意味わからない。


 大体、守山さんと俺が、なんて、美女と野獣もいいとこだ。


 もし、本当に最後まで行っていた可能性があるとすれば。

 玄関先で勢いに任せて、しかなかったわけだ。


 シャワーを浴びるよう勧めたことで、守山さんに俺は時間をあげられたわけだ。

 冷静に、しっかりと、現実を、考えられる時間を。


 残念な気持ちもあるけれど、それ以上に、本当によかった。


「や、大丈夫」


「その、幻滅したり、しない? 自分から迫っておいて、へたれる、とか」


「いや、わかるよ。こう、視野が狭くなって暴走しちゃうってことあるよな。で、ちょっと時間を置いただけで何してたんだろう、ってなってさ」


「そう、そうなの!」


 再び、守山さんがうれしそうな顔を壁際から覗かせてくれる。


「俺も一回わけわからなくなったことあって気づいたら港で裸になって鍋ごちそうになってたことあるから」


「遠野くんのそれと一緒にしないで」


 真顔だった。


「いや、もしかしたらそれと同レベルのことしてたのかもなんだけど、そこまで私自殺したくなるくらい恥ずかしいことしてたかな……」


「これ肯定しても否定しても俺が死にたくなる類の質問では」


 まあとにかく、守山さんが冷静になってくれてよかった。


 よかったが、俺の暴れ○棒将軍は依然健在だった。

 本当に申し訳ない。


「もしかして、遠野くん、本気で、スるつもりになってた?」


「い、いやいやいやいや! ないから」


「やっぱり私、魅力、ないのかな」


「守山さんは俺にどうしてほしいの」


 場合によっては俺が血の涙を流すことになる。


「遠野くんには、んと、魅力的に思っててほしいけど、今はまだ、我慢してくれてるとうれしい、かな」


「それ半殺しというか生殺しコース」


 頭を抱えるふりをして、暴○ん棒将軍なのは意識されないようにしておく。


「その、守山さん。こうなった事情を、順を追っていきさつを教えてくれるとうれしい。メッセで『一緒にいるのが誰か』って送ってこられたところから、どうも謎が尽きないんだ」


「どうしても、話さないとだめ?」


「いろいろと納得がいかないし、そもそも、守山さんとは俺、友だち、なんだよな一応。友だちはさっきまでみたいなことしない、よな?」


「と、友だちにも色々あるから。ほら、せ、セ○レとか」


「フレンズはフレンズでもセフ○、とか断固として俺は認めません」


 そういうのはよくないと思います。

 妄想だけならいくらでもするけど。


「守山さんにはこうなった事情を、いちから、説明してほしい」


「どうしても?」


「どうしても。でないと俺、守山さんと、もうまともに話せないかもしれない」


 冗談でも何でもなく、本音だった。

 守山さんのことがさっぱりわからない。

 その疑問が解消しないことには、どう接したらいいのか。


「そっか。うん、そう、だよね」


 意を決したように、守山さんが唇を引き結んで顔を上げる。


「じゃあ、恥ずかしいけど、話すね」


「うん」


「ただ、その前に」


「まだ何か?」


「服、貸してくれると、うれしいです」


 壁際から出てきた守山さんは、バスタオル姿だった。


 洗濯から乾燥までは三時間以上かかる。

 その設定にしたのは俺だし、着替えを用意し忘れたのも俺だ。


 バスタオルを押さえる守山さんをじっと見ていたかったけれど。

 上目遣いににらまれては、とっとと着替えを用意してくる他なかった。


 生涯、俺はあの光景を忘れないことを、ここに誓う。



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