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第26話 守山さんになんとか弁解したいんです



『一緒にいる眼鏡の子は誰?』


 別に、ただの、後輩である一年の女子だ。

 目代杏樹、呼び方はカタカナでアンジュ、のイメージ。

 生意気な正論マシーンの後輩。


 待たせれば待たせるだけ、守山さんに誤解が生じかねない。


『アンジュっていう後輩』

『美化委員のとき、告白しに来た子の付き添いでいた眼鏡』

『勉強教えてくれるっていうから』

『図書館がよかったんだけど、うるさくして追い出されちゃってさ』

『いやあ後輩に勉強教えてもらうなんて笑い話だよな』


 オッケー。

 よくやった俺、かつてなく頭脳がフル回転した。


 ジョークを交えて明るいメッセのやり取りができた。

 これで、守山さんから『そうなんだー』とにっこり顔文字とともにメッセージが来る。

 そうすれば俺の脂汗も止まってくるはずだった。


「いやこれはないわ、遠野くん。アドバイスしてやればよかったね」


「ありえないです、遠野先輩。わざとですか」


 メッセのやり取りを覗き込んでいた女性ふたりから全否定をくらった。


「なぜに!?」


「まず、突然のアンジュって名前呼び」


「さらに言い訳がましい矢継ぎ早のメッセ」


「図書館でやらないことをわざわざ自分から触れている」


「極めつけは後輩に勉強を教わることに納得感が薄いラスト」


「完全ギルティ、絶対、この後輩ちゃんと『関係』あると思われるわ」


「先輩、一発ぶん殴らせてもらってもいいですか?」


 もうめったうちだった。


 これでいけると思ったんだよう。


 ミカさんからアンジュがフライパンを受け取っている。

 まさかそれで俺を殴らないよね? ね?

 生意気だけど優しい後輩だもんな、先輩を凶器で殴らないよな?


「ど、どうしたらいい?」


「愛想尽かされるといいんじゃない?」


「絶交されるといいと思います」


「関係を修復する方向性でお願いします!」


 なんで悪い方向にしか話が進められないんだ。

 あなたたちがポジティヴでいてくれないと、俺は、俺は、


「このままじゃ守山さんに無視されるんでは……!」


「遠野くんにしてはポジティヴね」


「そして俺は二浪してさらに私立大学で留年、バイトもできず無職!」


「訂正やっぱり遠野くんは遠野くんだった」


 守山さんが俺にそうそうひどいことするわけがないでしょうが。


 あの人マジモノの女神か天使だぞ。悪魔でもあるかもだけど。


 その守山さんから無視される俺の低みまじパない。


「お願いします靴でも舐めるのでどうしたらいいか教えてください!」


 九十度よりもさらにえぐりこむように、俺は頭を下げる。

 最敬礼を超える敬礼、すなわち超最敬礼。

 使うと相手は大抵ヒく。


「靴が汚れるからますますイヤ」


「そうですか、私は靴の裏ならアリだと思います」


 ミカさんもアンジュも優しいのか優しくないのか。


 ところでこの頭を下げた位置から二人を見上げる光景は中々だと思うくらいに、最低な俺だった。

 こんなときに何を考えてるんだ。

 けどミカさんはタイトスカート、アンジュは普通に制服のスカート。

 膝上十センチくらいの丈で、もちろん中身は見えない。

 見えはしないが、大事なのは普段見えないものが見えるということ。



「まあ遠野くん焦らないほうがいいよ。まだ返信来てないんでしょ? もしかしたら返事もいいものかもしれないじゃん?」


 タイミングよく、守山さんからのメッセが入る。

 超最敬礼をしたままメッセを確認する。


『そう』


 素っ気無く、たった一言、『そう』。


「あ、これだめだわ」


「うわああああああああああ!」


 涙目になる俺に、ミカさんとアンジュはやはり容赦なかった。


「何もわかってもらえてない。いやむしろわかってもらえてる?」


「先輩がほいほい女の子と仲良くする甲斐性なしだ、とわかってもらえてます。good job、ですよ先輩」


 アンジュのほうはなぜ俺を褒めるんだよ。

 発音いいのが地味にいらっとくる、嫌味か。

 嘘をついて友だちであるしもっちゃんをフった俺がそんな憎いか。

 あ、そりゃ憎いよな。



『違うんだ守山さん』

『別にそんなんじゃなくって』


『そんなんじゃないって何?』

『別に遠野くんがどんなかわいい子といたって』

『私に何か関係ある?』

『今日はもうメッセ送ってこないでね』

『忙しいから』


 ……あかん。


「この先輩バカさらに傷口を自分で広げましたよ」


「処置なしかなあ、これは……」


 先ほどと同じように覗き込んでいたアンジュとミカさんから、口々に感想を述べられる。

 わかってるんだ、そんなことは。

 そんなことが聞きたいんじゃない。


「どうしたらいいんですか俺は!」


「自分で考えなさい」


「自分で考えてください」


 冷たい。

 日没後で気温が下がっているせいもあって体感ましましで冷たい。


「せめて、小さなヒントだけでも下さいよう……」


 ミカさんの足にすがりつこうとしたら野生動物の動きで避けられた。


「じゃあその前に確認したいんだけど、守山さん、だっけ?」


「はい。守山莉世様です」


「その子とはどういう関係?」


「知り合い? クラスメイト、同じ委員会、くらいですかね」


「脅迫して付き合わせている事実は?」


「ないですう……」


 この遠野徹、罪を犯すほど落ちぶれてはいない。

 犯罪に走りたくなるほど守山さんは素敵だけど。


「じゃあ、知り合いのことがちょっと気になっただけ、とかじゃない?」


「そういうもんですか」


 一応、守山さんから告白されてフったことがあるけど。

 その関係はすっぱり清算、きれいになくなってるはずだから。

 知り合い、という説明でも間違ってない。


「ただの知り合いの男子が、別の女の子といたからってねえ」


「はははは、やー、そっかそっか、そうですかそうですよね」


 なんか、突然のメッセでうろたえてしまった。

 こうしてみるとどうしてそうなったのかわからないほどだ。


「そっけないメッセも、明日の天気がわかったくらいのニュアンスでしょ」


「はは、そうですよね、守山さんが俺と誰がいるかなんて、ねえ?」


「まあ前に告白されてフったとかいう話がなければだけど」


「ぐっは!」


 突然心臓をわしづかみされたみたいに、胸に激痛が走る。


「実はそうなのかってくらい、急に仲良くなってたみたいでしたけどね。まさか守山先輩が遠野先輩に告白されてフられたとか、まさかまさか」


 あはははは、とアンジュの笑い声がする。


「本当にそうなら先輩完全にアウトですけど。頭にカニ味噌でも詰まってるんじゃないですか」


 痛い痛い痛い、心が痛い。


 しかしめげない。

 俺の守山さんに対する気持ちはこんなもんじゃないぞ!

 ストーカーの一線を一歩踏み越えたくらいある。


「こ、これは友だちの話なんだけど」


「先輩に友だちいないじゃないですか」


 早々に話の腰と俺の心を折りにくるのやめてもらっていい?


 諦め、たくないんだ。

 いろいろと自分が最低だからと割り切ってきたけれど、守山さんのことだけは、がんばりたいと、思ってしまったんだ。


 だから! 俺は!


「お願いです、ミカさん、そしてアンジュ。俺に、道を、示してください」


 他力本願になる。






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