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第25話 後輩と一緒にいることが、守山さんにバレているだと?


 後輩であるアンジュに肉球亭という喫茶店で勉強を教えてもらう。


 その、つもりだったんだけど。


「私のこと犯す気なんですね! イヤ! レ○パー!」


「違うっつってんだろいいからこい!」


 肉球亭は、裏路地の奥というわかりづらい位置にある。


 途中までアンジュは素直についてきた。

 しかしコンビニの裏手、裏路地に入る直前で駄々をこねはじめたのだ。


 誰がレイ○ーだ。


「この先にあるのはただの喫茶店で! 勉強教えてもらうだけだよ!」


 二年である俺が、後輩であるアンジュに勉強を教えてもらう。


 プライドなんかあると思ったか、無論ない。


 テストの順位を上げて、守山さんに少しでも近づくために。


 俺、テストで二百番以内になったら守山さんにメッセ送るんだ……。


「イヤです! そう言って『保健体育の勉強を教えてもらおうかぐぇっへっへっへっへ』とかやるに決まってます!」


「どんなイメージ!?」


「こんなおかしなところに店があるはずありません! これは先輩が人気のないところで超絶かわいい私を犯そうとしているに違いないです!」


「自己評価高いとこ悪いが普通にかわいいレベルだから! 超絶かわいいってのは守山さんみたいな人のこと言うんだよ!」


 アンジュの手首を俺がつかんで、店まで連れていこうとするも、


「イヤー! おーかーさーれーるー!」


「ええい抵抗するんじゃない!」


 こうなれば全力で引きずっていこうとするも、あれ力強いなアンジュ。


 必死の抵抗ってこともあるだろうけど。

 単純に俺が貧弱なだけな気がしてきた。

 

「やめなさい犯罪者(レ○パー)」


 コン、と突然、後ろからすごく固いもので、軽く殴られた。


「いった、だから違うって!」


 振り返ると、肉球亭の店員であるミカさんがいた。

 給仕服に身を包んだ大人のお姉さんで、サイズだけなら守山さんを超す。

 現在は手にフライパンを持っており、それで今さっき軽く殴られた。


「さっきから店の近くでやかましい。何、とうとうやったの? いつかやると思ってたけど、うちの近くではやめてもらいたいもんね」


「さすがにそこまで最低なことやらないんですけど」


「今、路地の奥から来ましたよね。……ひょっとしていかがわしい店ですか?」


 まだ腰を落として逃げようとしているアンジュが、ミカさんに聞く。


「失礼な。まっとうな喫茶店です」


「立地をミスりまくっただけのクソ流行らないただの喫茶店だ」


 ミカさんの説明に俺なりの補足をするとまた殴られた。


「何? 今度は別の女の子を連れてきたの遠野くんは」


「だったら何ですか。客が増えて問題あります?」


「客が増えるのはいいんだけどさ。きみは大丈夫なん?」


「はあ? 後輩と喫茶店に来るのはいけないですか」


「時と場合によっては。きみ、前にすごいきれいな子と来たじゃん」


 俺を殴ったフライパンで、ミカさんは素振りを始めた。


 思い切り殴るための予行演習ですかね。


 主に俺を。


「その子はこのこと知ってるんかい、とお姉さんは思うわけ」


「お姉さんって年じゃ」


 絶好球をスマッシュするみたいに、ミカさんがフライパンを振るう。


「え? 何? 聞こえなかった」


「超絶美人なお姉さんのミカさん」


「事実だから仕方ないけど、何?」


「守山さんと前に来たこと、こうして今アンジュと来てることが何か?」


「え、だって前に、うちの店で乳繰り合おうとしてたじゃんきみら」


「最低ですね」


 ミカさん衝撃の発言が飛び出して、すかさずアンジュからの極寒の視線。


 見られてないかと思ったら、ちゃんと見られてた。


 よかった、本当に触ってなくて、本当によかった……!


「やっぱりそういう店なんですね。レ○パー遠野先輩なんですね」


「プロレスの芸名みたいに呼ぶのはやめろ」


 悪役ヒールどころの話じゃない。


「だからうちはまっとうな喫茶店だってばお嬢さん」


「信じられません」


「私が、このバカが何かしたとき、殴るのをためらうと思う?」


「信じましょう」


 CIAもびっくりの交渉術だった。

 あっさりとアンジュの信用を勝ち取ったぜ。

 俺の身の安全は犠牲になっていたけれど。


 勉強を教えてもらうのを引き換えと思えば安いものか。


「で、遠野くん。本当に大丈夫なのか、って私は常連を心配するわけで」


「だから、後輩に勉強を教えてもらうだけですよ」


「ますます大丈夫なのきみ」


 一年後輩に勉強を教わろうとしている。

 学力を大いに疑問視されても当然だった。


「まあ遠野くんがバカなのはいいとして。私が言いたいのはさ」


「バカでなくなるように今がんばろうとしてるんで」


 やる気を削ぎにくるのはやめていただきたかった。


「つまり、遠野くん、浮気とか疑われない? 大丈夫? バカだねきみ」


「断定してきましたね……ミカさんこそバカですか」


「ああん?」


 ミカさんから距離を取った上で、俺は対話を続けた。


「浮気も何も、守山さんとは、その知り合い? ですから」


「うちの店で乳繰り合おうとしておいて?」


「それは是非忘れてください」


 話のキモはそこじゃない。

 いや、そこにもあるのかもだけど。


「とにかく、浮気とかになりませんから。はは、大体、守山さんが知るわけないことですよ」


 ぴろりーん、と俺のスマホに通知が入った。


 ミカさんとアンジュの顔を見ると、確認しろ、と無言で告げていた。


 守山さんからのメッセが入っていた。


 なんでだ、なんで『やべえ』って気持ちになるんだ俺。


「守山って子からメッセが来たみたいだね」


 ええー。

 まさかあ。


 ……守山さんからのメッセでした。


「なんてなんて? このヤリ○ン野郎って?」


「面白がらないでください、てか守山さんはそんなこと言いません」


 にやつくミカさんに、俺はきっぱりと言ってやる。


 実際言われるところを想像したら乙なものだったけど。


 とにかくメッセを確認して、三分以内に返信せねば。


『一緒にいる眼鏡の子は誰?』


 見てるのか守山さん。


 思わず周囲を見渡した。


 ふーっ、ふーっ、ふーっ。

 丁字路の交差点に今いるわけだが、守山さんの姿はなかった。


 心臓がばくばくしてうるさかった。


「おいおいどしたぁ? えらくビビってない? やっぱやましいんだ」


「そんなんじゃありません」


「そうですよ、先輩と私がそんな関係とかひどい誤解です」


 ミカさんのからかいに、俺もアンジュも否定を突きつける。


 何度見ても、守山さんのメッセは変わらない。

 追加のメッセもない。

 ただ一言。


『一緒にいる眼鏡の子は誰?』


 顔文字も絵文字もスタンプもない。

 ただ、シンプルな文章が、それの持つプレッシャーを如実に感じさせる。


 誰って。


 ただ、勉強を教えてもらおうっていう後輩ですよ。

 アンジュとかいう正論生意気マシーンな一年女子です。


 けれど、単純にそう返信して、守山さんが本当に納得してくれるか?


 いやいやいや。

 別に守山さんと俺は付き合ってるわけじゃないし。

 もう俺のこと諦めてるって言われてるし。

 こんな浮気がバレてその言い訳しようとしてるみたいな気持ち。

 

 そんな気持ちになるって、おかしいですよ。


 確かに守山さんに告白されたことあるけどもう終わったことなのだ。

 ただ、俺のほうが未練たらしく、守山さんが好きなだけで。


 ああもう、これ、どう返信したらいいんだ。


 脂汗だらだらで、俺はスマホを両手で持って固まってしまった。







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