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第22話 連絡先を交換した


 守山さんは素敵な女の子だと思う。


 清楚で、優しくて、控えめで。


 たまにビッチ的言動をされるのでこっちは振り回されるけれど。


 こうして、リビングで二人いられる状況は、とても癒される。


 と同時に、切なくもある、そんな感じなのだった。


「あのね。この際だから言うけど」


「うん」


「もっと遠野くんと喋れたらな、って思うんだ」


「え?」


 なんだって?とは、聞き返しはしないにしても。

 守山さんが言ったことが予想外で、驚いてしまう。


「あ、友だちとして。友だちとしてだから! 友だち、だよね?」


 俺史上二人目の友だちがいつの間にかできていた。


 けど、俺なんかが守山さんの友だちであっていいの……?


 そんなことを言い出す守山さんは、


「守山さんは、天使か悪魔だ」


「そろそろ遠野くんの突拍子もない言動に慣れてきた自分が少し嫌です」


 ため息を挟んで、守山さんは喋る。


「どういうこと?」


「本当に、守山さんは天使だと思う。俺をペットどころか友だち認定してくれるし。優しいし、一緒にいて癒されるし、守山さんとできるなら四六時中一緒にいたいくらいだ」


「じゃあ、お風呂も、寝るのも一緒ってこと?」


 からかうような口調の守山さん。


 実際、俺の顔をすぐそばから楽しげに覗き込んできている。


「そ、のくらいの気持ちってことで。けど、だから、守山さんは俺にとって悪魔なんだ」


「うん、聞くよ。ちゃんと話して」


「勘違いするんだ」


 俺が、守山さんと一緒にいていい人間だって。

 それだけじゃない。

 今日の保健室のことだってある。

 勘違いして、暴走していた。



「勘違い、してもいいよ」


 俺の脳内コンピューターはショート寸前です。


「というか勘違いじゃなくてね。遠野くんは、私と一緒にいて誰かに罰せられたりしない。もしいるなら、私はそれこそその人に言ってあげる。勘違いするな、って」


「守山さんに、迷惑がかかる。美化委員があるからってことで話せてるけど、俺なんかと話してたら、守山さんがバカにされたり傷つけられたりする」


「怒るよ。いいえ、もう、激怒です。大激怒」


 そうは言っても、守山さんはめぐむと違って怒っても怖くない。

 めぐむが熊の怖さなら、守山さんはテディーベアだ。


「仮に、煙たがられてる私のせいで遠野くんの評判が悪くなったとしてね」


「天地がひっくり返り死者が蘇るときの話してる?」


 其は黙示録、裁定の日に起こること。

 中二の頃に幽霊退治の映画を観て覚えた。


「普通にありえるかもしれないレベルの話をしています。なんだかんだそういう遠野くんも好きだけど、今はそういう――」


 途中で、世界から音が消えた。

 守山さんが何か話しているのは口の動きでわかるが、聞こえない。


 トオノクンモスキ。


「あばばばばばば」


「遠野くんが壊れた!」


 元からポンコツなので壊れても大事はないのだ。


「ちゃんと聞いて。私のせいで遠野くんの評判が悪くなったとして、ね」


「それはどこの世界の話なんだ?」


「この世界の話です。この仮定の話の上で、遠野くんは、私と友だち付き合いするのをやめようって思う?」


「まさか、ありえない」


「私も同じ。そんなこと気にしない。友だちなんだから」


 守山さんが言いたいことはわかる。

 つまり、周囲の評価より、自分が誰と仲良くしたいかのほうが大事だと。

 そこは守山さんも俺も、同じ意見だというわけだ。


 そっか。


 俺は、少なくとも守山さんにとって、そういう存在なのだ。


 周囲の状況が何ひとつ変わっていないのだとしても、俺は。


 守山さんと距離を縮められたらどんなにいいかと、妄想するのだ。


 彼女の顔を見れば、はにかみこそすれ、目をそらされなかった。


 勇気を出して、言うのだ。

 自分が言いたいこと、伝えたいこと。


 守山さんに、俺がしてほしいことを。


「も、守山さん。お願いがあるんだ」


「は、はい、何でしょう」


 俺の緊張が伝染したように、守山さんも体をこわばらせる。


「その、すごく、言いづらいというか、おこがましいことかもなんだけど」


「うん……」


「これまでの態度を改めてっていうか、守山さんの気持ちに、俺も応えたいと思うんだ」


「うん……!」


 守山さんの表情が、期待感と喜びに満ちている。


 そんな顔をさせているのが、俺であるという事実。

 また、背中を押されるのだった。


 今こそ言おう。

 もしかしたらずっと、言いたかったことを。


「守山さん」


「……はい!」


「メッセのID教えてください」


「え」


 突然、くぐもった大きな物音が聞こえてきた。


 聞こえてきたのは、玄関に続く廊下のほうから。


 そこには、守山さん母がいた。お母さんは壁に手をついて、うなだれている。


「お母さん、いつからそこにいたの!?」


「それより遠野くん、違うでしょ、何もう、どうしてうちの娘を『好きだー』って押し倒すとかないの!? 期待させといてこれ!? 明日香の言う通りキープなの、二股なの!?」


 明日香さん、あの人最悪だ。


 この場にいなかろうと混乱を放り込んできてくれる。


「ちょっと待ってお母さん、だから、いつからそこに」


「ついさっきだけど」


「こっそり覗いてないで声かけて!」


「何かこう、インターホン押しても反応がなかったからね?」


「ああ、明日香さんのピンポン連打がうるさかったんで、切ったままだったから……」


 あれ?


 あれもこれも明日香さんのせいじゃね?


 あの人、けっこうな疫病神じゃね?


「これはもう呼鈴にも気づかないくらい二人の世界に浸りまくりだと思って、こっそりお邪魔させてもらって」


「お母さん本当に何してるの……?」


「で、やっぱりいい雰囲気だったでしょ? 伝統のお赤飯炊かなきゃな、お米買ってこなくちゃ、とか思ってたのに」


 お母さんから、にらまれる。


「遠野くん。きみにはがっかりしました」


「私はそんなお母さんにすごくがっかりだよ!」


 俺の太ももに手をかけて、守山さんはさっと立ち上がってお母さんに詰め寄った。


 さらっと体に触れられていった俺はというと、少しときめいてしまっていた。


 きゅん……。


「ほら帰ろう、早く帰ろう今すぐ帰ろう!」


「ごめんね、けど遠野くんは別に大丈夫よね? うちの娘のこと、好きでいてくれるのは変わらないものね?」


「えと、その、好きじゃなくて」


「へ――」


「大好きというか、好きでたまらないというか、守山さんのためなら死んでもいいくらいです」


「きゃー! きゃー! きゃー!」


 守山さんではなくお母さんのほうが大興奮だった。


「あの、お母さん、落ち着いてください」


「えーなになに? もう、お義母かあさん? うんわかった、うちの息子になっちゃいなさい! というかもう義息子よね!? 孫はいつ?」


「おっ母さん!?」


「お願いだからお母さん恥ずかしいこともうやめて……」


 興奮しまくりのお母さんに、義理の息子認定された俺に、守山さんは真っ赤になった顔を両手で覆い隠している。


「帰るから、ほらもうほんとに、恥ずかしい」


 お母さんの手をぐいぐい引き、守山さんが帰ろうとする。


「あ、待ってくれ守山さん」


「キス? キスするの? 大丈夫お母さん目閉じてるから」


 目元を手で覆うお母さんだったが、もろに指の隙間が空いていた。


 絶対見えてるというか見てるじゃないですかそれ。


「えと、何、かな。遠野くん」


 守山さんは髪を耳にかけつつ、上目遣いに聞いてくる。


「まだ、連絡先交換できてない。教えて、もらえるかな」


「もちろん!」


「お母さんが返事しないで!」


 守山さんより先にお母さんの許可がもらえてしまった。


「うちのお母さんがごめんね。うん、もちろんいいよ」


 守山さんと、スマホのバーコードを通して、連絡先を交換する。


「お母さん感動……」


「じゃ、じゃあね遠野くん!」


 涙ぐむお母さんを引っ張って、今度こそ守山さんは帰る。


「うん、ばいばい、守山さん」


 ドアが閉まるまでしっかり二人を俺は見送った後。


 守山さんの連絡先が入ったスマホから、しばらく目が離せなかった。




 ちなみに、あとで自分の行動を振り返って、床を転げまわることになる。






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