第21話 守山さんのかわいさに無条件降伏なのだった
我が家のリビングで、守山さんと二人きりになってしまった。
俺は一体、どうすればいいのだろう。
もてなせばいいのか。
俺が家を出て行って守山さんを一人にしてあげればいいのか。
それとも今からでも遅くない、めぐむに助けてもらえばいいのか。
「ね、ちょっと疲れちゃったな」
立ちっぱなしだった守山さんが、タイツに包まれた足を労わるように軽くなでる。
まるで誘われてるみたいだ。
間違いなく考えすぎである。
というのも、何かが決定的に俺の中で変わってしまったのだ。
俺と守山さんの地位差はまったく詰まっていない。
心境に変化があったために、守山さんの一挙一動に、いちいち心がざわついて仕方ない。
けれどどう変化したのかも、バカな俺はわからないのだった。
「座って待たせてもらっていい?」
「ど、どぞう」
噛んだ。
「うん、ありがとう」
触れないでいてくれる守山さんの優しさが目にしみた。
守山さんが、さっきまでめぐむが座っていた長ソファに座る。
とりあえず俺はフローリングの床の上に正座した。
「どうして自然にそんなところに座るの遠野くんは」
「え? むしろ俺はここ以外にどこに座るというのかわからない」
「めぐむさんともそうしてるの?」
「めぐむと守山さんは違う、全然違うよ。あいつはがさつで、すごく適当で、わがままなやつなんだ。めぐむとみたいに守山さんの隣に座るなんて、恐れ多くて」
ふーん、と守山さんが不機嫌そうになる。
謙遜というか、恐れ多いなんてものじゃないとアピールしておくべきだった。
これでは守山さんと俺の距離が近いみたいじゃないか。
「ここ」
ぽんぽん、と守山さんがソファの隣を手で叩く。
「ここに座って。遠野くんが座る場所は、ここ以外にありません」
「それはつまり……守山さんが俺をイスにしたいってこと?」
「なんでそうなるの!」
頭を抱える守山さんだった。
「ていうか、イスって、遠野くんのえっち」
ありがとうございます。
脳内に動画を保存しました。
「確かに、なんかSMプレイっぽかったかも」
「ん?」
「ん?」
守山さんも俺も、首を傾げる。
「遠野くんの膝の上に私が座るって言いたかったんだよね」
「はいつくばった俺の背中の上に守山さんが座るんだろ? って言いたかったんだ」
「私を何だと思ってるの遠野くんは」
「女神」
そばにいるだけで割りと元気になれる存在だ。
「っ、いいから、隣に、普通に、座るの! お話しづらいでしょ!」
「この関係がすごく落ち着くんだけど」
守山さんが膝を組んで頬杖をついてソファに悠々と座り。
俺は固いフローリングの床の上で正座する。
何の問題もない、むしろまだ俺の待遇がよすぎるくらいだ。
「す、わ、る、の。でないと私がそっち行くから」
守山さんにこんな固くて冷たい床に座らせるわけにはいかない。
かといって、このままではそれを止められない。
仕方なく、俺はソファの端に正座して座った。
「私の隣に、普通に座るって言ったよね?」
「これが俺の普通なりますれば」
「そう、そういうことするんだ。わかった」
あっという間に、守山さんが俺のすぐ左横にずれてきて座る。
近い、近いよ守山さん。
肩の熱が伝わってしまいそうに、近い。
なんだこれなんだこれなんだこれ。
うれしいけれども、恥ずかしいというか、うん、やばい。
だから俺としては、十五度くらい右に上半身を傾けておいた。
「斜めにならないで。普通に座って、って言いました」
「俺の平衡感覚なんてこんなものデスヨ?」
「いいから」
ぐい、と肩をつかまれて真っ直ぐにされる。
きゃあああああああああああ!
守山さんのビッチ。
軽々しく男の体に触れるものではなくってよ。
守山さんのほうもさすがに恥ずかしいらしく、顔をうつむけていた。
「これが普通に座るってこと。いい?」
「ちょっとトイレ行ってきます」
立ち上がりかけたところを、手首をつかまれて引き戻される。
「いいから、ここにいて」
「十七にもなってもらせと!?」
「どうせ嘘なんでしょ。遠野くんの性格はわかってるから」
手首は握られたままで、逃げ出せない。
守山さんにどきどきする気持ちからは、決して逃げられない。
「あの、ですね。守山さんは平気かもですけど、女子にあいさつされただけで好きになるような俺という人モドキはですね、こんなことされると、参るのですよ」
「勝ったー、って喜べばいいのかな」
にっこり無邪気に、守山さんが笑う
惚れたほうが負け、と世間では言うらしい。
それ以前に、守山さんに俺は無条件降伏なのだった。
勝てる気がしない。
好きだ。
付き合えないのは変わらないけれど、ただ、好きです。




