第16話 コンビニ
明日香さんが守山さんに馴れ馴れしくするのを、保健室で見せつけられた。
そのときわかりやすく嫉妬してしまって、ひどく後悔している。
そのことを、めぐむに簡単に話すと、
「保健室、大丈夫だった?」
「意味がわからない。そりゃ暴力を振るいかけたけど、結局何もなかったぞ」
「そうじゃなくて、守山さんがベッドの陰で小さくなってたって言ったじゃん」
「ん? それと保健室、何の関係があるんだよ」
「隠れて守山さん、吐いてなかった? そうじゃなくても吐きそうになってなかった? あんたの独占欲まるだしの行動に」
「ほんとにありそうだからやめてくれる?」
いくら守山さんが聖女だからって、耐えられる限度がある。
可能性は高くて想像してしまうが気持ちよくはなれず、ただ傷つくだけだった。
「とにかく、そうね、いきさつはわかった。ただのクラスメイトに過ぎないあんたが、守山さんに独占欲を出した。それで自己嫌悪して、一人で落ち込んでたわけか」
「おおむね間違ってないな」
「訂正。かわいそうなクラスメイト、に訂正ね」
「そこ必要……?」
事実は正確にしておかなければならないけど。
「まあいいんじゃない? さすがに行動に移すのはどうかと思うけど、あんたに独占欲があって、頭の中では守山さんをその醜い欲望で汚してたって、誰にも裁けないわけだし。残念ながら」
「守山さんでそんなこと考えるわけないだろ」
自分が最底辺という自覚はあるが、だからといってあえて最低な行動をしたくはない。
最低なことをしたくはなくても、結果的にしているのが俺だ。
「めぐむは、俺と付き合うこととかどう思う?」
「ごめん、あんたのこと人として見てないから」
「男以前に人として!?」
異性としてみてないからなのはわかる。
俺だってめぐむのこと男だと思ってるし。
「人じゃなかったら何なんだよ」
「ペット?」
「犬か猫か、どっちだ」
「そこ気にする? ていうかどっちも外れ」
「犬ならまだ許せる。ハムスター? フェレット?」
「ううん、爬虫類ジャンル」
「哺乳類ですらない!」
「トカゲとかヘビとか、キモかわいい系?」
「あ、そう言われるとわかる」
俺のことをわかってるじゃないかめぐむ。
さすが俺の友だち……でもなかったなごめん。
「カエルにちなんだあだ名をつけられたこともあるしな、俺」
「あれはあだ名なんていうかわいいものだった? あとカエルは両生類だし」
ヤモリとイモリみたいなものか。
どっちがどっちだか微妙にややこしくて、テストのときよく間違えたものだ。
「まあめぐむの言う通り、俺が誰かと付き合うなんてありえない話で、よくてペット扱いになるわけだ」
「あたしが言うのもなんだけどかわいそう」
本当にお前が言うのもなんだけど、事実なので構わない。
「お前がそう思うんならもっと優しくしてくれてもいいぞ」
「絶対イヤ」
ですよねー。
もうすでに十分優しいもんな、めぐむ。
これ以上は甘やかされているレベルだ。
甘やかされたいと考えてしまうのも、俺のだめなところだ。
「だから、つまりさ。守山さんも俺のこと諦めてるっていうし、俺のほうからフったんだから、未練がましいとか超絶キモいだろ」
「すごくよくわかる」
「なんであんなことやっちまったかなあ……」
嫉妬まがいのことさえしなければ、普通に付き合えてたのに。
こんな気持ち、守山さんに気づかせたくもなければ、俺自身気づきたくもなかった。
「……徹」
めぐむにしては珍しい、落ち着いた声音で俺の名を呼ぶ。
「何だよ。下手ななぐさめなんかいらないぞ」
「そんな下らないことよりゲームしようゲーム」
「お前いま俺の悩みを下らないことっつった?」
なぐさめてくれないのか。
「頭悪いんだから、うじうじ悩んでだって何も解決しないって。バカの考えは休むより悪い。というわけで、あんたはレスラーキャラ使ってね」
「つまりそれ対戦ゲーでボコボコにされろって言ってる?」
なんでゲームでストレスためないといけないんだ。
めぐむの自由奔放さに力が抜けたところで。
俺の腹の虫が鳴った。
「プリン食べたばっかのくせに」
「晩飯を食べてないんだよ。ずっと悩んでたから」
「あたしが何か作ってあげようか」
「お前に料理が作れるのか? 正確には料理して食べれるものができるのか?」
「舐めんな。お湯入れることくらいできる」
「そっちこそ舐めんな。カップラーメンは料理じゃない」
体に力が入らないが、俺は気合を入れて立ち上がり、玄関に向かった。
「コンビニ行って何か買ってくる。それまで一人で遊んでてくれ」
「三分だけ待つわ」
「ボルトでもムリなことをおっしゃる」
一番近いコンビニで一キロの距離がある。
めぐむの注文は聞き流して、めぐむひとりを残して家を出た。
秋の夜の空気はいよいよ冬を感じるほど冷たかった。
何か温かいものが食べたい。
めぐむにも、肉まんかおでんでも買って帰ろう。
* * *
コンビニで弁当と肉まんを購入し、コンビニを出たところで人とぶつかりそうになった。
「あ、すいません、って」
と、謝るときに、ぶつかりそうになったのが誰だったのか気づいた。
「あなたは……」
「おー、きみは!」
背の高いイケメン、ではなく、イケメンのような外見の年上女性、守山明日香さんがいた。
今日保健室であったことでからかわれる、と身構えるも、
「誰だっけ」
すっかり忘れ去られていた。




