第15話 デキる女・めぐむ
認めよう、俺は明日香さんに嫉妬してしまった。
それも、守山さんにしっかり好意を抱いているから。
あまつさえ独占欲みたいなものまで出して、本当に恥ずかしかった。
最低だ。
反省の念がずっと頭でぐるぐるしている。
太陽が沈みきって真っ暗になってなお、俺はリビングのソファで体育座り。
一人反省会を、続けていた。
「とおるー、いるー?」
そこに玄関のドアが開く音がして、ひたひたと足音が近づいてくる。
リビングに続く引き戸が乱暴に開けられ、
「わ、真っ暗」
と声の主は驚き、ほとんど暗闇の中すぐ電気をつけた。
「……何してんの、徹」
「めぐむ――めぐえもんか」
「何だいのびるくん、まーたジャイ○ンにいじめられたのかい?」
わさび風にモノマネして、めぐむは俺のおふざけに付き合ってくれる。
こんな、自宅のリビングのソファで体育座りしているような俺に。
「別に、何でもないさ。俺が最底辺の陰キャだってことを思いだしただけ」
「そんな当たり前のことを忘れてたのかのびるくん。きみはじつにばかだなあ、そこまで頭が悪かったのかい」
「そうさ、笑えよ。バカだ、本当にバカなんだ俺は」
「ふんふん」
めぐえもんことめぐむが、俺の隣に座る。
俺と同じように体育座りだ。
「のびるくんがネガティヴ極まってて頭も顔も悪い、皆から蔑まれるようなウジムシなのは今に始まったことじゃないじゃないか」
「そうなんだけどさあ」
軽く傷心だって、見てわからない?
もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいんだよめぐえもん。
きみのなけなしのデリカシーをここで発揮してくれよう。
「うん、そんなふうにのびるくんはろくでもないけど」
「けど……?」
落として上げる作戦か。
わかりきったやり口だが、ここは乗っておいて、喜んでおかねば。
褒められて次に言うセリフは、ありがとう。そう、ありがとう、だ。
「けどあんたの金で買ったクレープだけはおいしいじゃないか」
「そりゃそうだよ!? お金にもクレープにも罪はないからな!?」
落として下げるって、いたぶってるだけだぞめぐえもん!
「だから、自信を持っていいんだよのびるくん」
「どこに自信を持てばいいかわからない!」
それ、おごってもらった結果だけは受け入れてるだけで。
何も俺、関係なくない?
あと俺の金で買った、って表現、おごってもらった自覚薄くない?
お礼のつもりでクレープを買ったのは事実なんだけど、本当、言い方。
言い方な。
本当に守山さんとは大違いだ。
「それで何かあった?」
「だ、だから、別に何でもないって」
「何かあったと聞かれてね。普通、何かは出てくるか、どうして、と聞き返してくるもんなの。大丈夫とか何もないってのは、大抵隠してる証拠」
当たりでしょ、と目でめぐむは問いかけてくる。
なんだよ、デキる女かよめぐむ。
知ってた。
「何かあったとしても、言いたくない」
恥ずかしくえて言えたものではない。
「じゃあいいや。ねえ、あたしのプリン食べてないよね?」
「俺の買ってきたプリンしか冷蔵庫にはないぞ」
「え、それってあたしのプリンじゃん」
「まさかのジャイ○ンがここにいた!」
お前のものはあたしのもの、というやつだ。
「いや待て。もしかするとめぐむのものは俺のもの?」
「あたしのものはあたしのものに決まってるでしょ。人の所有物を勝手にいただいた宣言とか、日本は法治国家なのよ恥を知れ」
びし、とめぐむは俺を指差す。
人を指差すんじゃない。失礼だぞ。あと、
「そっくりそのまま返すわ」
さっき俺のものをあたしのもの宣言したのはどいつだ。
お前のほうこそ恥らいを知ったほうがいい。
ソファに寝転がるときスカートなんだから気を遣え。
「プリンプリンー」
軽い調子で、めぐむは台所に向かう。
俺のプリンを食べる気は変わらないらしい。
「はい、のびるくんにもやるよ」
「もともと俺のものだったのをあげる宣言されてもなあ。……ありがとう」
冷蔵庫に入っていたプリンは二つ。
一個はめぐむの手に、もう一個は俺の手に収まる。
とりあえず礼は言っておいて、プリンは食べる。
食べつつ、めぐむとの話が進んだ。
「何があったか知らないし、言わなくてもいいけどさ」
めぐむの肘が、俺の脇腹をつつく。
「まあ、たまにこうして、プリン食べにとかゲームしにきてやるよ」
つまりは、俺を見捨てないという宣言だった。
そばにいてくれるという、暖かい言葉だ。
「……ありがとう、めぐむ」
このときばかりは、素直に、まっすぐに、礼を言わずにはいられない。
ひょいぱく、とめぐむはさっさとプリンを食べ終える。
「ふん、あたしは、プリンとゲームのためにいるんだからね」
何そのツンデレ。
めぐむのくせにかわいいぞか思ってしまった。
「で、どうせ守山さんのことでうじうじやってたんでしょ。とっとと話せうっとうしい」
「お前さっき何があったか言わなくていいって言ったじゃん!」
台無しだった。
さっきまでの感動を返せ。




