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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
三章 それぞれの翼
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第60話 ユミナちゃんの精霊

「せ、精霊って、あの精霊ですか?」

 隣で話を聞いていたニーナが、精霊という言葉に反応する。


「たぶんその精霊よ」

 精霊が希少な存在だという事は今更説明するまでもないだろう。

 私の場合は山に山菜取りに出かけた際に、偶然生まれたてのフィーと出会ったわけだが、レガリアで一番人口が多い王都に来ても、未だフィー以外の精霊を見た事がないのだ。

 以前フローラ様から、貴族の中でも精霊と契約している人は何人かいるとは聞いているが、その大半は自ら精霊と契約しているとは口外されていないのだとか。中には精霊の力を借りて国に仕えている方もおられるらしいが、多くの者は前者なのだという。

 その理由は緊急時の際に魔法を使って自身や家族の身を守るため。

 長年貴族なんてやっていると、どこで恨みをかっているかなんてまるでわからない。もし暗殺対象が初めから魔法を使うと分かっていれば、敵は警戒に警戒を重ねる事だろう。それに精霊は大変希少な存在なので、場合によっては誘拐や略奪、金銭に絡む厄介ごとが山のようにやってくる。

 これがただ自慢やお金が目的なら、他人が口を挟む余地はないのが、精霊にはそれぞれ意思があり、その先には精霊契約という絆が生まれてしまう。もちろん精霊自身が嫌がり、契約そのものが成立しない事もしばしばあるらしいが、逆に言えば精霊と契約が出来るような関係なら、おいそれとパートナーを厄介ごとに関わらせたくはない筈だ。

 実際家族でもある筈のバカ兄に、フィーの存在を隠していた私が言うのだから、多少の理解はしてもらえるのではないだろうか。


「因みにだが、隣にいるアリスも精霊使いだ」

「えっ?」

 ちょっ、なにサラッと人の秘密をバラしてるんですかと、軽くジーク様を睨め付ける。

 まぁニーナも自身に危険があるかもわからない状況なのに、こんな場所にまで付いて来てくれたのだから、こちらとしても其れなりの信頼という対価は支払うべきだろう。

 私は「はぁ……」とため息まじりに、フィーが今エリスの側にいる事も含めて説明してあげる。


「き、貴族の中では精霊って普通……なんですね」

「「そんなわけないでしょ!(ないだろ!)」」

 ニーナのいきなりのセリフに、私とジーク様の言葉が見事にハモる。

「全ての貴族をアリスやユミナと比較するのは間違いだ」

「ちょっとジーク様、それどういう事ですか!」

「うっ、いやだって……。貴族全員をアリス基準にすれば、それこそこの国はひっくり返るぞ?」

 余りといえば余りの言葉に、ジーク様を睨め付けるも「だったらアリスは自分が一般的なご令嬢だと思うのか?」のセリフに、思わず「うぐっ」と言葉を詰まらせてしまう。

 た、確かに、今の私は花も恥じらう17歳。一つ年上であるジーク様ですら、ようやく騎士として認められたという状況。それなのに既に一つのお屋敷兼お店のオーナーをやっており、ご婦人方に営業回りまでしているのだから、規格外といえば規格外なのかもしれない。


「だろ?」

「うぅ、言い返せない……」

 物の見事にノックアウトされた私の姿をみて、ニーナがクスクスクスと笑ってくる。

「ご、ごめんないさい。こんな時だというのに」

「いいわよ。変に気が張っているよりマシだわ」

 思い返せば知らぬ間に随分気が張っていたようだが、彼女の笑いで少し肩が軽くなった気がする。

「それにしてもお二人は仲がいいんですね」

「「///////」」

 何気ないニーナの言葉に、私とジーク様が狙い合わせたかのように顔を染めながら視線を外す。

 だけどそれがいけなかった。たったそれだけの動きで、鋭いニーナには気付かれてしまったようで、「あぁ、そういうご関係なんですね。大丈夫です、お似合いだと思いますよ(ニコ)」っと、盛大に何か勘違いをされてしまう。

 違うの! それ誤解だから!


「コホン。そんな事より今は二人……いえ、四人の事よ。あと私は元・貴族だから間違えないでね」

 どうやらニーナは私を貴族だと勘違いしているようだが、ここはしっかりと訂正しておくべきだろう。

「元……ですか?」

「そう。詳しい事情は触れないでもらえると助かるけど、貧乏貴族では家を出るなんて事は良くある話なのよ」

「はぁ……、貴族の方でも色々あるんですね」

 ここで目の前にいる人は四大公爵家の跡取りだと言えば、面白い反応が見られるのだろうが、できればジーク様は立場上、騎士団から私の護衛という立場を貫きたいので、ここはぐっと我慢して素性をあやふやにしておく。


「それでジーク様、ユミナちゃんに精霊がいるって話、わたし聞いた事がないんですけど」

「いや、それがだな……」

 聞けばエヴァルド様とジーク様が騎士団を率いて遠征に出かけられた際、偶然その地に住む精霊と出会い、ユミナちゃんのお土産にと、エヴァルド様がそのまま持ち帰られたという話だった。

 まってまって、精霊ってそんなに簡単に捕まえて持ち帰れるものなの?


「俺もよくわからないんだが、精霊は人間の心を読むとかなんとかで、あっさりと捕まえられてそのまま屋敷にまで連れ帰れたんだとさ」

「そんな身も蓋もない……」

「お、俺だって帰ってくるまで聞かされてなかったんだって」

 私のジトーっという視線に、慌てて言い訳をされてこられるジーク様。

 どうやらエヴァルド様はユミナちゃんのお土産に悩まされていたらしく、精霊を見つけた瞬間に「これだ!」と思われたらしい。

 結局そのお土産にユミナちゃんは大変喜んだらしく、魔法が上手く扱えるまで私には秘密だと、フローラ様とジーク様に念をおされていたのだという。


 親バカ親バカとは感じていたが、精霊をお土産に持ち帰るとか、エヴァルド様はどれだけ娘に弱いのだろうか。しかも魔法を扱えるようにと、軍部に所属されている精霊使いさんを講師に招くほどの甘甘さ。それ明らかに職権乱用ですよね!

「アリスだって妹の事が絡むと甘甘だろうが」

「うぐっ」

 ジーク様に心の声を読まれ、再び言葉を詰まらせる。


「ま、まぁ、事情は把握しました。フィーの事だから一人でこっそり抜け出して私たちを探す、って事はないと思いますし、ユミナちゃんの側にも別の精霊がいるとなればちょっと急がないとダメですね」

 フィーを人間と同じ扱いにしてはいけないのだろうが、あれでも生まれてまだ2年半ほどしか経っていないので、二人の居場所を知らせるためにこっそり抜け出す、って事は経験上難しい仕事だろう。

 実際この王都だと私でも迷子になる程複雑なので、助けを呼ぶために逆に迷子になってしまう可能性だって十分にあり得る。

 あれでも頭はいい子なので、私たちが助けに行くまでエリスたちの側から離れない筈だ。


「そうなんだ。ユミナにも精霊が付いているとなれば、むしろ危険が増えてしまって」

 うんうん、私とジーク様が妙に納得していると、隣のニーナが不思議そうに尋ねてくる。

「えっと、ユミナ様に精霊が付いておられるのでしたら、逆に安全なんじゃないんですか?」

「あー、そうじゃないのよ。私とジーク様が心配しているのはエリスとユミナちゃんが、何かやらかすんじゃないかって話」

「はぁ……お二人が、ですか?」

 私もジーク様も二人の性格はよくわかっている。

 エリスはどちらかというと大人しく、危険な事には首を突っ込まない性格だが、ユミナちゃんはそうはいかない。

 元々公爵家のご令嬢という立場から、守られるより守る立場だという自覚があり、トラブルが向こうの方から飛び込んで来るような、言わば俗に言う超弩級のトラブルメーカー。

 前にフローラ様から、ユミナ以上のトラブルメーカーを見たのは初めてよと、私を見ながらクスクスと大笑いされた事を覚えている。

 まって、私はトラブルメーカーじゃないから!

 

「ですがお二人はまだ幼いんですよね?」

「えぇ、二人ともまだ11歳よ」

「でしたら自ら危険な真似をされるような事はされないんじゃ……」

 ニーナがそんな甘い話をしかけた時だった……

 ドーーンッ! ゴゴゴ……


 馬車の前方に一条の竜巻が、倉庫の屋根とおぼしき残骸を巻き込みながら現れるのだった。

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