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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
三章 それぞれの翼
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第48話 女神の翼が羽ばたく時

「ローズマリー、本日リニューアルオープンです!」

 ワァァァァーー。


 お店の開店時間に合わせて、押し寄せる人の波、波、波、波。

 忽ち店内のカフェエリアは満席となり、まだ寒い時期だと言うのにテラス席まで一瞬のうちにすべてが埋め尽くされてしまった。


「どうやらアリス様の作戦が功を奏したようですね」

「本当のところはどうかと思ったのだけれど、上手くいってよかったわ」

 今回ローズマリーのリニューアルオープンに合わせ、私は多くのチラシを王都にまいた。そこには一から作りかたを見直した新作ケーキの数々に、今後ローズマリーの主力商品となるチョコレートを使ったスィーツと暖かな飲み物、そして極めつけは今回の目玉商品ともいえるパフェやクレープといった、新ジャンルとも言える数々の新商品。

 しかもこの3日間に限り一人一品限定ではあるが、パフェやクレープといった新ジャンルを、どれもワンコインでご試食いただけるサービスを添えさせて頂いた。

 本音を言えば貴族相手に銀貨1枚のワンコインなんて通じるのかと思ったが、どうやらそんな風潮はなかったのか、ご覧の通りの大盛況。今も注文が入っては、スタッフ達が忙しそうに店内を走り回っている。


「ちょっとコレ、幾らなんでも忙しすぎませんか!?」

 うん、めっちゃ忙しいわね。

 スタッフの泣き言に思わず心の中で同意するが、私もフロア側のヘルプに入っているんだから頑張ってもらうしか他にない。


 今までのローズマリーは正面にある陳列棚にケーキを並べ、そこから注文が入るごとに取り出し、配膳するという流れだったのが、今回カフェメニューを充実させた為、オーダーが入ると同時に調理や盛り付けをするという工程が加わった。

 まずクレープやパンケーキの類は焼きの工程が入るため、キッチン側で対応。パフェやホットココアは盛り付けと注ぐだけなので、フロア側で対応するといったように、ともに仕事量が一気に増えてしまっている。一応リニューアルオープンに合わせて、ホール側の教育とキッチン側の人員を補充しているのだが、思わず愚痴を漏らしてしまう程の忙しさ。

 恐らくこの忙しさもキャンペーンの3日間のみのものだとは思うのだが、流石にこれはちょっと厳しいかもしれないと感じてしまう。


「それにしても客足が全然止まりませんよね。さっきも馬車が行列を作ってしまったとかで、バードさんが大慌てで交通整理をされていましたよ」

 今日ばかりは店側のヘルプにはいってくれているカナリアが、私の元へやってきて話してくる。


「カナリアはバンドワゴン効果って言葉を知っているかしら?」

「なんですかそれ?」

「簡単に言うと『とりあえず多くの人に同調しておこう』って意味なんだけど……」

 今回私はリニューアルオープンに合わせて多くのチラシを撒いた。それは離れてしまったお客様を取り戻す必要があったわけだが、今のように店内は満席で、店の外まで行列が出来ている光景を見れば、多くの人が盗作疑惑など関係ないものだと、そう感じて貰えればと考えたからだ。

 私の目的はあくまでもこの先を見据えて戦略。チラシを打てば当然人は集まるのだが、例の盗作疑惑が払拭出来ない事には、この先も今の状態が続くとは限らないので、ワザと見せつけるように仕向けさせていただいたのだ。


「それにね、単純に店の規模が大きいからって何も良いことばかりじゃないのよ」

 今も外では行列を成しているというが、これがプリミアンローズならば一度に収容できるのだろう。彼方はこちらの収容人数の倍以上の規模なのだから、お客様を待たすことなくテーブル席へと案内が出来る。

 だけどローズマリーではどうしても人数制限がかかってしまうため、今回のように店の外まで行列が出来てしまう。

 中にはリニューアルオープンに合わせて、カフェスペースを大きくしようという案もあったのだが、広ければ広いだけでサービスは行き届かないし、客足が引くお昼過ぎにはどうしても空席が目立ってしまう。

 そうなれば、お客様の印象でこの店は人気がないのだと勘違いされても困るので、私は店舗の収容人数を増やすという案を却下させていただいた。


「そういう理由からだったんですね」

「まぁ、単純に改装の時間やスペースがなかったという理由もあるのだけれど、広ければ広いだけ苦労もあるし、商品の数が多ければ多いだけコストも手間もロスも多いってわけ」

 こちらにこれだけのお客様が集まったのならば、今頃プリミアンローズの店内はガラガラなんじゃないかしら。

 規模は小さくとも溢れかえる店と、規模は大きいけれど空席が目立つ店。もしこの二つに同じ人数のお客様が同時に訪れた場合、果たして来店されたお客様の目にはどの様に映るだろうか。

 つまりは規模的に半分以下のローズマリーでも、やり方次第では十分にプリミアンローズと競い合えるということだ。


「しかしよかったんですか? これって完全な赤字ですよね?」

 ケーキはもちろんの事、新商品として用意したパフェやクレープにも、当然高級食材扱いの砂糖や卵なんかも使われている。これだけでもとてもじゃないが原価を銀貨1枚では抑えきれないのだが、今回ばかりはまずはお客様に来てもらわない事には始まらないので、赤字覚悟でやらせてもらったのだ。

 ケーキの時と違ってフローラ様の宣伝は使えなかったので、私なりに考えた苦肉の策とでもご理解いただきたい。

 今更ながらにフローラ様の偉大さを感じてしまうわ。


「それにしてもよくワンコインなんて言ういいまわしを思いつかれましたね」

「まぁね、実は前にジーク様とデート……コホン。お出かけした時、安い手づくりのアクセサリーショップに行った事があったのよ。その時貴族でも安いお店には人が集まるんだと思ってね。それでどうせ安売りするなら、よりインパクトがある方がいいと思ったってわけ」

 あの店は言うなれば若者達が通うアクセサリーのディスカウントショップ。貴族なのだから安物には関心がないのかと思っていたが、店内は予想を遥かに覆すほどの繁盛さ。手作り品で物珍しいという事もあったのだろうが、若者の中に混じってご婦人方の姿も多数あったので、もしかしてとは思っていたのだ。

 一応チラシにも3日間限定とさせてもらったし、新商品のお披露目という名目も付けさせて頂いたので、先を見通してのある種の投資のつもりだったのだが、これを機に初めてローズマリーに足を運んでくださった人も多くいるらしい。


「なに今更隠してるんですか、この店にいる全員がジーク様とお付き合いされているのは知っているんですよ」

「/////// って、付き合っていないから!」

 そらぁ、ちょっぴり恥ずかしい姿を見せてしまったが、私とジーク様はそんな関係ではない。そもそもジーク様が私なんて女性を相手するわけが……ごにょごにょ。


「はいはい、アリス様がジーク様を好きになられた事はわかりましたので、取り敢えず今はお仕事をしましょうね」

「だからそうじゃないんだってば!」

 もう、カナリアは私をからかっては喜ぶんだから……。


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