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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
一章 その名はローズマリー
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第31話 新たなる発見(前編)

「どうしよぉぉぉ、カナリアぁぁーー!!」

 店を潰すと言われ、ついつい頭に血がのぼってアルター男爵に宣戦布告? しちゃった翌日、冷静になるにつれとんでもない事をしちゃったのではと焦る私。

 こちらは平民、彼方は貴族。フローラ様に泣きつけば何とかしてくれそうな気はするが、今回ばかりは私個人の問題なので頼るわけにはいかず、とりあえず近くにいたカナリアに泣きついてみる。


「別にいいんじゃないですか? アリス様がキレておられなければ私が斬り捨てていましたよ」

 いやいや、その物騒な発想はそろそろ止めようと流石に注意したい。

「私もカナリアに同意します。今回に関して私も少々頭に来ておりますので、男爵家を潰すなら全力でお手伝いをさせていただきます」

 と、今度はランベルトが怒りで口を開く。

 ちょっと! 男爵家を潰すとか、ランベルトまでカナリアと同じような事を言わないでよ!

 喧嘩を吹っかけた私が言うのもなんだが、私の店など男爵家と比べると小さなもの。潰すと言われればお近づきになりたくないような人たちが寄って集って、お店の前にゴミを積んだり、来店されるお客様を追い払ったりして、ローズマリーの経営は忽ち赤字、その後私はエリスと共にこの店を追い出され、橋の下で新聞紙に包まって生活を送るのよ。およよよ。


「何バカな事を言ってるんですか。この貴族街でそんな事件が起これば大騒ぎですよ」

「そうですね。そもそも一体誰がアリス様とエリス様をこのお屋敷から追い出すとおっしゃるので?」

 うん、そう言われると確かにそうね。

 よくヤクザ映画で借金の取り立てや、立ち退きの強要をしているシーンを思い出したが、よくよく考えてみれば貴族街でそんな事件が起これば一大事。それにこのお屋敷の主人は私なんだし、元をたどれば公爵家のものなのだから、男爵様がどうあがこうか乗っ取る事は出来ないだろう。


「それじゃ二人はどうやって潰されると思う?」

「無理でしょ」

「無理ですね」

「へ?」

「よく考えてもみてください。アリス様は今や数々の貴族の方に注目されている存在、しかも後ろにはハルジオン公爵家が控え、エンジニウム公爵家とも懇意にされておられます。そんなお立場のアリス様を一体誰が攻撃出来るというのでしょうか」

 うぐっ。

 ま、まぁ、確かに私がハルジオン公爵家でお世話になっていた事は、多くのご婦人方が見ておられるのだし、この前のパーティーでもフローラ様やレティシア様から、直接ご来賓の方々にご紹介されたので、そこそこ有名人になってしまった事は認める。

 だけどこのまま何もしないで放置という事はさすがに危険ではないだろうか。


「そうですね。とりあえずアルター男爵家に探りを入れてみます」

「って、何サラッと怖い事をいってるのよ!」

 何度も言うが相手は男爵、簡単に探りを入れると言っているが、もし気づかれでもすれば何を言ってこられるかわかったもんじゃない。そもそもどうやって探りを入れられるのよ。

「そこは男爵家の者を買収するに決まってるじゃないですか」

「決まってるの!?」

 貴族怖い、ランベルト怖い、カナリアも怖い。


「まぁ冗談はさておき、男爵家がどう動くかわかりませんので、少し監視する意味も込めて探りは入れさせていただきます」

「はぁ……、仕方がないわね。情報が大切なのは私も理解しているからその辺は任せるわ」

 ランベルトの事だから二重三重に警戒して調査をしてくれるだろう。気づいた時には手遅れでした、では取り返しがつかないので、ここはプロの腕前を信じて託しておく。


「取り敢えずランベルトの方からお屋敷の皆には伝えておいて、私は一応フローラ様にご報告だけは入れておくわ」

「畏まりました」

「カナリア、悪いのだけれどフローラ様に連絡を取って貰えるかしら? 出来るだけ早めだと助かるわ」

「アリス様でしたら恐らく今すぐでも大丈夫だとは思いますが、念のために早馬で連絡をとってみますね」

「お願いね」

 ここからハルジオン公爵家までは馬車で5分程度なので、馬だけならそう時間はかからないだろう。

 フローラ様は普段お屋敷におられるか、ご友人方とお茶会を開かれているかのどちらかなので、ご在宅ならカナリアの言うとりすぐにでも連絡は入るはず。

 そして馬を飛ばしておよそ10分後、私はハルジオン公爵家に向けて馬車を出すのであった。




「この度は急なお願いにも拘らず、お時間を頂きありがとうございます」

 まずはカーテシーで恒例のご挨拶。

 どうやらレティシア様とお二人でお茶を頂いておられたらしく、すんなりと面会の申し入れを受けていただいた。


「もう、アリスは相変わらず律儀ね。そんな堅苦しい挨拶は要らないわよ」

「そうね、アリスちゃんも早くこっちに来て座りなさい」

「ありがとうございます」

 馴染みのメイドさんに勧められるまま、空いてる席へと座らせていただく。

「それで今日はどうしたの?」

 普段私からアポを取ることはよくあるが、それでも馬を飛ばしてすぐというパターンは殆どない。遅くとも前日には連絡を入れているので、何か問題があったのではと、思われてはいるのではないだろうか。

 私は昨日アルター男爵との会話を、フローラ様とレティシア様に説明させていただいた。


「ふふふ、いい度胸ね。男爵家ごときが喧嘩を売るなんて」

「あらあら、私もあの家にはお仕置きが必要だと思っていたところなの、丁度良かったわ」

 こ、怖いですお二人とも!!

「その……私は叱られないのですか?」

「どうして?」

「ですから売り言葉に買い言葉で、男爵様に喧嘩を売ってしまいましたので」

 これでも私はハルジオン公爵家の庇護下のようなものだし、暴走して他家に喧嘩を売るとかご迷惑になるのではと思ったのだが。

「そんな事を気にしていたのね、でも大丈夫よ。寧ろ逆に言いなりになって反論すら出来ないようなら叱っていたけれど、流石は私が見込んだだけのものはあるわ」

 それってつまり私があの時キレてなければ怒られていたって事?

 平民の私が男爵様に逆らっては褒められ、逆らわなかったら叱られるってちょっとおかしくない?


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