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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
一章 その名はローズマリー
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第22話 社交界シーズン到来

「むにゃむにゃ、お姉ちゃん眠たい」

 トテトテトテと、私に近づいたかと思うとギュッ抱きついてくる可愛い妹。

 昨夜は遅くまでユミナちゃんと遊んでいたので、今朝は少しいつもより眠いのだろう。あれほど早く寝なさいと言っていたのに、久々に夜まで一緒だったのでずいぶん二人で騒いでいた事を思い出す。

 

「ユミナちゃんの方は大丈夫かしら?」

「どうでしょうか? 昨夜お迎えの馬車が来られた時には既に疲れて眠っておられたので」

 大事なお嬢様を預かっていた手前、夜更かしさせてしまった事を反省する。

 実はフローラ様達がお城で行われる誕生祭パーティーに行かれている間、まだ参加が出来ないユミナちゃんを預かっていたのだが、初めての我が家訪問が楽しかったのか二人ともお部屋で大はしゃぎ。

 私が寝なさいと言ってもいうことを聞かず、ほとほと困りかけた時にジーク様がお迎えに来られたのだ。

 一応事情は説明させていただいたのだが、今頃ユミナちゃんもエリス同様に寝不足なのではないだろうか。


「むにゃむにゃ、ふわぁー。お姉ちゃん好き」

 いまだ夢うつつの状態なのだろう、着替え終わったかと思うと再び抱きついてくる可愛い妹。

「どうしようカナリア、エリスが可愛い」

 最近めっきり姉離れしてしまい、少し寂しい思いをしていたのだが、こんな姿を見せられればぎゅっとしたくなるのが姉の心情というもの。


「はいはい、アリス様の妹好きは分かっておりますが、ちゃっちゃと支度を済ませてください。遅れますよ」

 ぐすん、カナリアが冷たい。

 少々名残惜しいが本日から私のスケジュールはギッシリ。王都では誕生祭を皮切りにパーティーシーズンが始まってしまい、来店の予約は勿論パーティーで使われるケーキの予約も殺到しており、現在ローズマリーはスタッフ総動員でケーキ作りに取り組み中。

 本来なら私もこれに参加しなければいけないのだが、お得意様や知り合いの方々から、パーティーやお茶会の招待状をいただいてしまい、お店をランベルトとディオンに任せてパーティー回りをする羽目になってしまった。

 まぁ実際お客様あっての商売なので、これも立派なお仕事なのではあるのだが。


「ごめんねフィー、私がいない間お店の方をお願い」

「任せてくださいアリスちゃん」

 私がお店に居られない以上、氷がなくなってしまっては大問題なので、フィーにはお店に残ってディオン達のお手伝いをお願いする。

「それじゃ行ってくるわ。ランベルト、後の事はお願いね」

「畏まりました」

 私はエリスとカナリアを連れて馬車にてお出かけ。今日の予定は午前中にハルジオン公爵家のパーティーに参加し、午後からはインシグネ伯爵家のパーティーに顔を出し、そして夜に再び戻って、ハルジオン公爵家で行われる食事会に出席する事が決まっている。

 因みにパーティーに参加出来ないエリスはハルジオン公爵家でお留守番。通常時なら家に残しておいてもいいのだが、パーティーシーズン中はスタッフが全員お店側に出ているので、フローラ様のご好意でしばらく預かっていただく事になっている。

 公爵家ならユミナちゃんもいるし、メイドさん達とも顔見知りなので寂しい思いはしないだろう。


「おはようございますフローラ様」

 出迎えに来てくださったフローラ様にご挨拶。

 本来パーティーに招待されている方々の入場はまだ先なのだが、今日私が着るドレスをフローラ様がご用意してくださっているため、少し早めに伺わせていただいた。

 これでも一応ドレスは用意していたのよ? ランベルトやカナリアからパーティーやお茶会へ参加は必須だと言われていたので、1着だけ作ってもらったのだけれど、どうもフローラ様の目には地味に映ったらしく、ほぼ強制的にドレスをご用意いただくことが決定してしまった。

 まぁ公爵家のパーティーなのだから、今日一日お借りするぐらいなら問題ないわよね。


「それじゃ早速お着替えね。なんだか少し楽しくなってきたわ」

 私のお着替えをあれやこれやと指示するフローラ様。

 ご本人曰くユミナちゃんの社交界デビューはまだ先だし、ジーク様をドレスで着飾ると言うわけにはいかないので、私にドレスを着せる事がすごく楽しいのだそうだ。

 うん、さすがにジーク様にドレスを着せちゃダメだもんね。


「奥様、胸元はこれぐらいでよろしいでしょうか」

 メイドさんが私の胸元にパットを3枚重ねながら尋ねる。

「そうね、体の方もすこしふっくらしてきたからそのぐらいでいいわ」

「畏まりました」

 誤解を招きそうなので言っておくが、決して私が太ったわけではないと伝えておく。

 なんでも実家の食事が余りにもヘルシーすぎて、成長期の私には栄養が全く足りてなかったのだという。そのせいで本来膨らむはずの胸にも脂肪が足りなく、私は年頃の女性の平均以下という可哀想な状態となり、乗り合い馬車で年齢をごまかしても気づかれなかったというわけだ。

「今だったら14歳って言ってもバレてしまいますね!」

「アリスちゃんのお胸が平均以下なのは変わらないわよ」

「……」

 く、悔しくなんかないやい! しくしく。

 

「奥様、そろそろ皆様がお集まりになっております」

「あら、もうそんな時間?」

 私のお着替えからお飾りのチョイス、メイドさん達によるメイクからヘアセットまでゆうに3時間。

 今日が私の社交界デビューだからって、ちょっと気合いが入りすぎてませんか!?

「お姉ちゃんキレイ!」

「素敵ですお姉様!」

 パーティーに出席するまえに私のHPは尽きかけてしまったが、可愛い妹達の言葉で僅かに回復。

 フローラ様がご用意して下さったドレスは流石という一言で、ドレス慣れしていない私が着てもそれなりに見えてしまうのだから不思議なもの。所々に嵌められたキラキラと光り輝く石や、シルクのような肌触りの生地に若干冷や汗が流れるが、別にプレゼントされたわけではないので有難くお借りさせて頂く。


 それにしても妙に私の体にフィットするわね。ユミナちゃんの持ち物じゃないだろうし、フローラ様のお胸は私と違ってふっくらしたものなので、とても今着ているドレスでは収まりきらないだろう。

 もしかして不測の事態のためにいろんなドレスを用意されているのかしら?

 来賓のお客様が偶然ドレスを汚してしまったとか、ご親族の方が急に来られたりとか、公爵家なんだからそのぐらい用意されていても不思議じゃないわね。うん、きっとそう。

「そうそう、そのドレスはアリスちゃん用に作ったオーダーメイドだから自由に使っていいわよ」

「……」

 軽く意識が飛んでしまった私は悪くないと自分に言い聞かせたい。




「ささっ、どうぞ」

 豪華なドレスをプレゼントされたことによる意識の欠落。

 フローラ様がご用意されたものなので決して安物なわけもなく、オーダーメイドというからにはそれなりのお値段がするだろうし、生地だ装飾だでかなり費用がかかっていのは見るからに明らか。恐る恐るお値段を尋ねてみたものの『うふふ、お屋敷一つ分ぐらいよ』と返されれば、恐ろしくて震え上がったうえで、現実逃避をしてしまうのはある意味仕方がない事ではないだろうか。

「はっ! 危うく違う世界に行きそうだったわ」

 気づけば公爵家のお庭へと続く廊下の一角。周りにお世話をして下さったメイドさん達と、今回はお留守番となってしまうエリスとユミナちゃん。廊下の先にはパーティー用に用意されたガーデンが見え、私の隣にはまるでペアルックのようなスーツに身を包んだジーク様の姿。

 うん、無事に元の世界へ戻れたようだ。


 ……あれ?

 ななななこれは一体どういう状況!? っていうかいつの間に私はジーク様の隣にいたわけ!?


「何を今更緊張されているんですか、花の公園でラブラブデートをされていたというのに。そもそもアリス様は今日が社交界デビューとなるのですから、殿方のエスコートは必然でございましょ」

 と、固まりきってしまった私とジーク様になんとも冷たいカナリア。

 って、ラブラブデートじゃないから!

「はいはい、言い訳はいいですから皆さんがお待ちですよ」

 まるで私の心を読んだかのようにカナリアとメイドさん達が、私たちの背中を押して無理やり突き動かす。

 やっぱりこのお屋敷のメイドさん達ってジーク様の扱い酷いよね!


 この後会場に向かった私とジーク様は散々フローラ様やご婦人方から揶揄われたことだけ付け加えておく。

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