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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
一章 その名はローズマリー
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第20話 緊急招集!? 王都の兄妹会

「それでは第一回緊急兄妹会を開催したいと思います」ドンドンパフパフゥ。

 私の挨拶から始まった兄妹会という秘密の集まり。

 フローラ様から聞いたツヴァイ異母兄様とドライ異母兄様の居所を訪ね、そこからフィオーネ異母姉様の所在を教えてもらっての緊急招集。

 三人とも私とエリスが王都にいる事を驚かれていたが、今人気のローズマリーのオーナーだと伝えると更に驚かれてしまい、軽く意識が吹っ飛んだ後にむりやりご納得頂く事が出来た。


「一人盛り上がっているところ悪いんだが、本当にこんな場所に俺たちが来てもいいのか?」

 部屋の中をキョロキョロ眺めながらドライ兄様が尋ねて来られる。

「大丈夫ですよ? だってここは私の家ですから」

 ここはローズマリーの特別な客間として用意した部屋なので、別段おかしなところはないはず。

 装飾も大きも公爵家に劣っているし、家具やカーテンは見栄で揃えた中古品だし、何より寛ぎ重視で用意した部屋なのでそれほど豪華には飾ってはいない。

 別にフローラ様との行きつけのレストランでも良かったのだが、少々込み入った話になってしまうので、兄様達には申し訳ないが馬車を回して遠くの地区からお越しいただいた。


「家ってお前……、この部屋だけでも俺が暮らしているアパートより大きいぞ」

「それに中古品って……アンティーク家具は中古品じゃないわよ」

 そう改めて言われると反論のしようがないかも?

 実家は騎士爵邸という手前それなりの大きさはあったが、流石にこの部屋ほどの大きさはなかっただろうし、家具を揃えたのだってこのお店がいいわよって、フローラ様に教えていただいたお店で揃えさせていただいたので、正直いくらかかったかは聞いていない。

 そう言われると確かに豪華なのかもしれないが、私がお世話になっていた公爵家のお部屋はここよりももっとキラキラしていたので、少し感覚がおかしくなっているのかもしれない。


「いやいや、公爵家と比べるなよ」

 とはツヴァイ兄様の言葉。

 まぁ些細な問題ね。


「それよりアリス、よくフィオーネ姉の身請が出来たよな。俺たちも何とかしようとは思ってたんだが、絶望的に金が足りなくて途方にくれていたんだ」

 騎士爵領の飢饉対策で、王都の娼婦館に売られてしまったフィオーネ異母姉様は、10年という長い期間を娼婦館で働く事を強制されていた。そこに所在を聞いた私が向かい、ランベルトが館の主と話を付けてくれたので、この度めでたく解放される事になったというわけだ。

 

「突然目の前に綺麗になったアリスが現れたかと思うと、そのままここに連れてこられて本当に驚いたんだから」

 当時の事を思い出されたのか、フィオーネ姉様が温かな表情で話をされる。

 娼婦の館でずいぶん苦労されていたフィオーネ姉様だが、全てが悪い事ばかりかと言えばそうではなく、偶然立ち寄られた一人の男性と恋をされ、今はその方と一緒に小さな一軒家にて一緒に暮らされている。

 どうやらその男性も必死に姉様を救おうとされていたようで、二人をこのお屋敷で再会させると大層感謝されてしまったことを覚えている。

 近々お二人は結婚をされるというのだから、これほど嬉しい事はないだろう。


「これも全部アリスのお陰ね。あの人も本当に感謝していると言っていたわ」

「そんな感謝だなんて。私もエリスもお姉様にはよくしていただいて、やっと恩返しが出来たと思っているんですよ」

 エリスも久々に再会出来た事が嬉しいのか、今はフィオーネ姉様の隣で寝息を立ててしまっている。

 お兄様達のお仕事の関係でずいぶん遅い時間になっちゃったからね。はしゃぎ疲れて眠くなってしまったのだろう。


「それにしてもアインス兄には困ったもんだな。この歳でアリスを屋敷から追い出してしまうなんて」

「その癖俺たちにはアリスの生活費が掛かるとかいって、金を求めてくるんだからたまったもんじゃないよ」

 兄様達が実家にお金を入れているとは聞いていたが、最近まで私たちを餌にお金を要求していたというのは初耳だった。

 どうりで私たちが王都にいる事を兄様達が知らないわけだ。アインス兄様の事だから王都で再会するとは思ってもいないだろうが、ツヴァイ兄様からの手紙で私と王都で再会したと知るやいなや、それ以降は適当な理由をつけて今も継続的に仕送りを強制されているとの事だった。

 兄様達も生活が苦しいと言うのにホントどんな神経をしているのかしらね。


「それでどうするんだ? ツヴァイ兄のところにはもう手紙が届いているんだろ?」

「あぁ、毎年王都に来られる時には、俺が借りているアパートに泊まる事になっていてな、その連絡が既にこちらに届いている」

 なんでも宿泊費を浮かすために毎年ツヴァイ兄様の家へと押しかけているのだという。

 だから義姉様は毎年来られてないのね。ツヴァイ兄様のアパートじゃ頑張っても3人寝られればやっとのスペース。そこにご婦人を押し込むなんて流石に失礼極まりないだろう。

 実家が持っている馬車も荷運び用のものしかないので、女性連れでの移動は無理との判断ではないだろうか。


「じゃ泊まるところは問題ないんですね?」

「まぁな、狭いが二日間の我慢だ。流石に俺が結婚とかしたら難しいだろうが、未だこれといった相手もいないから問題ないだろう」

 密かにお父様の為に宿を取ろうかと迷っていたが、毎年の事ならお任せしたほうがいいだろう。

「後はお食事とかどうされるのですか?」

「毎年近くの店で食べてるんだが、今年はアリスとエリスがいるだろ? この前届いた手紙に久々に会いたいって父上からのご要望だ」

 お父様はずいぶん心配しておられたので、私とエリスが元気でいる姿を一目でも見ておきたいのだろう。私もお父様にはお会いしたいし、元気なうちに親孝行もしておきたい。

 アインス兄様がいる手前このお屋敷にご招待するわけにはいかないが、どこか外でのお食事なら別段家族が揃っても問題はないだろう。


「それじゃレスランの方は私の費用持ちで用意しておきましょうか? 私もお父様には親孝行したいですし、ツヴァイ兄様が支払いをしてくれると伝えておけば、怪しまれる事もないでしょう?」

「いいのか? 正直毎年俺とドライが食事代を出しているから助かるのは助かるんだが、アインス兄は気遣いなんて言葉は通じないぞ?」

「そうだよな、去年なんて一人で高い酒をガバガバ飲んでいたからな。おかげでその次の日から水とパンしか食えなかったよ」

 当時の様子を思い出したのか、二人の兄がうんざりした様子で教えてくれる。

 アインス兄様のことだから自分のお金じゃないからと、いろいろ迷惑を掛けていたのだろう。お酒の価値はよくわからないが、高いものは高いらしいので、相当兄様達の懐にダメージを負わせてしまったのではないか。


「うーん、でも多分大丈夫だと思いますよ?」

「そこで何で疑問形なんだよ」

「いやだって、私って外食の経験がほとんどないじゃないですか。フローラ様に何度か連れて行ってもらった事はあるんですが、支払いって自分でした事がないんですよ」

 仕方がないじゃない、実家にいた頃は近くにお食事処なんてなかったんだし、こっちに来てからは食事代は全て公爵家持ちだったのだから、支払いをしたという経験が全くないのだ。

「おいおい、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ、私ももう子供じゃないんですしもっと信じてください」

 ランベルトに任せておけばとちゃんとやってくれるでしょ、と心の中で付け加えておく。


「ちょっと心配だがこの中で一番裕福なのはアリスだからな。お金の面じゃ心配いらんだろ」

「そういう事です。高い酒を頼まれたって文句を言いませんよ」

 何と言っても今の私にはお金があるからね。

 流石にお店のお金は使えないが十分な資金も確保しているし、少々値が張るお酒でも問題ないだろう。流石に金貨100枚とか言われるとキツイが、そこまで高いお酒はないだろうし、私が予約しようとしているお店は顔なじみなので、ツケ払いでも対応してもらえるはずだ。

 あそこのお店のフォアグラ、美味しいのよねぇ。


「それじゃ父上達の対応はそんな感じで。アリスの店の方は黙っていれば分からないだろうし、たとえ名前を聞いたとしてもあのアインス兄のことだ、絶対に同一人物だとは思わないはずだ」

「そうだな、自分に都合が悪い事は絶対に信じないもんな。父上なら気にするかもしれないが、まぁ余りにも現実的じゃないから大丈夫だろう」

 うんうん、二人の兄が頷きながら納得する。

 って、今の私ってそんなに現実味がないような存在なの!? それってちょっとひどくない!?


「悪いのだけれど、私は今回パスさせてもらうわ。アインスの事もそうだけど、お父様に恨みがない訳じゃないの」

 事情が事情だったとはいえ、フィオーネ姉様がお父様を恨む気持ちは理解できてしまう。姉様も頭では理解できているが、今までの辛い思い出があるので今すぐには許せない、といったところではないだろうか。

「わかりました。お父様の方には少しはぐらかして伝えておきます」

「ごめんねアリス」

「いえ、お気持ちは凄くわかりますので」

 これでお父様達を迎える準備は問題ないだろう。

 たとえお店の方に偶然来られても私がいなければ問題ないし、スタッフ達にも事前に伝えておけば上手く対応してくれるはずだ。


 こうして私は生誕祭から始まる長い社交界シーズンを迎えるのだった。

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