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華都のローズマリー  作者: みるくてぃー
一章 その名はローズマリー
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第19話 ごく平凡なお茶会?

 ローズマリーのオープンから早3週間、スタートダッシュの如く忙しかった日々もようやく落ち着き始め、私はご報告を兼ねフィーとカナリアを連れてフローラ様の元へとやってきた。


「お久しぶりですフローラ様」

「お久しぶりアリスちゃん、いえ、もう立派なオーナーなんですもの、これからはアリスと呼ばせてもらうわね」

 最初に出会った時に14歳って誤魔化しちゃってたからね、これで私も一人前と認められたのだろう。

 フローラ様達にご挨拶を済ませメイドさんに勧められるまま、お茶が用意されているテーブルの席に着く


「レティシア様とルテア様もいらっしゃっていたのですね、それでしたら何かお菓子をお持ち出来ればよかったのですが」

 まずは同席されていたお二人に軽く社交辞令。

 前にご紹介したかもしれないがレティシア様はフローラ様のご親友の一人で、レガリア王国の四大公爵家の一角でもある、エンジニウム公爵家のご夫人。その娘でもあるルテア様は私と同じ歳で、ジーク様やユミナちゃんとは幼馴染に当たるのだという。


「ふふふ、気遣いは要らないわ、昨日もお屋敷で頂いたばかりなのよ」

「そうだったのですね、ご利用いただきありがとうございます」

 たぶんお持ち帰りの販売をご利用いただいたのだろう、事前にご予約いただいている分は把握しているが、直接買いに来て下さるのはご本人が来られるわけではないので、お店側では把握しきれないのだ。


「それにしても凄い人気だよね。私の友達でもう5回は通ってるっていう子もいるんだよ」

 ルテア様がフィーの飲み終えた空のピッチャーに、ハチミツを注ぎながら教えてくれる。

 ローズマリーはオープンしてまだ3週間、それでもう5回も通って頂いているのなら、ご令嬢の方々のお口にも十分通用したという事だろう。

 私はルテア様にお礼を言いながらふと思い出したことを口にする。


「そういえばフローラ様にお聞きしたいことがあったのですが」

「なにかしら?」

「先日お子様連れの見知らぬお客様がやってこられまして、個室もテーブル席もいっぱいで、お話を聞けばフローラ様のお知り合いだとおっしゃられたので、勝手ながら客間の方へご案内させていただいたのですが、問題ございませんでしたか?」

 当時の様子を思い出しながらフローラ様に説明する。


 あの時はたまたま学園から帰ってきたエリスを門のところまで迎えに行き、お屋敷の方へと入ろうとしたのだが、何とも辺りをキョロキョロとされているご婦人がおられたので、ついついお声がけをさせていただいたのよね。

 連れておられたお嬢様も随分小さかったようだし、何となく放っておけなくて話を伺えば、フローラ様のお名前が出て来たので客間の方へとご案内させていただいた。

 本来客間は商談の取引やフローラ様のようなお客様のために用意しており、利用が無いとき以外は基本的に空けている特別なお部屋。そこにフローラ様のお知り合いだと聞けばご案内するのは当然だろう。


「小さな子供連れ? 誰かしら?」

 フローラ様とレティシア様がお互いの顔を見合わせながら不思議がる。

「ご婦人のお名前がラナ様とおっしゃる方で……」

「ラナ?」

「はい。お嬢様のお名前がたしかチェリーティアちゃんだったかと」

 そこまで言って、フローラ様とレティシア様が同時にお声をあげられる。

「やっぱりお知り合いですか?」

「えぇ、よく知っているわ」

「この前のお茶会で私たちが散々アリスのお店を自慢しちゃったから、こっそり出掛けてしまったのね。それにしても名前を隠すならチェリーティアの名前も隠さないといけないでしょうに」

「ホント、あの子たまに抜けているのよね。ふふふ」

 ん? 名前を隠す?

 フローラ様とレティシア様から何とも意味深な言葉が聞こえてくる。


「もしかして高位の方でしたか? 十分に配慮したつもりだったのですが、エリスったら自分より年下のチェリーティアちゃんのことが可愛かったらしくて、ずっと一緒に遊んでいたんです」

 エリスにしたらちょっとしたお姉さん気分だったのではないだろうか。学園に通い始めてから友達も出来たようだし、年ごろの女の子としてはちょっと大人ぶりたい傾向が見え始める時。そんな時に自分より年下の女の子がいれば、ついつい構ってみたくなる気持ちも分からなくもない。

 かくいう私も、お店のオーナーという立場がなければ、今頃エリスと一緒にチェリーティアちゃんと遊んでいたかもしれない。

 ちなみにお嬢様のことをチェリーティアちゃんと呼んでいるのは、ラナ様のご希望だったと付け加えておく。


「あぁ、そうね。でも大丈夫よ。ラフィー……じゃなくて、ラナはそんな事を気にする子じゃないわ。寧ろエリスちゃんと遊べてチェリーティアも嬉しかったんじゃないかしら?」

「私もそうだと思うわ。もしアリスが迷惑ではなければ、これからも客間の方で対応してもらえないかしら?」

「それは勿論。お二人のお知り合いでしたら歓迎させていただきます」

 もとより客間はそういった方々に対応するために用意したので、こちら側としても別段問題はない。

 私は今度来られるときは入口でお名前を言って頂ければ対応致しますのでと、お二人に伝言をお願いした。


「そうそう忘れていたわ。前にアリスに頼まれていた人探しの件」

「あっ、もしかして見つかったのですか?」

「えぇ、二人のお兄さん方だけど、暮らされている家がわかったから後でローレンツに聞くといいわ」

 本当は実家に問い合わせて聞けば良かったのだが、異母兄がいる関係から中々聞き出しにくく、フローラ様に相談したところ仕事の内容がわかれば見つけるのは簡単だと言われたので、ありがたく王都にいる二人の異母兄探しの依頼をさせていただいた。


「アリスちゃんのお兄様って何のお仕事をされているの?」

 私とフローラ様の話を聞いていたルテア様が、茶請け話として尋ねてこられる。

「私も詳しくは知らないのですが、警備のお仕事をされているって聞いているんです」

 これでも一応騎士爵家の出身なので、文字の読み書きや簡単な計算は出来るし、幼少の頃から家の手伝いをしているから人並み以上の力もある。

 剣の腕はお世辞にも強いとは言えないが、木剣を振っていた姿も見ているので、簡単な警備ぐらいならこなせるのだろう。


「お兄様かぁ、アリスちゃんのお兄様ならきっと優しいだろうなぁ」

「優しいですよ。一人を除いてですが」

 ルテア様とレティシア様には私の事情を話しているので、ぶっちゃけトークをさせてもらう。

「確かアインスさんだったかしら? あれから実家とは連絡を取っているの?」

「いいえ、義姉様には一度王都に無事に着いたとお手紙を出しましたが、あまり頻繁に出すと異母兄に怪しまれてしまいますので」

 義姉様には事故に巻き込まれて公爵家でお世話になっているとは伝えたが、異母兄と父様にはその辺りを誤魔化して伝えてもらうようお願いしている。おそらく王都には無事に着いたが、根無し草な生活か娼婦の館にでも流れついたとでも思われているのだろう。


「でもそうなると大変ね。今じゃアリスは王都の人気者ですもの」

「大変? 何がです?」

 突然レティシア様から出てきた言葉に疑問が浮かぶ。

 ローズマリーの事は今や王都では人気なので、私の名前もそこそこ広まっているとは聞いている。

 もともとオープン前から数々のご婦人方にケーキの試作品の味見をして頂いていたのだから、私個人を知る人も多いし、そのご婦人方がさらに別の茶会で話を膨らませたのだから、アリスという名前を知る人も多い事だろう。

 いまじゃ私はアリス・ローズマリーと名前を改めているし、商業ギルドの方にもこの名前で登録してあるので、その気になれば誰だってローズマリーのオーナーが私だと調べられるのだ。


「一番上のお兄さんとはあまり仲が良くないんでしょ?」

「そうですけど、異母兄はそういった事には関心がありませんし、騎士爵領には商業ギルドなんてものもございませんので。第一王都にでも来ないとローズマリーって名前のお店がある事すら知らないと思いますよ?」

 いくらお店が有名になったとは言え、地元から出ない限り耳にする事はないだろう。仮に王都に来たとしても、話のネタやお土産に立ち寄る事はあるかもしれないが、誰かに話を聞かない限りそれが私のお店だとは気づかれないはず。


「アリスちゃんもしかして誕生祭の事を忘れてない? 年に一度お城でパーティーが開かれるんだけれど、爵位を持つ人は全員参加なんだよ」

「……」

 あ、あったわね。そういえばそんなものが……。


 誕生祭とはその名の通り国の誕生をお祝いする年に一度のお祭り。

 この日ばかりは国中の彼方此方でお祭り騒ぎとなり、爵位を授かる者は全員王都で行われるパーティーへの出席が義務付けられている。

 私はそういったパーティーには無縁だったが、お父様とアインス異母兄様が出席の為に、何度か王都へ出かけられていた事だけは覚えている。なんといってもあのうるさい異母兄が数日いない上、お父様が唯一王都でお土産を買って来てくださる日なのだから、その印象は私の中でも強く残っている。


「あ、あれっていつでしたっけ……?」

「来月だよ、もしかして忘れちゃってた?」

 来月……。たった三週間余りでローズマリーは有名になってしまったのだから、一ヶ月もあれば王都中には広まっているのではないか。

 お父様達もパーティーに出席されるのなら、店の名前ぐらいは耳にされるだろうし、義姉と孫息子にお土産を買って帰られるはずなので、最近王都で有名なお菓子と聞けばそれだけで立ち寄る可能性は否定できない。


「ど、どうしようルテア様」

「うん、ガンバ! アリスちゃん」

 一人不安になる私に対してなんとも薄情なルテア様。さらに追い討ちをかけるようにレティシア様とフローラ様は一言。

「因みに公爵家で開くパーティーには強制参加よ」

「私の家も招待状を出すから是非参加してね」

 と、とんでもない事を言ってくるのだった。


 私の平穏な生活はいったいどこへ行ったの!

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