騎士団長の脳内は乙女である
──さて、話は少し前に遡る。
腹ごなしに公園に行くことにしたアマリアとキグナスだが……
「……団長」
「なんだ、キグナス君」
「なんか……つけられてますね」
「ああ、うん……そうだな」
結構前から後ろのふたりに気付いていた。
アマリアとキグナスは優秀な騎士団員である。
超ハイスペックヤンデレ腹黒ショタもどきであるヨルナスは、超ハイスペックヤンデレだけにちょっとした密偵レベル。それにエルシィも、気配を消すのが上手い。
──だが……そりゃふたりになれば目立つ。
いくら華やかな服や、それを纏った憧れの相手との散歩に浮かれていようが、流石に気付かないわけがないのだった。
アマリアはつけてきているのがヨルナスだということを、実はキグナスよりも大分前に気付いていた。
だが、敢えて黙っていたのだ。
何故なら──
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ヨルナス:『アマリアさん!』
アマリア:『ヨルナス君? どうしてここに?』
(質問には答えず、キグナスを睨み付けるヨルナス)
キグナス:『騎士団長、この方は?』
アマリア:『ええと……キャッ?!』
(突然、ヨルナスがアマリアの腰を引き寄せる)
ヨルナス:『私は……彼女の婚約者ですが? 貴方こそ誰なんです?』
キグナス:『えっ! あっ、いや僕はただの部下ですよ!』
ヨルナス:『……えっ』
アマリア:『ヨルナス君……』
ヨルナス:『……あっ、ごめんなさい!』
(恥ずかしそうにアマリアから離れるヨルナス)
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……などという、『嫉妬をあらわに駆け付ける』というシチュエーションを仄かに期待していたのである。
ちなみに妄想の続きは以下。
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アマリア:『ふふ……嫉妬したのか?』
(バツの悪そうな顔をするヨルナス)
ヨルナス:『だって……アマリアさん、そんな可愛らしい恰好で』
アマリア:『ふっ、安心しろヨルナス君。 これは君とのデートの為に買ったうちのひとつさ』
(驚いた顔をしたあとで恥ずかしがるヨルナス)
ヨルナス:『嬉しい、です──じゃあ』
(照れながら手を差し出すヨルナス)
ヨルナス:『……今から誘っても?』
(唐突に公園で追いかけっこに興じるふたり)
ヨルナス:『あはははは♡ 待て~♡』
アマリア:『ふふふ♡』
(そして壁ドンならぬ、木ドン)
ヨルナス:『アマリアさん……』
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「…………ナンチャッテ──!!」
突如顔を隠して奇声をあげたアマリアに、キグナスは肩をビクリと震わす。
「どっどうしました?!」
「…………コホン、いや、なんでもない。 キグナス君、つけてきているのは私の……婚約者だ。 安心したまえ」
「え?」
そう……色々物騒なことを考えていたヨルナスだが、実は公園に向かう道中で既に恋敵は失恋していた。まあ、彼がフラれるのは時間の問題なので、どうということでもないのだが。
問題なのはある理由から、キグナスは純粋に失恋の痛みを感じることが出来ずにいたこと……
──そう、キグナスの視界に入っているのは普段から何かと可愛がっている、エル。
『アマリアの婚約者=エル』という誤解が彼の中で発生していたのである。
最初の出会いでキグナスがエルシィを助けた時のこと。
名前を聞いたキグナスに、彼女が『エルシィ』と答えた瞬間に彼は会話を被せてしまっており、『エル』だと勘違いしたのが『男の子だ』と勘違いした要因の一つだ。
色々と残念なキグナスだが、エルシィから向けられる『好意』は理解していた。
それは『もしかしたら自分に対する恋心なのでは?』と思っては、『いや勘違いだろう……』と打ち消すくらい。
女子の扱いが下手くそなキグナスだが、モテないわけではない。女心の機微には疎くても、好意に凄まじく鈍感なわけではなかった。
『いや勘違いだろう……』に続く言葉は勿論、『だって、男の子だし……』だ。
当然ながら男性が好きな男はいるし、女性が好きな女もいる。
キグナスはそれを殊更嫌悪したことはないが、まさか自分がその対象になるとは思ったことがなく、イメージができなかったのだ。
……まあ、そもそもエルシィは女の子なわけだが。
題名にそこはかとない既視感……(レイヴェンタールの騎士団長ってこんなんばっかりかな?)




