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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第32話 帝国の事情と竜の魔核

「えっと、わたし何を討伐させられようとしてるんですかねぇ……?」


 オーキィ、フィンとの再会の喜びも束の間、どうやらまたもや討伐に駆り出されるらしい。

 なんでこうなるの……?


 ギルド職員ドミニクさんは襟を正して咳払いひとつ。落ち着いた声で言葉を選ぶ。


「神政院より公的に情報の開示がされておりますので――」


「ちょ、ちょっと待って! ……神政院って何だっけ?」


 ああ、こんなときノクが居れば解説してくれるのになぁ。

 代わりに隣のアクセルが前髪をかきあげ、いかにも「説明は任せろ」と言わんばかりに口を開いた。


「ティエナは帝国のことに不慣れだな? 仕方ない、俺が教えてやろう」


 出たよ、講釈モード。

 ……でも正直ありがたい。


 ノアランデ王国の西方に広がる大国、アクレディア帝国。

 清き水を信仰の中心とし、豊かな河川と湖に恵まれた王制国家だ。

 頂点に立つのは皇帝ヴァルセリオ・アクレディア。齢八十を超える高齢にありながら、その姿には老いの影を感じさせない。鋭い眼光と圧する気迫は帝都の隅々にまで届き、民衆からは畏怖と共に語られる。彼は慈悲よりも秩序を重んじ、冷徹な裁断によって今なお帝国を絶対的に治めていた。

 そして民衆の祈りを束ねるのが『神政院』――表向きは祭祀を司る宗教機関だが、実際には政治にも強い影響を持つ。


「で、その神政院を統べるのが『院主セレノス』。老獪にして賢明、皇帝ですら一目置く人物だ。そして儀式を束ねる『大導師』がネリオ・アストリア。彼は水の神官であり、かつてリヴァード殿とも旅を共にした治癒術師(ヒーラー)でもある」


 えっ、じいちゃんの仲間だった人が『大導師』!?

 王宮魔術師とか騎士団長とか大導師とか、そんな人ばかりと旅してたの……?

 ……いや、冒険の結果、みんな偉くなったのか。実績ってすごいねぇ!


 アクセルはわざとらしく白い歯を光らせて続けた。


「ネリオは英雄でもあり、人望も厚く、帝国民から慕われているからね。だからこそ神政院の顔として表に立ち、セレノス院主の意向を実務へと反映している、というわけだな」


 なるほど……。その神政院が情報を発信したということは、すなわち帝国の公式な言葉として受け止めていいんだね。

 わたしは納得したとばかりにドミニクさんへ顔を向け、軽く頭を下げた。


「では、その神政院の情報開示の続き、お願いします」


「はい。神政院は竜信仰――『エンドレイク教団』が各地で魔物を放っている、という情報を公開いたしました。

 さらに彼らの願いは世界の破滅であり、危険思想を掲げる集団であることを周知し、各地の冒険者たちに協力を仰ぐ……という方針になっております。

 エンドレイク教団がどこで研究を進めていたのかは不明ですが、魔核から魔物を産み出す技術を有しているのは確定のようで、その魔物に対処できる冒険者を募っている次第です」


 フィンが両手を広げてかぶりを振ると、「それでわざわざエルデンバルにまで使者を寄こして、オレを呼びつけたってわけだ」と軽口をたたいた。

 わたしの耳元に顔を近づけたオーキィが、くすりと笑いながら囁く。


「断ればいいのに、結局ここまで来ちゃうあたり……ほんとお人好しだよね」


 そういうところも変わってなくて、ちょっと安心しちゃう。


「でも、どうしてフィンなの? ダンジョン管理局の人とかで良いじゃん?」


「ダンジョン管理局はノアランデ王国の機関だからな。今回はあくまでアクレディア帝国と関係のない、『ルーミナの冒険者ギルドからエルデンバルの冒険者ギルド』への要請なんだ。形式上は民間同士のやり取りってわけだ」


 そこで白羽の矢が立ったのが、エルデンバルで五十階層まで到達した実績を持ち、なおかつダンジョン初心者のために講習や指南を続けてきたフィン――ということらしい。

 理解しようと真剣に聞いていたわたしの肩を、後ろからオーキィが軽く叩いた。


「そういえばティエナちゃんが倒した最奥のドラゴン覚えてる? あれの魔核をギルドに預けてたけど、鑑定結果はミスリルだって。魔力伝導率の高い、すごく希少な鉱石らしいよ」


「へぇー、そうだったんだ? 何かに使えるといいね! ってあれ?」


 ……あれ? そういえば、わたしも今、持ってるんじゃない?

 腰の収納袋を探り、魔核をふたつ取り出す。

 一つは雷放狼が落とした黄色い雷の魔晶。そしてもう一つは、紫煙竜を倒した時に拾った紫色に鈍く脈打つ魔核だ。


 周囲の職員や仲間たちの視線が一斉に魔核へと注がれる。思わず空気が静まり返る。

 その様子を見て、フィンがドミニクさんに振り返り、にやりと口角を上げて言った。


「俺たちに言われるまでもなく、ティエナはもう討伐はじめてるってよ」


「……なんということだ」ドミニクさんは声を失い、額に汗を浮かべていた。


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