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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第5話 『蒼き剣と七つの遺跡』

 その後シルマークさんは昔の冒険をいろいろ話してくれた。

 冒険者としての全盛期はもう30年以上も前になるらしい。


 今は亡き西南部にあった国が亡者に支配された事件や、大陸の各所で発生した暴走する大精霊の鎮圧、海を荒れ狂わせ次々と交易船を沈める巨大な海蛇の討伐など、

 もちろんその冒険にはじいちゃん――リヴァードも随伴しており、痕跡からの追跡や遠距離からの狙撃などで大活躍だったそうだ。


「詳しくは、この本を読むと良いぞ」

 と冒険譚の本を渡してくれた。タイトルは『蒼き剣と七つの遺跡』……書籍化されてるの、ちょっとすごくない?


「この本は多々誇張されてるから鵜呑みにせんようにな。特に著者」


 本の背表紙を指さす。そこには「著者:エリオット」と書かれていた。


「この本は同行していた吟遊詩人が書き記したことになっておるが、こいつはシーフじゃ。昔はさんざん悪事にも手を染めておったのにまあ綺麗な姿に装飾されてることと言ったらこの上ない……」

 その後もひたすら筆者をこき下ろしたあと


「まあ……どれだけ着飾ったとして、晩年は昔の悪事が仇になって逝ってしもたがの」


 ちょっと遠い目をする。 


「大まかな事件内容などはあっとるから軽く参考にする程度でな」

と言って本をテーブルの上に置く。


「後で読んでみよう」

 ノクが興味津々のようだ。わたしもじいちゃんの活躍読みたいから取り合いになるかもしれない。


「さて……軍会議も終わったころかのう。儂の優秀な部下がきっと上手くやってくれてると思うが、愚痴ぐらいは聞きに行ってやるかな」

 ほっほっほと笑いながら席を立ちあがる。


 なんか重要なお仕事サボってきた感がすごいよねぇ。これわたしが怒られたりしないよね?


「では、またな。働き先に困ったらいつでもきなさい」

 そうしてとんでもなく曲者のおじいちゃんは楽し気に去っていった。

 

 あぁ、なんだか……嵐が通り過ぎたあとみたいな疲労感だなぁ。



 ちょっとお昼寝をしてから、ノクと一緒にシルマークさんの話を整理する。


 ひとつはノクの原点とも言える「竜の石像の入手場所」。ここの洞窟に発生していたマナを石像に封じ込めて、じいちゃんが清めた。ということだけど、だからといって生物になったりするのかな? わからないけど、だからこそやっぱり見てみたいと思う。


 もうひとつは、わたしの出生地。

 川を上流にたどると帝国領に入り、その先の山岳地帯に村がひとつあるだけ。なら、わたしの肉親がそこにいる可能性もあるのかも。

 でも……肉親って言われても、正直ピンと来ないなぁ。わたしにとっての家族は、ノクとじいちゃんだから。

 そこに行けば、わたしが神の記憶を持っている理由がわかるのかな? うーん、やっぱりそれも、行ってみなきゃわからない。


 結局わからないことばかり。でも、そこに行って何もなかったら、次を探せばいい。それだけのことだよね。


 あとは、じいちゃんの冒険譚『蒼き剣と七つの遺跡』! これはベッドでノクと並んで一緒に読むようにした。ノクがページをつぎつぎめくろうとするんだよね。まだわたし読んでるってば。


 残念ながら主人公はじいちゃんとは違う人みたい。剣に氷をまとわせて戦う「氷騎士シルヴィオ・グレイスノウ」と呼ばれる人が中心となり、皆をまとめてるようだ。

 銀髪を後頭部で束ねたイケメンですって? うふふふ。ファンになっちゃいそ~。


「シルマークさんは誇張表現入ってるって言ってたけど」


「どこが誇張かまでは聞いてないじゃん! イケメンは本当かもしれないでしょ。あ~一度見てみたいなぁ」


「……これ30年以上前の冒険だからね? 今いたらお爺ちゃんだよ?」


「あーもー、ノクは夢がないなぁ! 本の中でぐらい何思ってもいいでしょ!」


 じいちゃんの活躍を確認するはずだったのに、なんだか違うところで盛り上がっちゃう。


 パーティは他に、若き天才「万能の魔術師シルマーク・アーリン」、寡黙で精密な「音なき狩人リヴァード」、温厚で理知的な癒し手「水神官ネリオ・アストリア」、そして手先が器用で煌びやかな「吟遊詩人エリオット」――という構成になっているらしい。

 ……なんだか、じいちゃんだけじゃなくて、みんな凄そうな人たちだなぁ。

 じいちゃんの紹介文は、なんかちょっと盛って……ないかな。寡黙で精密で……うん、たしかにそう。

 森の中でも足音ひとつ立てないから、逆にちょっと怖いんだよね、じいちゃん。


「ティエナも狩人の目をしてるときは大概だけどね」


 そりゃあ、じいちゃんに厳しく育てられましたから! 


 じいちゃんは昔の話をほとんどしてくれなかったから、この本の中の冒険はとても新鮮だった。知らないじいちゃんの姿。わたしたちは夢中になってその活躍を読み続ける。いつしか夜も更けて――



「おはよう、ティエナ。やっと起きた? もうお昼だよ」


 ノクの声がなんだか遠くからうっすらと聞こえる気がする。


「あぁん、もう、まだ眠いよぉ」


 お昼? ちらっと目線を動かして窓から空を見る。この角度で太陽が見えるということは、太陽が真上じゃないし……うん、まだ朝ってことでセーフ!

 ……はぁ。とにかく全然起きれなかった。夜更かししちゃったからね。仕方ないね。

 ぼさぼさの髪に手櫛を入れながら身体を起こす。……とりあえず顔洗おう。


 何も入っていない桶を引っ張り、その上で《清流の手》を行使して手のひらに水を召喚して顔をそそぐ。あー気持ちいい。目が覚める~。

 あとはエルデンバルで手に入れた、いま流行りの洗顔ムース。都会は、こういうのが気軽に買えるから嬉しいよねぇ~。もこもこの泡を手のひらに取り出して顔にあてる。これで肌もすっきり。最後に潤いを保つ魔法がかかった水を塗って……完璧! エルデンバル最高!

 寝ぐせもこれで、よしっ。手鏡でチェック。大丈夫だね? これで朝の準備よしっと。

 今度、風の魔法を吹きだす髪の毛乾燥に特化した魔導具でも買ってこようかなぁ~なんてことを考えながら、ちらっと窓を見る。まだお昼になってない? セーフって言っていい?


「そういえばティエナが寝てる間にイグネアから手紙届いてたよ」


「え!? それなら起こしてよ! すぐに見たかったじゃん!」


 パーティ解散をした後、イグネアは実家に戻ると言っていた。

 今までは極力家に帰らずに冒険をしていたらしいけど、ダンジョン深層の報告を兼ねて「力を付ける為に利用できるものを全て利用してまいります」と息巻いていた。

 あれから初めての手紙だ。ドキドキしながら開封する。



 ごきげんよう、ティエナ。お元気でお過ごしかしら?


 わたくしは一度スタトへ立ち寄り、ドルグさんにダンジョン探索の顛末を報告した後、フレアローズ家の屋敷へ戻ってまいりました。以前お伝えしていた通り、兄たちの力を借りるための帰参ですけれど──


 ユリウス兄様にご挨拶した第一声が、なんと「なぜ水の少女を連れてこなかったのだ」でしたの。情報の出どころはまるで謎ですが……もしティエナを同行させていたら、きっと飽きるまで質問と実験の嵐だったことでしょう。ご招待はいつか必ずと思っていますが、万全の対策を練ってからでないと危険ですわね?


 しかも、わたくしが報告しようとする内容も、すでにかなりご存じのご様子で──やはり、あの方に交渉で勝つのは骨が折れますわ。


 けれど、今回は炎の魔晶を持ち帰っておりますので、これを材料にして、より強力な魔導具の製作を依頼いたしましたの。完成しましたら、ぜひティエナにもお披露目いたしますわね?


 それとは別に、炎の魔術の鍛錬も始めました。指導はカイネス兄様にお願いしておりますの。「魔法はイメージ力が大切だから、習うより慣れろだな」なんて仰って、今はすでに旅支度を整えておられます。どこへ向かわれるのかは──秘密だそうです。


 ですから、あなたの隣に立てるその日までは、もう少し時間がかかるかもしれません。でも、どうか待っていてくださいね。また一緒に、あの「白霧レモネード」のカフェでお茶いたしましょう。


 心を込めて──

 イグネアより

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