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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第一章 ◇◇
27/161

番外編6 オーキィ先生の初等魔法講座

※本エピソードは番外編ですが、世界の魔法の“しくみ”がよくわかる一回!

魔法ってどうやって使うの?詠唱って何?というあなたへ。

今こそ、オーキィ先生の魔法講座でおさらいしましょう!


オーキィ先生のやさしい講義で、

魔法の“詠唱”と“発動”の関係がちょっとわかってくる…かも?



「それでは、始めましょうか。『魔法とは何か』――今日はそこからね」


調子よく指をたてるチョークを持ちながら、オーキィがほほえんだ。

めずらしくも真面目な雰囲気に、ティエナはおそるおそる様子を見守っている。


「魔法ってね、マナという力を、ある“形”に変えて放つための仕組みなの。

でも、ただ力を出すだけじゃ、魔法にはならないの。」


「“こうなってほしい”っていうイメージを、どうやって実現するか。

その経路を設計するのが――“詠唱”ってわけ。」


オーキィはそう言ってから、そっと腰のホルダーから短杖を引き抜き、教室裏の的に向かって構えを取った。

短杖の先から空気がわずかにゆらめき、オーキィが簡単な詠唱を口にすると、そこにそろそろと水が現れる。

ティエナがごくりとつつみを呑んだ。


「たとえば――あの的に水を飛ばしたいとしましょうか。

その場で生まれた水を、ただ雑に投げても、形は崩れちゃうし、空気に流されて……結局、ぺしゃって当たるだけで終わっちゃうのよね。」


オーキィが短杖の先でやわらかく示した光の先、水は再び簡単な詠唱とともに放たれ、少しのはずみをしながら的にぺしゃっとくっついた。

強さはない。でも水はたしかに「明確な意志とイメージ」に従って動いた。


「生み出して、動かす。たったそれだけでも、ちゃんと魔法なの。

マナをどう扱って、どう計算して、どんな形にするかを考える。

それこそが――魔法の本質ってわけ。」


そしてチョークの光をきらりとさせながら、オーキィがやさしく動いた。


「さて……じゃあ次はティエナさん、やってみましょうか。

ただし、今のは『詠唱を使って』出す『水』ね?」


「ふぇっ」


どたん。


動きまでは美しく正常だったのに、何かが打ち引かれたように、ティエナの頭からすべてが抜け落ちた。


「……え、ええっと、みずよわいのでろって……ぷすぷす……」


つまり、ティエナには『魔法の場合、詠唱を用いて』『水を出す』ことの方が、よほど難しいらしい。



「……ふふ。じゃあ、少し話題を変えましょうか」


ティエナがまだ呆けているのを見て、オーキィは軽く笑って黒板に向き直ると、新たにチョークを走らせる。


「魔法って、人によって得意な属性が違うの。マナの“性質”が人ごとに違っているからね」


黒板に六つの円が描かれる。

それぞれに記された文字――水、火、風、土、光、闇。


「この世界には、大きく分けて六つの属性があるの。

水は命と流れ、火は力と勝利、風は知識と記録、土は不動と契約、光は祝福と正義、闇は終焉と安らぎ」


「それぞれに象徴があって、信仰も地域によって少しずつ違うのよ。

このノアランデ王国ではどの神さまも広く祀られてるけど、王都周辺では火の神さまの信仰が多くて、西のスタト以西では水の神さまへの信仰が根強いの」


「たとえば――火属性は攻撃的なイメージがしやすいから、ファイアボールみたいな魔法はすごく詠唱しやすいの。

でも水属性で“貫通するように飛ばす”ってなると、すごく構文が複雑になっちゃう」


オーキィは小さくうなずく。


「私も水属性だからよくわかるの。水って素直で自由だけど、逆に扱うのがすごく難しいのよ」


ティエナはこくこくとうなずきながら、(……たぶん、そうなんだろうなぁ)とどこか他人事のように思っていた。



「さて、次は……“使えるマナの質”と“術者としての資質”の話をしてみましょうか」


そう言ってオーキィは、短杖で軽く床をコツンと突いた。


「普通、魔法って“自分の中にあるマナ”を使って発動するの。だから、体の中にどれだけマナがあるかがすごく重要なのよ」


「でもね、この世界には、空気の中――つまり“外”にもマナは存在しているの」


ティエナは目を細め、空気に漂う気配を自然と感じ取っていた。

それが“マナ”であることを、彼女は特別な知識としてではなく、どこか当然のように受け入れていた。


「ただし、この“外部のマナ”を使える人は、本当に一握り。国に一人か二人、いるかいないかってくらい」


「そういう人は、術式の中に外のマナをうまく取り込むことができるの。

だから、もともと持っている属性とは違うマナも扱えたり、複合属性の魔法を発動できたりするのよ」


「でも当然、術式の構築難度はぐんと上がるし、何より“外部マナを知覚する”っていう資質そのものが、とてつもなく希少」


ティエナは、少しだけ目を伏せる。



「それから……体内のマナについて、もう少しだけ補足しておくね」


短杖をゆるく両手で支えながら、オーキィは静かに言葉を継いだ。


「体内のマナってね、使い切ってもすぐには枯渇しないの。完全に空っぽになったとしても――少しずつ、呼吸をするみたいに取り込まれていくの」


「もちろん、全員が同じってわけじゃなくて……人によって、マナの回復の早さや、そもそも貯めておける量、取り出す道筋の太さも違うのよ」


黒板に三つの図が描かれる。水袋、管、そして矢印。


「簡単に言えば――“どれだけ貯められて”“どれだけ太い経路で”“どれだけ早く戻るか”。

この三つが、魔法を支える基盤になるの」


「でもね、それだけじゃまだ足りないの。

魔法の具体的なイメージをどれだけ正確に描けるか、術式の構文をどれだけ理解できるか。

そして、それを縮めたり、言葉を飛ばしたりできる“計算力”も問われる」


「無詠唱ってよく言うけど……あれは“複雑な式を暗算で一瞬で解く”ようなもので、誰にでもできるわけじゃない。

才能と、ものすごい思考力が必要なの」


ティエナは、その説明にただ静かにうなずいた。

オーキィの言うことは、どれも――自分にとっては、ずっと昔から“できていた”こと。

けれど、それを“できない人の目線で見る”ことは、まだ少し難しかった。



「次は――補助道具についてのお話ね」


オーキィは短杖を手にしたまま、軽くそれを持ち上げて見せた。


「魔法の詠唱って、術者の頭の中で構文を組み立てていく作業だって話をしたわよね?

でも、この作業ってすごく集中力がいるし、複雑な魔法になればなるほど負担も大きくなるの」


「そこで使われるのが――こういった“詠唱補助道具”。杖や指輪、腕輪、いろんな形があるけど、基本は同じ。

術式の一部を道具に“あらかじめ刻んでおく”ことで、頭の中の計算を減らせるのよ」


オーキィは黒板に杖の絵を描き、その中に刻印のような線を引いた。


「この短杖にも、水属性の基本式が一部入ってるから、初級魔法なら半分くらいは杖が手伝ってくれる。

もちろん、使いこなすには練習が必要だけど……慣れてくると、自分の“癖”みたいに感じてくるわ」


ティエナは短杖を見つめ、こくんとうなずく。

(あんまり使ったことないなぁ……でも、たしかに便利そう)


「それと、こういう補助道具には“特化型”もあるの。

たとえば“この魔法しか出せないけど、短い詠唱で発動できる”っていう指輪とか。

便利だけど、応用は効かないし、戦闘スタイルを固定されちゃうわね」


「ちなみに私――普段はこの短杖を使ってるけど、ダンジョンじゃ鉄メイスを使ってるのよ」


オーキィはにっこり笑う。


(あれも詠唱補助道具なんだ……)


ティエナは思わず笑いそうになって、ぐっとこらえた。

オーキィ先生が笑顔で言うと、あまりにも説得力があるから不思議だ。


「それから、詠唱とは関係ないけど……日常用の魔道具もあるのよ。 たとえば、魔力電池を使った“魔導調理具”とか“魔導水筒”とか。 便利だけど、かなり高いし、魔力電池のチャージには専門の魔術師が必要。 素人がいじると危ないから、そこは注意ね」


ティエナは思わずうなずきながら、(魔法の世界って、生活にもいっぱい関わってるんだ……)と静かに感心していた。



「そうそう、信仰といえば――魔法と神さまって、どんな関係があると思う?」


オーキィがふと思い出したように問いかける。


「……魔法って、神さまから授かってるものってわけじゃないんだけど。

それでも、属性ごとに“守護する存在”っていうのは昔から語られているの」


オーキィは黒板に、六つの属性の円のまわりに、それぞれの象徴の絵を描き足していく。


「たとえば、水の神さまは“ティエル=ナイア”。たゆたう水と命を司るとされている。

火の神“フォルザ=リア”は、炎と勝利の象徴。

風は“セラル=ディア”。知識と記録、ささやくそよ風のイメージね。

土は“ヴァズ=オルグ”。揺るぎなき大地と、不破の誓いを結ぶ神。

光は“リュミナ=シエ”。祝福と正義、そして約束されし祝福。

最後に闇の神“ノワ=ルーミナ”――これは静寂と終焉、静かな安らぎの象徴よ」


「もちろん、これらの神々の力を直接借りて魔法が使えるわけじゃない。

でも、信仰って心の拠りどころになるから、魔法にもその“想い”が影響することはあると思ってる」


ティエナはその名前を聞いて、黒板をじっと見つめた。

(ティエル=ナイア……私の、名前……?)

どこか懐かしく、胸の奥に響く音がした気がした。


「……まぁ、実際のところ、“神さまの恩恵”があったなんて話、聞いたことないんだけどね」 と、オーキィがぽつりと肩をすくめて言う。


「えっ……オーキィって信仰深いって聞いてたのに……そんなバッサリ!?」

ティエナが思わず声を上げると、オーキィは手を口に添えて、


「おほほほ……まぁ、信じる気持ちは大事ってことで」


そのまま短杖を手に取り、オーキィはこつんと地面を叩いた。


「……さて、実技編はこれからね。

ティエナさんの発想にちょっと興味あるし。」


ティエナはびしっと背筋を伸ばした。

小一時間程度の座学を終え、いよいよ、本当の魔法練習が始まるらしい。

このあと、五時間みっちりと搾られることになるとも知らずに。


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