表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
125/161

第65話 静寂に潜んだ凍てつく真実

 そして、片道一週間の道のり。

 一日の半分はシルヴィオさんの背中に捕まり、馬の背に揺られて過ごす。夜には馬を休ませ、焚き火を囲んだ。

 春が近づいているとはいえ、夜はまだまだ冷え込む。

 シルヴィオさんの前だと権能も使えないので、収納袋の中に入っている物でやりくりしないといけない。暖かな布団も、美味しい串焼きも、甘〜いドーナツも。ぜんぶ、権能で閉じ込めた小瓶の中だ……あーあ。


 そんなわけで、収納袋の中には食料もあるけど、できるだけ節約したい。だから道中は獲物を狩りながら進むことにした。

 コレンシカを見つけられたら良かったんだけど、居ないものは仕方ない。

 岩をひっくり返したり、木の幹の隙間を覗いて冬眠中の蛇を探したり。小型の鳥系魔物を仕留めて、食料にしながらの行軍となった。

 下処理が手間なだけで、どれも美味しいから良いんだけどね。まあ、たまには狩人らしいこともしておこうじゃないか。


「そろそろ着くんだよね? 旅の目的はまだ話してくれないの?」

 爆ぜる音が夜空に染み込む。ゆらめく炎がシルヴィオさんの顔を赤く照らしていた。

 太陽の下では青白く輝く鎧も、この時ばかりはほんのりと温もりを帯び、身体を包んでいるように見えた。

 集めて来た木の破片や枝を、シルヴィオさんが焚き火の中にくべる。

 そうそう。一緒に旅をしていて気づいたんだけど、シルヴィオさんって、拾ってきた枝とかを焚き火にくべる時、一度マナを通してるんだよね。

 何をしているのかと思ったんだけど、木の中に残る水分を抜いているみたいで、そのおかげでよく燃えるようになるらしい。

 そういえば、じいちゃんも同じようなことをしてた気がするんだよねぇ。当時はじいちゃんが水の魔法を使えることすら知らなかったから、あの時はあまり気にしてなかった。

 ……だからじいちゃんの焚き火はよく燃えたのか――今になってようやく合点がいった。

 水の魔法を使う人ならではの、生活の知恵って感じだよね。



 そして夜が明け、少し進んで――。

 わたしたちは、石柱が立ち並ぶ遺跡の中にいた。


 ここが……シルヴィオさんが連れて来たかった場所なのかな。


 遺跡に一歩踏み入れると、周りよりも一段と寒くなった気がした。いや、実際に寒いのかも。

 平原には雪の欠片も無かったが、石柱には雪が積もったままになっている。足元に広がる石畳も、心なしか凍っているように感じた。

 その間を、シルヴィオさんが迷いなく進んでいく。通いなれた道とでもいうのだろうか。

 わたしは置いて行かれないように、後を追う。


 しばらく進むと、倒壊した石柱群に埋もれるように、地下へと続く階段が現れた。

 シルヴィオさんが手早くランタンに火を灯す。ほんのりとした温かい光が、あたりをやさしく撫でた。そして地下へと足を踏み入れていく――。


 地上よりもさらに冷え込む地下通路に、思わず身体を震わせる。じいちゃん譲りのコートを着ていても、足元から冷気が這いあがってくるようだった。

 遺跡の地下では分岐路がたびたび現れたが、シルヴィオさんは迷うことなく道を選び進んでいく。

 やがて道が行き止まると、シルヴィオさんはその壁にある古びた、重そうな石の扉に力を込め、ゆっくりと開いていった。

 がりがりがり――扉と床が擦れあう音がする。

 開いたその先は、小さな部屋になっており、壁には人が入れそうなほど大きな瓶がいくつも並び、部屋の中央には朽ちかけた木の机が置かれていた。

 シルヴィオさんが手でそっと机の上を撫でる。白い埃が空気中を舞い、ランタンの光を受けて(きら)めくと、やがて石畳に溶けていった。


「ここは……?」

 この期に及んで説明しないとかないだろうね?

 静粛(せいしゅく)な空気に包まれた部屋の中、シルヴィオさんの呼吸の音が、まるで耳元で鳴っているかのようにハッキリと聞こえる。普段表情を見せない彼の瞳にランタンの淡い光が映ると、やがて言葉を選ぶように、ぽつぽつと語り出した。


「ここは、俺の……生まれたところだ」


 は? いやいや、嘘でしょ? こんなところで?

 わたしは疑わしげな目線で、ぐるりと周囲を見渡す。

 崩れ落ちた本棚。壁に並んだ大きな瓶も大半がひび割れ、砕け散っており、足元にはガラスの欠片が散らばっている。煤が広がったままの(かまど)や奥にはベッドと思われる木の残骸もあった。

 ——確かに誰かが住んでいたのかもしれないけど……あきらかに数百年経過とかいうレベルの廃墟だ。

 まさか、本当にここで生まれ育ったとでも言うの?


「この話は誰にもしていない。それこそリヴァードにも」


 シルヴィオさんが背を向けて一歩一歩踏みしめるように歩き出す。足元のガラスがシャリシャリと砕ける音がする。そして壁際の巨大ガラス瓶にそっと触れた。


「誰にも言うつもりはなかった。……だが、今からお前に真実を話す上で、伝えておかねばならんと思った」


 そしてわたしへ振り返る。


「俺は――魔法生物(ホムンクルス)だ」


 わたしは頭を殴られたような感覚がした。軋むように絞り出された低い声が、耳から脳の奥に響く。

 わたしが言葉を失っているうちに、シルヴィオさんが再び口を開く。


「そしてお前は、神――ティエル=ナイアだな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ