表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
111/161

第51話 奔流の一閃

 わたしはすぐ後ろに控える帝国兵たちの盾に、《澄流の膜》で水の保護を与える。


「これで少しぐらいなら火球に耐えられると思う! でも油断しないで!」


 そう告げると、手前のサラマンダーをサイドステップでかわし、奥の群れへと駆け出す。


 手を掲げ、水を腕に(まと)って《氷撃の槍》を成型し、遠くのサラマンダーたちへ続けざまに四本射ち放った。三体は氷の中に閉じ込められたが、一体は口から吐いた火球で《氷撃の槍》を相殺してみせる。


 間近の一体が爪を振り下ろしてくるが、それも横に回避。すぐさま首の横へ滑り込み、首筋のエラめがけてナイフを突き立てる。首元から吹き出した熱波がわたしの頬をなでた。


 サラマンダーは甲高い断末魔を上げ、光の粒子となって崩れ落ちる。だが、わたしの足はもう次の個体へと向かっている。


 後方からは冒険者たちの咆哮と剣戟の音が響いてくる。ちらりと視線をやると、サラマンダー一体に対して一つのパーティがあたっており、戦況は押し切れる見込みだった。


 飛んでくる火球を《清流の手》で呼び出した水に呑み込ませて消し飛ばす。そして、手近な一体の下へ滑り込み、ナイフで喉を引き裂いた。


 兵たちが防衛していたラインより、さらに前方へ進むことができた。奥から新たなサラマンダーの影が見えるが、まだ距離がある。こちらに到達するまで、わずかな余裕があるはずだ。

 ──だったら。


「一掃しちゃおうか!」


 詠唱は必要ないけれど後方の視線を気遣い、せめて詠唱のフリだけでもしておこう。


「水よ──理を鎮め、流れを束ね、命を守る()となれ。いまこそ(はし)りて、すべてを清めよ──!」


 わたしの身体のまわりから水が渦を巻き、空へと昇る。詠唱に呼応するように空中へ大量の水が集い、龍のごとくうねりを描く。


「《天涙奔流》!!!」


 両手を突き出すと、圧倒的な水流がサラマンダーへと襲いかかる。火球の迎撃など全く意味をなさない。

 奔流はサラマンダーたちを容赦なく呑み込み、群れごと押し流し――戦場を一瞬にして水で塗り替えた。


 視界の端々で粒子化する光が瞬いた。

 奔流が跡形もなく消え去ったとき、そこにサラマンダーの姿はもうなかった。


 わたしが両手のひらを払って前方の安全を確認していると、後方からワッと歓声があがる。

「いいぞ! よくやった!」「すげえ! 全部倒したぞ!」

 冒険者たちはすでにサラマンダーを討ち終えたようで、わたしに手を振ったり拍手を送ったり、仲間と肩を抱き合って喜んだりと、思い思いに無事を分かち合っていた。


 えへへ、どうもどうも。

 もてはやされるのはちょっと照れるけど——みんな無事でよかった。

 わたしも、みんなのところに戻って兵士たちの無事を祝おう。


 駆け寄った先で、片手を掲げて待っているアクセル。わたしはその手に自分の手をパチンと合わせた。

「いえーい!」

「流石だなティエナ! 見事な水魔法攻撃だった」

「伝説の冒険者リヴァード仕込み(・・・・・・・・)の必殺魔法は伊達じゃねぇな」


 フィンがわざとらしく大きな声でじいちゃんの名前を出す。

 フィンは、わたしが元神だってことをまだ知らない……ハズ。

 わたしが「力の源泉を話せないし知られたくない」とエルデンバルでフィンと話したこと、もう随分前の事なのにちゃんと覚えてくれていたようだった。

 能力バレを避けるために、一芝居打ってくれているのだろう。

 わたしが手を合わせてお辞儀すると、フィンは軽く笑って一度だけ頷いた。

 ……持つべきものは友達だ。ありがたい。


 すると周囲の冒険者たちが口々に噂を広げていく。

「リヴァードと言えば弓だろ? 水魔法もすごかったのか?」

「お前もぐりだねぇ? リヴァードは帝国の由緒正しい水神官の血筋らしいぜ」

「なるほどねぇ。秘伝の水魔法ってわけか」


 勝手に話が膨らんでくれるのは助かるなぁ。こうしてると、今でもじいちゃんに守られてる気がするよ。……ありがと、じいちゃん。

 その後、わたしは冒険者や兵士たちに囲まれ、じいちゃんの武勇や修行の話をしつこく聞かれてしまった。答えられる範囲で笑ってごまかした。

 ……内心ひやひやだったけど、狩人修行の厳しさの話は本当だしね。大丈夫、大丈夫――と自分に言い聞かせる。


* 


 五日目の行軍を終えて野営していると、後発の魔術師たちが追い付いてきた。

 ひときわ背の高いオーキィの姿は、遠くの隊列の中でもすぐに目に留まった。

 わたしが手を振ると、オーキィもこちらに気付いたようで振り返してくれる。


 こうして、先行部隊約三十名と防衛にあたっていた兵士十余名、さらに後発隊十余名が合流し、総勢六十名近くの大所帯となった。

 竜のもとへたどり着くまで、あと二日。大きな戦いを前に、騒がしい夜が更けていく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ