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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第48話 異常の報せ

 ルーミナのギルド内は、既に喧騒に包まれていた。

 青い制服に身を包んだ職員と帝国の紋章を刻んだ鎧に身を包んだ兵士が掲示板前に立ち、冒険者たちに向かって声を張り上げている。


「クリスタ湖より魔物が押し寄せる可能性があります! Dランク以上の冒険者は防衛にご協力ください! Eランク以下の方は物資の搬送依頼を受けていただけると助かります——」


 集まっている冒険者をざっと見てみたけど、フィンの姿はなかった。

 マルチェロさんやドミニクさんと奥の部屋で話合ってるのかもしれない。

 わたしがきょろきょろ見渡していると、後ろからウィンディの怒声が聞こえた。


「ちょっと! グロウ、まだ飲んでるの!? 状況わかってる!?」

 併設された酒場のカウンターで、グロウがジョッキを片手にふらふらと後ろを振り返る。

 あれは……泥酔してそうだねぇ。


「まだもらいの、のみはじめたばっかだよ……」

 ろれつが回っていない。ウィンディが呆れた顔で額を抑える。

「朝から飲んでるんでしょう? もう夕方になるよ!?」

「れんれん、らいしょーふ……ぐがー」

「おいっ、寝るな! 起きろ!」


 グロウの肩に手をかけたウィンディに、ニッコリ笑ったオーキィが近づく。

「ちょっと、私に任せてもらってもいい?」

 何をするのか理解できなかったが、ウィンディは一歩後ろにさがってオーキィに場所を譲る。


 オーキィは小さな杖(スティック)を取り出すと、詠唱に入る。

「彼の者の身体を蝕みし毒素を払え——『解毒(キュア)』!」


 グロウの身体が一瞬淡く青い光に包まれる。そしてカウンターに頭をつっぷしていたグロウが突然身体をすくっと起こした。

「な、な、なんてことをしてくれたんだ」

 ジョッキを片手に、声を震わせながら言った。


「どう? 酔い覚めたでしょ?」オーキィがにこやかに告げる。


「俺が! 朝から! がんばって蓄積してきたふわふわした極楽気分を! 一瞬で台無しにするんじゃねえよ!」

 涙目で叫ぶグロウ。その耳をウィンディが容赦なく引っ張る。


「いててて! ちぎれるちぎれる!」

「良いから、さっさと支度して! それとアクセルはどこいったの!? まさかまだ街の外走ってる?」

「さっき、ちらっと見た気がする! たぶん汗かいて宿にもどってんだよ! ていうか耳から手離せよ!」


 わたしもウィンディたちに合流しようと掲示板を離れたその時、ギルドの入り口のベルが軽快に鳴った。

 金属鎧にマントまでフル装備したアクセルだ。すぐにでも冒険に行ける出で立ちで登場した。爽やかな笑顔で歯を光らせ、前髪をかきあげる。


「どうした皆? 緊急事態のようだぞ。早く動ける準備をしよう。フィンも奥で待ってるぞ」


 わたしも自身の格好を見下ろし、そして耳をひっぱったままのウィンディやグロウ、オーキィと視線を順に合わせる。皆、遊びに出た時のままの姿だ。

 その場は一旦解散し、装備を整える為に慌てて宿へ戻った。



「よう、思ってたより早かったな」


 ギルド奥の部屋では、マルチェロさんとドミニクさん、そして黒壇の机を挟んでフィンが座っており、その後ろで壁にもたれかかるようにアクセルが立っていた。

 収納袋にまとめてあるからわたしはすぐ準備が済んだけど、他の三人はまだ時間がかかっているようだ。

 わたしはフィンの隣に腰を下ろした。


「いまどんな状況なの?」


 わたしの問いに、フィンが簡単に答える。


「全員揃ったら詳しく話すが、たぶんまた竜がらみだ。西の湖が干上がった(・・・・・)ってよ」


「湖が干上がったぁ? 何をどうすればそんなことになるの!?」

 わたしがやれば……まあできなくはない気がするけど……。そんなの、神性の力でも無いと無理だよね。シルマークさんクラスの魔術師ならやってのけそうだけど、そんな人なかなか居ないと思うし。となるとやっぱりエンドレイク教団が関わってる、ということかな。

 

 フィンが軽く肩をすくめる。

「二度手間になるから詳しい話はあとだ。とりあえず、全員の到着を待とう」



 しばらくして、オーキィが愛用のメイスを携えて到着。白い修道服には似合わないはずなのに、不思議としっくりしてしまうのがオーキィだよね。

 オーキィから最近あったフィンの不幸話を聞いてるうちに、ほどなくウィンディもマントをひらめかせてやってくる。銀装飾が施された黒革ジャケットに灰色タイツとロングブーツ。クールでカッコイイ。

 最後に到着したのはグロウ。火打石や油、薬といった各種小道具を管理するポーチを複数ベルトにセットするのに加え、長剣以外にも弓やナイフなど色々用意しているため準備に時間がかかったのだろう。


 入室したグロウにアクセルが柔らかく注意する。

「遅いぞグロウ。もっと迅速にな」

「へいへい」

 あまり反省してなさそうなのがグロウらしい。酔いが醒めてなかったらもっと遅くなってただろうから、オーキィに感謝かなー?


 というわけで、全員揃った。

 マルチェロさんがぐるりと見渡し、手に持った書類の底を数回、机で叩いて揃える。


「では、皆さん揃ったことですし、状況説明をさせていただきます」

 凛とした声が室内に響く。落ち着いた声なのに、不思議と胸に響いてくる。


 こうして、わたしたちは再び竜にまつわる異常事態の真相へと踏み込むことになった。

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