第44話 石となりて残るもの
ガーランドの話からは、ノクの行方に関する決定的な情報は無かった。
ただ、話の中で『竜の覚醒』を促進している人物がいる、ということはわかった。きっとその黒幕のところにノクが居るんだ……。
険しい表情でうつむくわたしの肩に、手がそっと置かれた。
ふと見上げると優しそうに微笑むオーキィがいる。そして何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれた。
「まあ、なんだ。役に立たなくてすまないな」
ガーランドは居心地が悪そうに頭をぼりぼりとかいていたが、ふとその手を止めた。
「そうだ。気付いたことを一つだけ教えておこう。俺様が『加護』を授かる時、激しい頭痛で気を失っていたが、目覚めた時には竜の石像が砕け散っていてな。その中に入っていたのであろう脈打つ奇妙な鉱石がその場に転がっていたんだ。それに力——マナを流し込むことで鉱石が竜と化したんだ」
その言葉を聞いてわたしはバジルグラーヴから回収した脈打つ鉱石を収納袋から取り出す。
それを見たガーランドは驚いた顔で顎をさすった。
「おう、それだ。本当に倒してきたんだな。とんでもねぇやつだ」
竜の石像に仕込まれている鉱石。ノクも元は竜の石像だとじいちゃんから聞いたけど——ノクの体内にもこれがあるのだろうか。
アクセルが腕を組み、鉱石を見つめる。そしてそっと口を開いた。
「誰がマナを込めても竜化できるのか?」
ガーランドは首を横に振る。
「いや、無理だと思うぞ。俺様が授かった『加護』とかいう力は——説明が難しいんだが、『違う世界からマナを引っ張り出しているような感覚』なんだ。体内のマナでも無いし、周囲から引き出すマナでもない。この力がないときっと竜化はさせられない」
違う世界から引っ張り出す力……? それって権能と同じじゃあ……。
背筋に冷たい感覚を覚え、わたしは思わず鉱石をオーキィに手渡した。
一瞬きょとんとした顔を見せたオーキィだが、鉱石はそのまま彼女がポーチにしまってくれた。
権能と似た力。いったいどういうことだろう。元神さまってわけでもなさそうだし……神と同じ力を得てるということ? なにそれ? 何が起きてるの?
新しいことを知ったと思ったら、またわからないことが出てきた。
あぁ、こんな時にノクが居てくれたらなぁ。きっと良い助言してくれるのにな。ふと天を仰ぎ見る。
「俺様が話せることはこれぐらいだな」
そう言うとゆっくりと立ち上がった。
フィンが咎めるように慌ててガーランドの手を掴む。
「おい、お前は憲兵に突き出すぞ。逃げんなよ」
「はっはっは! そんなヒョロヒョロの手で俺様を繋ぎ止めれるのか?」
フィンが思わず手の力を込める。だがガーランドは全く意に介していないようだ。
アクセルとグロウが剣を抜いてガーランドを取り囲んだ。
「心配しなくても逃げたりはせん。だが、すまんが一つだけ約束を破る」
ニタリと笑うガーランド。——パキパキパキ。ガーランドの首筋から身体の表面を這うように白化が全身に広がっていく。
その異変に気付き、フィンが叫んだ。
「おい! 何が起きてるんだ!?」
ガーランドの身体が白く硬化していく。——これは、石化だ!
わたしとオーキィは慌ててガーランドに近寄り、状態回復魔法や治癒魔法を試すが、解除ができない。
ガーランドは『力』で自身の身体を石化させていた。
「はっはっは! 最後に全力で力を奮えて楽しかったぞ、貴様ら! だが、俺様はこの世界を許せそうにはない。だから、ここで醜い世界とは決別……せて……も……!」
頭まで硬化が進んでいき、ガーランドの言葉は途切れ途切れとなった。
フィンが握っていたガーランドの手首も白く硬く変化し、そこからはもう体温も感じられない。
——パキン。
最後に小さな音を響かせると、そこには真っ白な一体の石像が残され、そして静寂があたりを包んだ。
「くそが、満足そうな顔しやがって!」
フィンが荒々しく地面を蹴飛ばした。
石像は怒りでも悲しみでもなく、どこか晴れやかな顔で固まっていた。




