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見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る  作者: 通りすがりの冒険者


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第9話 『LONELY HEARTS』 ~フランチェスカの場合~


「このわからず屋! あんたなんかもう知らない!」


 些細なことでケンカしたフランチェスカは礼拝堂を出る安藤の背中に「バカ!(イディオータ!) アホ!(ブロ!)」と暴言を浴びせる。

 扉がぱたりと閉まると、フランチェスカが「フン! なによあんなカタブツ!」とずしずしと足音荒く定位置の長椅子へ戻ろうとする。

 扉が開かれる音がしたので振り向く。


「アンジロー?」


 だがそこにいたのはいつも参拝に来てくれる老齢の婦人だった。手には小箱を抱えている。


「あら? お邪魔だったかしら?」

「いえとんでもない! なにかご用でしょうか?」

「親戚から野菜が送られてきたんだけど、私たちだけじゃ食べきれなくてねぇ……それでフランチェスカちゃんにおすそ分けに来たの」


 見れば小箱の中はみずみずしいトマトが四つ入っていた。


「ありがとうございます! トマト大好きなんです!」

 「よかったわぁ」と老婦人が顔をほころばせる。


 フランチェスカが老婦人を見送るとふたたび箱に目を落とす。


 どうしたものかしらね……。


 腹の虫がくぅっと可愛らしく鳴った。


「よし!」


 颯爽と礼拝堂の横に通じるドアを開けるとそこは住居スペースだ。箱を持ったまま台所へと入る。

 冷蔵庫の扉を開けて中を確認しながら必要なものを取り出していく。


「えーとニンニクは……あ、あったあった!」


 ちょうどいいところにパンもあったのでそれも取る。

 片手鍋に水を入れて火をかける。沸騰するまでのあいだにトマトに十字に切れ込みを入れ、そのまま沸騰した鍋に投入だ。

 

「たしか、ここにあったはず……」


 棚からごそごそとハンドミキサーを取り出す。

 いい塩梅に茹で上がったトマトをフォークで刺して冷水で冷ましておき、次に皮を剥く。

 パンやトマトをダイス状にカットしたあとはミキサーへ。

 ついでニンニクをすととんと切ってこれもミキサーへと。最後にオリーブオイルをまわしかけてスイッチオンだ。

 具材がグラスの中で攪拌(かくはん)され、とろりとなったら塩で味を調えていく。

 試しに味見すると「うん! 上出来!」と満足顔。

 スープ皿に移して電子レンジで温める。チンと音がしたので取り出すとトマトの香ばしい匂いがフランチェスカの鼻腔をくすぐる。

 スペインの家庭的なスープ料理、サルモレホの完成だ。

 食前の祈りを捧げてからスプーンでぱくりと口に運ぶ。


「ん~~! 美味い!(デリシオーソ!)

 

 ぱくぱくと次から次へと口に運ぶとあっという間になくなった。


「はぁ……懐かしい味」

 

 ふとスペインにいる家族のことが頭に浮かんだ。厳格な(パードレ)に優しいママ、頭の固いクソ兄貴(エルマーノ)のこと……。


 じわりと目頭が熱くなるのを感じたので、目を擦る。

 

 アンジロー……。


「ひどいこと、言っちゃったな……バカとかアホって」


 今度彼が来たら謝ろう。そしていつか雌牛(バカ)ニンニク(アホ)炒めでも作ろうかしら?


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