45話:そして決意は強制される
お久しぶりです
体調ある程度落ち着くまで素直に寝る事にしてました
俺らは人が魔の森とか呼んでる森に棲む獣ッキ―。
俺らも他の動物達と同じく食わなきゃ生きていけないッキ―。
だから獲物を狩るけど、最近森に来た連中が厄介な奴らなんだッキ。
俺らが喰う獲物まで狩る癖に、奴らは俺らに必要な栄養とかいうのがないんだッキ―。狩るにしても反撃してくるから、損の方がデカいんだッキ―。
……仕方ない、面倒だけど森の外に狩りに行くんだッキ―。
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「最早猶予はならん!!」
ドン!と一人が卓上を叩くが、反応は鈍い。
まあ、それもそうじゃろうなとモルテン将軍は重い溜息をつきつつ思った。
「猶予はならんのは分かっておる。それでお前さんはどうするつもりなんじゃ」
「そ、それは……」
無能ではないから適当な事を言わんだけマシじゃな。
そう、打つ手がないんじゃよ、現状。
魔族の王都奇襲は痛かった。
当り前じゃが、あれで王都だけじゃなく他の都市にも一定数の軍の配置が不可欠になってもうた。各地の貴族達も在地貴族達は自分の領地の兵を動かそうとはせんし、こちらとしてもそれを要求する事も出来ん。連中が兵を手元に置いておるのが名目上は「領地の民を守る為」、大部分の本音は「自分の身を守る為」なのが分かりきっておるからな。
それを出せ、というなら「なら代わりの兵力を寄越せ!」となるじゃろう。
かといって、まさか貴族達を王都に集結させる訳にもいかん。それをやったら、兵士がいなくなった土地の民達は不安に苛まれるじゃろうな。「国は俺達を見捨てる気なのか!?」とな。
魔族は何とか撃退出来たが、国は民の蜂起によって滅びました、なんぞ笑い話にもならんわ。
「おまけに魔獣の活動まで活発になっておるからなあ……」
「奴らが操っているに決まっている!!」
「だとしても、防ぐ手段がないんじゃからどうにもならん」
こっちも頭の痛い問題じゃ。
最近、魔の森から以前以上に魔獣達が活発に出没して、襲撃を繰り返しておる。
お陰で、ただでさえ都市防衛のために削られた兵力を更に削られておる。
その癖、魔族共が魔獣に悩まされておる様子はない。目撃例では、魔族と魔獣がお互い戦闘を交わす事なくすれ違い、その後魔獣に一転して襲撃されたなんて連絡も来ておる。真っ当に考えるなら、何等かの手段で魔族が魔獣を誤魔化す手段を得たか、或いは操る手段を得たか……。
どちらであったとしても結果は同じじゃし、どうにもならんというのもまた同じなのじゃが。
更に大商人達がまとめて殺されたのも痛かった。
お陰で、流通が滞っておる。
軍の数を削られたのが直接的な怪我だとしたら、こちらは重大な出血といった所じゃな。どちらも放置すれば死ぬのは変わらん。
大商人達がその妻子や、長らくそこで働いていた経験豊富且つ様々な知識を持つ者達まで皆殺しにされたせいで、そうした商人達の店は潰れた。
運良く仕事を継いだ長男などが他都市に向かっていた場合は何とか続いておるが、そうした店でも実際に手足となって動く有能な者達を大量に喪失した事などに加え、王都を離れていた為に情報を得るのが遅れ、大商人に継ぐ中堅商人達に市場を奪われてしまって結局潰れた者もいる。
別の街にいたとして、それを知る店の者達は皆殺し。
国としても跡継ぎが他の街にいるかどうかを把握するより、国自体が絶賛混乱中。
他の街にまで王都が襲撃されたという情報が伝わって、そこから慌てて本店に連絡を取ろうとするなり、王都に戻るなりするまでにどれだけの時間がかかるか。あっという間に一月やそこらの時間が過ぎる。そして、その間にも王都が必要とする物資の量は膨大で、それを補う為に殺された大商人達ではなく、中堅商人達を数を動員して賄おうとする事になる。
そうした、これまで二番手に置かれていた連中にとっては恰好の逆転時じゃ。
しかし……国にとっては流通の混乱、市場の奪い合いによる商人達の熾烈な競争は害でしかない。かといって、強制的に止めさせるのも無理じゃ。なんせ、商人達にとっては成り上がれるか、没落するかの瀬戸際じゃからのう。
国としても中堅商人ばかり一杯おっても困るんじゃ。
なんせ、中堅ばかりでは「~が百欲しい」という時、大商人なら一人を選んで発注すればいい所を中堅や小さい商人ばかりだと十人二十人に発注せねばならん。
そうなると、「こっちから十、こっちから九つ、こっちから十一」と計算して割り振って、それぞれに発注の書類を出して、交渉し……やってられんよ、本当に。しかも、大商人なら一括で届く所が、それだと届く時期もバラバラ、梱包や品質もバラバラになりかねんというな。
つまり、今の王国はといえば。
軍はあっちこっちに戦力を取られて、対魔族に動かせる軍勢は当初のものより大幅に減少し。
経済は流通が何とかギリギリの所で動いている状態で、やっぱり軍を動かすには制限がかかり。
おまけに魔獣が活発化してるせいで、更に動かせる軍が減り。
うん、下手に動かした所で魔族に返り討ちになるのがオチじゃな。
(そうなるとやはり……)
それしかないかのう?
結局、若者に「死んで来い」と命じる手段しか……。
ふと前に魔の森に赴いた折に出会った「別世界の勇者」とやらに想いを馳せる。
……彼女の故郷の者達も同じ気持ちで送らざるをえなかったのじゃろうか。
やっとある程度体調落ち着いてきた、かな?
年、かなあ……




