41話:赤い夜6
「まだ奴らはいるのかっ!?」
「は、その……」
兵士が言いよどんだ直後に響いた轟音が未だ魔族がいる事を儂に教えてくれる。
儂ことモルテンは現在、王都に缶詰状態じゃった。
いや、分かっておるんじゃよ、何でこういう事になっておるかは。そしてまあ、それが結果的に儂の首を繋げておる事もな。
立場を放り出してほとんど単独行動で魔の森に向かった事で、儂の兵権は一時停止されておった。要は『今はこいつの命令聞くなよ!そういう罰受けてるんだから!』と告知されておる状態じゃな。だからこそ、今回の魔族の襲撃に関しても儂の責任は問いようがないという事でもあるんじゃが……。
兵士に命令出来ん以上、何故魔族の侵入を許した!という責任も問えん訳じゃ。お陰で、儂の地位を狙って、今回一時的に兵の管理を担っておった貴族(金を大分積んだらしいのう…)が窮地に陥っておる訳じゃが。 まあ、あやつは最低でも、将軍の位は今後絶望的じゃろうな。馬鹿な事を仕出かさんといいんじゃが……。
「あの爆発がある限りは下手に出る訳にはいかんからのう……」
「はい」
厄介なのはあの爆発がどの程度の威力があるかが分からんという事じゃな。
地面の破壊具合からおおよその威力が分かるだろうという奴もおるじゃろうが、魔法の中には対人に特化した魔法などもある。そうした魔法は生物相手には強烈な威力を発揮するが、物体に対してはほとんど効果がないという代物もある。
霧生和真、儂が魔の森で同行した我が国でも有数の治癒術師。
あやつから魔族が科学というもんを用いるのではないか、という話は聞いた。その中に爆発物に関する話もあったんじゃが……。
(参考には出来んな)
あやつがおった世界、生きておった時代より明らかに優れた技術を持っているというのは間違いないと言っておったからな。
あやつの時代では空想の、物語の中にしか存在しなかった武器、もしくは完成はしていてももっと大型の武器であったというものをあれだけ小型にして使う以上、和真には未知の何かを持っていたとしてもおかしくはない。
そして、それが人にとって致命的なものであったら……。
「だめじゃな」
「はっ?」
「いや、街の救援に兵を出せんかと思うたが、下手な憶測で出す訳にはいかんと思うてな」
なるほど、と兵士も頷いた。
街の救援に兵を出すべきでは、という声も結構でかいんじゃがな……などと考えておった時じゃった。
「えっ!?」
「どうしたっ!!」
「門がっ!!」
慌てて確認してみれば大門横の通用門が開かれつつあった。
大門は開け閉めに時間がかかる。夜間などに急用があった時などにいちいち開けておったら時間がかかる。それ故に大門の傍には通用門がある訳じゃが、今そこが開かれつつあった。それと共に通用門用の橋も展開される。こちらは大門と異なり折り畳み式だが素早く展開可能な橋じゃ。
誰じゃ!?この状況でそんな事をするのは……いや、まさか。
「あのバカ……!」
儂の代わりに兵士の管理責任者の立場にあったバカ貴族がおった。
そういや、まだ正式には儂の兵権戻ってなかったんだったわい。この状況じゃからなし崩しに兵が従っておっただけじゃし、正式にはまだあやつが指揮官じゃからなあ。兵はあやつが命じれば従わざるをえん。
それに、城内。
このままやられっぱなしでいるつもりか!と叫ぶ連中もおるじゃろうし、轟音のせいで寝れんなどと言い出すバカだっておるじゃろう。もしくは真っ当に何とか街の救援に兵を出せないのかと言ってくる奴もおるじゃろうし……あーうん、何人もそういう圧力かけてきそうな連中が頭に浮かぶわい。
儂じゃったら、そんなもん王の命令でもなけりゃ無視するし、王も命令出す前に一言こっちに確認して可能かどうか聞いてくれるんじゃがなあ……。
ただでさえ夢に見た将軍の地位が目の前からするりと逃げたばかりのあやつがそうした貴族連中の後押しを得て、「名誉挽回、汚名返上の好機」と見た可能性はおおいにある。
兵を出すかの判断は最終的には将軍、もしくはその兵権を持つ者にある。今はあやつが兵を動かす権限を持っておるという訳じゃな……。
「止めなくていいんですか?将軍」
「仕方なかろう、今、儂は謹慎中じゃ」
そういやそうでしたね。
今思い出したとばかりに口にした。というか、忘れておったという事にして命令聞いておった可能性もあるかの?
「まあ、あいつらには悪いですがどうなるか確認させてもらうとしよう」
あやつが成功したならそれはそれでよし。
成功した所で今回の特大の失態を拭える訳ではないが……。
兵達の事が気にならん訳ではないが、「今は私が指揮官です!」と言われたら、儂反論出来んからの。今から王に謹慎処分解除のお願いに走っておる間に出撃終わっておるじゃろうし。もう、ここは開き直って、結果を見てから行動するしかあるまい。
眠い……眠くて頭が重い……
寝直します




