37話:赤い夜2
和真が負傷者相手に戦をしている頃、診療院の周囲でも異常が起きていた。
ズン!
と爆発音が響き、複数の冒険者が吹き飛ばされた。
幸いだったのはこの時対象となったのがいずれも怪我で冒険者としては引退したとはいえ、それなり以上の腕を持った強化術師達だった事だろう。咄嗟に長年の経験がもたらす勘に従って、強化を発動させた事で吹き飛ばされはしたものの、軽傷にとどめたからだ。
これは既にこの時点で運ばれてきた者の内、まだ意識のあった冒険者が轟音と共に攻撃があった事を伝えていたからだった。
「くそっ、こっちにも来やがったか!!」
「守りを固めろっ!診療院に入れるなっ!!」
誰もが魔族に対して怒りを抱いていた。
冒険者ギルドや他の施設に攻撃し、今ここ、診療院が攻撃されている理由を誰もが理解していた。
魔族達はそちらで怪我をした者達が運ばれるのを待ってから、ここを襲撃したのだと!
今、診療院の中は怪我人であふれかえっている。そこへ魔族が入り込んだりしたら、どうなるか……。ろくでもない光景が広がるのは考えずとも分かる。
「外道共めっ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
キンッ、と。
澄んだ音を立てて、刃が交わされた。
(ちっ、こいつもこういう裏の技をある程度覚えてるって事か!)
カイラは鋭い視線を前方の魔族に対して向けていた。
冒険者ギルドに駆けつけた者の内、確かに少なからぬ者が奇襲攻撃によって傷を負った。だが、全員ではない。
一部の優れた腕を持つ者は防御に成功したり、或いは幸運にも爆発に巻き込まれず無事だった者もいた。カイラは前者に属する。
だが、冒険者ギルドも万一の際の避難所としての性質も持つが故に頑丈に造られており、攻撃を受けつつも陥落していないと見て取るや、自身も離脱を図った訳だが……。
(まさか魔族と鉢合わせしちゃうとはね……)
角を曲がった先でばったりと偶発遭遇したのが三名で構成される魔族の部隊だった。
どうやら、彼らは少数に別れて、移動を繰り返しつつ攻撃を行っているらしい。
一箇所に留まらないで移動を繰り返し、適時攻撃を行う。その際、複数の部隊が連携を取りつつ、互いにかち合わないよう動く。少し考える頭があれば、彼らがいずれも厳しい訓練を積み、実戦でそれを磨き上げた精鋭である事はすぐに分かる。
だからこそ、カイラも彼らを見逃すつもりはなかった。
そんな相手が王都に入り込み、今こうして攻撃している。味方ならば心強い仲間となるだろうが、敵として考えるなら恐るべき相手だ。ここで少しでも減らしておけば、いや、減らさないといけない、そう考えての行動だったが、予想外の事があった。
(こいつらッ!強化魔法や暗視を全員が身に着けているとでもいうのッ!?)
強化術師である彼女の攻撃はベルクトのそれとは違い、速度や鋭さに傾いている面はある。
ベルクトがパワーで固い相手をも押し潰し、叩き斬る戦士であるように、彼女は鋭く相手の急所を突く盗賊だ。それだけに速度に関してはそれなりの自信があるし、ベルクトには劣るとはいえ力でも他の魔法の使い手を上回るはず。
(それなのにッ!!こいつ私の動きについてきてる!!)
正確には速度は彼女の、カイラの方が上だ。
だが、きちんと見失う事なくついてくる。そして厄介な事に……武器では相手の方が上だった。
(こっちの武器だって数打ちではあっても一級品よ!そりゃあアシュタールが持ってる国宝級の代物には劣るけどッ!)
僅かな振動を発しているのは分かった。
だが、それで何故高熱を発しているのか。
武器を「強化」して何とかもたせてはいるものの、逆に言えば強化しなければまともに打ち合う事すら出来ない。
おまけに妙な鎧に全身を包んでおきながら、音もろくに立てないし、鎧としては十分なレベルの頑強さ。暗視能力もあるとみて間違いない。
(他の連中は大丈夫なの?)
ベルクトとアシュタールは診療院の護衛に向かったはずだ。
病院が狙われたら悲惨な事になるからという事で向かった訳だが、カイラがここにいるのは情報を集める為だ。
とにかく生きて脱出しなくてはならない。奴らに援軍でも来られたら厄介だ。当初は倒すつもりだったが、今は逃げる隙を伺うと最初とは立場が逆転したカイラだった。
高速振動ナイフに、パワードスーツ、スターライトスコープ
こんなとこでしょうか?(なにが?




