27話:門
科学兵器を用いる魔族。
彼らの本拠地と思われる所は割と近かった。もしかしたら、近くまで迫られたからこそあそこまで執拗に追撃したのかもしれない。本拠地の場所を知られた可能性がある、って時点で逃がす訳にはいかなかったんだろう。
まだ見てないかもしれないが、見てるかもしれない。
可能性があるなら追撃をかける理由としては十分だ。
「なんじゃあれは」
モルテン将軍が呆気にとられたような声を出している。
気持ちは分かる。
野戦陣地というのかな。それはまだ分かるだろう。
塹壕だの土嚢だのは分からないかもしれないが、それが何を目的にしたものなのかは分かるはずだ。
問題はその陣地の中央。あれが魔族がここにいる理由だろう……。
歪んだ虹色の靄。
そう呼ぶしかない物がそこにあった。
何となく、だが。おそらくあれが魔族達の世界に通じるものなんだろう、とは分かった。
だけど、異世界への門と言われてイメージするような物理的な門だとか、或いは綺麗な円形の門とはまるで違っていた。
常に不定形で蠢くアメーバのような代物で、虹色と言ってもどことなく濁ったような印象を受ける到底綺麗とは言えない色だった。むしろこう、なんだ。見ていると何か不安になるというか……空にかかる自然の虹は綺麗でも、河が何かしらの汚染で虹色に染まっていたら綺麗とは到底思えないだろう。そんな印象を受ける色だ。
「妙に不安にさせる色じゃの」
「同感です」
モルテン将軍にアシュタールも同じらしい。
いや、周囲の連中も黙って頷いている所を見るとみんなの気持ちは一つ、という奴だな。やな一つだけど。
「でも、あれが魔族が出現してきた……ええと、仮に門と呼びますが、魔族が出て来た出入り口なんでしょうね」
「じゃろうな」
剥き出しのままだが、理由は分かっている。
門というか靄自体が蠢いているからだ。
上や左右にも広がってまた縮み、果ては靄自体が多少ゆらゆらと動いている。
これだと余裕を考えれば相当大きな建物を建築する必要があるだろう。それに門自体が成長したりする可能性を考えると……それこそドーム球場並の施設が必要じゃなかろうか?そんなものがそうそう簡単に作れるとは思えない。どう考えても兵士の宿舎とかの建造が最優先になるだろう、って事ぐらいは俺にだって分かる。
「うーむ、しかし、あれを何とかせんといかんのか?」
「周囲を守る兵士をどう突破するのか、というのもありますね……」
うーむ、頭が痛くなるな。
とはいえ、俺に出来る事はない。
銃やレーザーライフルとしても、だからどうだって話なんだよな。あれぐらいなら風系攻撃魔術である雷撃魔法と大差ない。怖い事に、腕のいい強化術師兼戦士なら雷撃を斬れる。多分、レーザーであってもぶった切れるだろうな。
防具だってさすがに魔獣の頑丈さに比べれば何とかなるだろう。
結論として、この世界の連中だと銃だの防具だのは関係ない。彼らにとって重要なのは全員が均一した攻撃が可能って事ぐらいか。
そうなんだよな、俺に出来る事ってこうした戦いじゃ何もない。
……もしかしたら、俺が住んでる王都も戦場になるかもしれない。そうならないために奥さんや子供を守りたいと思って、アシュタールの誘いを受けてこうしてやって来たが出来る事は本当に少ない。
でも、それをやっていくしかないんだよな。
「とりあえず引き返すぞい。奴らの本拠地を確認した。今はそれで十分じゃ。この後、帰還した奴らの報告を受けて警戒が強まる可能性は高いからのう」
この近辺まで偵察部隊が来ていた。
偵察部隊が一つだけとは思えないから、念の為に警戒が強まる訳か……。
(でも、帰還したって事は通信機とかはないって事か?)
どうにもチグハグだな、魔族の奴らの武装……。
武器は科学兵器を持っているのに、馬らしき動物を使っていたり、通信機がなかったり妙にアナログな所もある。
あー……でも、そういうのってどっかで見た気もするな。
具体的にはモヒカンとかひゃっはーとかそういう系統ので……うん、野営可能な場所に到着して、落ち着いたら少しそうした話もしてみよう。
主人公、軍人や軍オタではなかったので一般的な本レベルの知識しかありません
なので、推測もこの程度かな




