26話:考察
暑い
とても10月の気候とは思えない……!関西在住ですが8月下旬から9月上旬並の気温っておかしくない?
ほう、と誰ともなく溜息が洩れた。
さすがにあの追撃戦の状況では全員でついていけるものではない。間違いなく、その途中でこちらの誰かが魔族に感づかれる。
『翠の狩人』達は隠れる事など考えもせずに、全力で逃走を続けている。強化術師と移動術師の技量を駆使した命がけの逃走劇に、こちらの姿を隠しつつ追跡するというのは難しい。そこで移動術師であり、そうした隠れながらの行動にも長けたアシュタールだけが追跡。俺達は隠れて待っていた訳だが……。
「そうか、無事逃げ切ったか」
「ええ、見事なものですよ」
モルテン将軍とアシュタールの会話に安堵していた。
俺達だってあいつらが死ぬ事を望んでいた訳じゃないが、同時に下手に助けを行う事も出来なかった。
そもそも最初に「契約」として敵に発見された時にもし、味方を見つけても助けを請わない、助けない。この二点はきちんとその理由を含めて説明され、その上で引き受けていた。
冒険者にとって依頼と契約は重要だ。
そして、冒険者ギルドはそうした依頼内容と契約を護る「信用性」も込みで今回のメンバーを選出していた。
(『翠の狩人』はとことんプロフェッショナル気質だからな。下手に助けたりしてたら却って後で怒ってただろうなあ)
むしろ、彼らを囮に魔族の本拠地を見つけ出す事。
それこそが彼らに報いる行動となるはずだ。
……依頼は冒険者の誰かが成し遂げれば均等に支払われるしな。まあ、個別に功績上げた奴に特別報酬が支払われるかもしれないが、俺達がこの後無事魔族の本拠地を発見出来れば結果として囮となった『翠の狩人』にも何かしら支払われる可能性は高い。
彼らの為にも俺達は俺達の仕事をするべきだ。
「さて、それではわし等も動くか……奴らは?」
「追撃を諦めて、帰還するようですね。事情の説明も必要でしょうし」
少数の、森での行動に慣れた狩人を狩りだすのは難しい。
一度見失ったとなれば尚更だ。
おそらく、魔族の奴らはこの後ただちに報告に戻るだろう。どのような結論を下すにせよ上役にこのまま黙っているとは思えない。
(だけど……)
どうにも気になる。
俺も短時間だが、魔族の奴らが攻撃する所を見た。
周囲が杖と呼んでいたアレは間違いなく……。
(銃、だよな)
それもレーザーガンとかそういう類の。
銃弾ではなかった理由だが、可能性としては二つ。
一つは奴ら自身の事情。
銃弾となれば発射機構はレールガン的な機構を使えるかもしれないが、毎回弾丸という物資を消耗する。そして、弾丸という奴は多数持てばこれが意外と重さが馬鹿にならない。一発辺りの重さが20グラムだとしても100発持てば2kgになる。
そして、俺のいた世界の銃器でフルオートなんかしようものなら100発程度あっという間に撃ち尽くしてしまうだろう。
更に補給。一人辺り100発と仮定しても十人の部隊で20kg。魔族連中の軍勢を1000名とすると全員に100発の弾丸を支給するだけで2トンもの弾丸が必要になる計算だ。実際には更に多数の、それこそ銃弾だけでトン単位での補給が必要なはずだ。しかも、現実には弾丸だけで済む訳がなく……もし、重砲に相当する兵器があるなら更に砲弾の運搬まで入って来る。これに食料やら水やらまで加わる。
現代の戦闘で補給部隊が大きな役割を果たすのは伊達じゃない。
銃弾をレーザーガンとかに変えて、それが簡単な、例えば携行式のソーラー充電器みたいなものがあるならその分運搬能力を他に回せる。それが一つ。
二つ目はこの世界の魔法への対策。
魔獣という驚異に対抗する為に人は魔法を使う。強化術師は鎧や肉体の頑強さを大幅に高める事が出来、治癒術師は結界を張る事が出来る。
……果たして通常の銃弾で彼らを貫く事が出来るのだろうか?
火薬発射式の銃の場合、火薬の威力を高めれば威力は増大するがその分、反動で扱いは難しくなる。強化服なんかで反動を抑え込むにしても限界があるだろう。銃弾を重くするという手もあるが、それは余計に補給線に負担をかける事になる。
レールガンにも結構色んな欠陥があったはずだし、それらを考えて安定して強化術師に打撃を与える事が出来、尚且つ反動のない光線兵器を使っている可能性はある。
問題はどういう兵器なのかだよな。
SFなんかも込みで考えるならレーザー、プラズマ、ビームとか色々あるし、レーザーなら光だから散らす事が出来れば或いは、ぐらいしか対策方法が思いつかん。
何より、もし奴らの武器が手に入ったとして、どう整備すりゃいいのか、とか発射されてるのが何なのか、とかさっぱり分からん。下手に言って現場を混乱させない方がいいだろうなあ……。
けど、あれが科学兵器だとしたら……。
(魔族の奴らってまさか未来人とか、科学が発展した人類とかか?)
いや、でもだとしたら話し合いとかせずに皆殺しって……もしかして、蛮族とか見下してて、劣等人種は皆殺しだーみたいな事になってるのか?
そう決めつけるのは拙い、拙いけど……くそっ、情報が足りないな……。
電磁を利用した兵器だと一般にコイルガンとレールガンがある訳ですが、兵器としては初速の関係でレールガンが一般的みたいですね。コイルガン形式は徐々に加速する、リニアモーターカーに用いられているとか
後者の場合は必要電力がレールガンより少ないというのも乗物としてはいいんでしょうね




