25話:狩人達の逃走
久方ぶりの投稿です
やっと体調が落ち着いてきました……
Cランク冒険者グループ『翠の狩人』。
彼らはいずれもベテランの狩人の集団だった。
元々、故郷で狩人の子として生まれ、次男三男だった彼らは街へ出てその力を活かす為に冒険者の道へと進んだ。
冒険者となってからも主に害獣の駆逐や狩り、食肉の調達といった依頼で腕を磨き、やがて魔獣の討伐を行えるだけの力を蓄え、それでも親から教わった事を守って獣に止めをさすその瞬間まで奢る事なく着実に依頼をこなしてきた実力者だった。
だからこそ、彼らは魔の森という危険な場の探索にも抜擢され、依頼を受けたのだった。
そんな彼らが魔族の追撃を受ける事になったのはこれはもう運が悪いとしか言えなかった。
魔獣との戦いも下手に騒動になって魔族に気づかれないよう奇襲と不意打ちで手際よく仕留めるか、或いはやりすごし、夜間は軍隊の行動しづらい傾斜地を用いてキャンプを張るといった具合に慎重に進んでいた『翠の狩人』だったが、遂に魔族の動向を掴み追跡を開始したのだが……。
彼らの一人が事故で滑落したのだ、これが。
片方が緩やかな傾斜地であり、馬らしき生物に乗って移動していた為、『翠の狩人』達はその傾斜地に生えている植物に姿を隠しながら追跡していた。
動物に乗って移動している以上、好き好んで傾斜地を歩く事はあるまいと判断しての行動であり、それは間違っていなかったのだが、地盤が緩んでいたのか魔族の一人が突然崩壊した地盤に巻き込まれる形で傾斜地を滑落。よりにもよって移動中の『翠の狩人』の一人と激突したのだった。
せめて、滑落した当人が意識不明になっていればまだ何とかなったのかもしれないが、生憎防御装備が有効に働いたらしく意識を保っており、特に大きな怪我もしていなかった相手とばっちり目があってしまった。
後はもう説明するまでもないだろう。
警戒の為の小部隊とはいえれっきとした軍隊を相手どるつもりの一切ない『翠の狩人』は即座に撤退を決定。
罠を駆使しつつ、後退を続けていたのだが予想以上に食い下がって来る相手に未だ振り切れずにいた。
「くそっ、しつこい!」
『翠の狩人』のリーダー格であるナモンはそう毒づいた。
彼自身は強化術師だ。
他は同じ強化術師が二名と移動術師、治癒術師がいて、攻撃術師はいない。今は残り二名の強化術師の内一人が治癒術師を抱え、一人が移動術師の護衛役を行いながら後退を続けている。ナモン当人はその弓の腕を活かして足止めをしつつ、護衛役の一人が手際よく仕掛けた罠を使って後退を繰り返している。
それなりの痛手を与えての脱落者が出たのか、或いは報告に回った伝令がいたのかは分からないが、当初よりは相手方の数は減っている。それでも執拗に追いかけてきていた。
可能性としては……。
(案外、俺達は既に奴らの本拠地近くまで来ていたのかもしれん)
だとしたら、ここで確実に仕留めておこう、おかないといけないといけない判断した相手の気持ちも分かる。
『翠の狩人』達はきちんとここまでの道程をマッピングしており、案内を求められたなら再びこの場所へと戻って来れる自信がある。
そこまでは確信を持っていないにせよ、本拠地近辺まで来ていたとするならば、彼らからすればこう考えるだろう。
『既に本拠地の場所を突き止められたかもしれない』
そう考えるなら「生きて帰す訳にはいかない!」と考えるのも当然かと考え、苦い顔になる。
手早く仲間達にそれを伝えると彼らも一様に苦い表情を浮かべた。
「だとすると奴ら諦めんだろうな」
「しつこいのも道理だよ」
口々にそうぼやく。
それでも諦めるような事は口にはしない。
「攻撃来るぞ!」
光の弾丸が飛来する。
魔族達の攻撃手段は魔法の杖と思しき短い杖と長い杖。おそらく長い杖の方が性能が良いのかより強力な攻撃を放ってくる。無論、これ以外にも何かしら強力な魔法を持っている可能性は高いが今の所使ってくる気配はない。おそらく、足を止めて詠唱なり準備なりする必要があるのか、或いは自分達のようにちょこまかと障害物を利用しつつ動き回る相手には向いていないのか。どちらにせよ、それを自分の体で試したいとは思わない。
飛来する光の攻撃は火系の攻撃魔法か、風系の攻撃魔法に似ている。
速度は雷に似て速く、熱を感じる所は炎のそれに似ている。
ただ速度を重視したせいか、誘導性はない。射線を見切れば回避も可能だが、それを数で補ってくる為、幾度か命中も受けている。
それでも強化術師である彼らならば耐えられる。治癒術師を先に後退させ、火傷のような傷が深くなる前に運び役を交代して、治癒を受ける。移動術師は拙いと思えば護衛役が盾となって受け止める。
(もう少しだ、もう少し進めば……)
じりじりと見当をつけていた場所へと後退する。
途中でそれまで行動を共にしていた移動術師を先行させ、強化術師二人で足止めを図る。
ここが踏ん張りどころと理解しているから、ケチっていた矢弾も惜しみなく振る舞う。
「よし、合図が来た!退くぞ!!」
「おう!!」
隙を見て、一気に身を翻し、駆ける。
一瞬の間を置いて相手も追いすがって来るが、やがて彼らの視界に崖が見えてくる。強化術師である彼らでもそのままでは飛べない幅の河が大地に彫り上げた傷跡。その岸から躊躇いなく飛び出す、その直前に対岸にて待機していた移動術師から転移魔法が飛ぶ。
『大跳躍×2!!』
移動の補助を得意とする転移魔法の中でも基本の一つ。名前も単純明快なそれは跳躍による移動を補助し、通常の跳躍の倍以上の跳躍を可能とする魔法だ。
ただ跳躍距離を伸ばすというそれはシンプルながら使いやすい。これによって、ナモン達は軽々と彼らだけでは跳び越えられない幅の崖を超える。そのまま対岸にいた移動術師の体を抱え上げ、走る。
ちらと見た後方では、魔族達が崖の前で立ち往生する姿が見えた。
これによって『翠の狩人』達は見事全員が大怪我を負うことなく魔族の追撃を逃れる事に成功したのだった。
遅くなりました
風邪は落ち着きましたが、夜勤明けの眠気による頭痛に負け、途中で頭痛薬を飲んでバタンキュー
少しずつ元の調子を取り戻していきたいと思います




